第47話 要りません

宰相はともかく、国王は会場に居なくてはいけないはずなのだが、あの会場に居た国王は元から偽物だったのだろう。


「右手ですね、少しばかりお待ちください。」


だが今はそんな事を気にしている場合では無い。

嫉妬の紋章を隠すために右手に掛けていた魔法を解く。


「なるほどなぁ、やはりお前は大罪だったか。

しかも罪を克服しているときた。やったなミゲアル、新しい同士だ。」

「それにしては少し力が弱すぎる気もしますがね……」


予想以上に軽く受け入れられている。

何を言ってるのか理解出来ておらず大罪と聞いて少し焦ってるミナを除き、ここにいる者は大罪を知っているし、持っている。

国王が傲慢、宰相が怠惰だ。


「まぁ、大罪というだけで貴重な戦力になることは間違いありませんね。」


そもそも大罪の力には、克服した者と力に操られている者の2種類が存在している。この2人は前者で知識のカリル・ディカマンは後者で、能力的には克服した者の方が強くなる。


知識の中ではカリル・ディカマンが2人と親密な関係にあるとは明言されておらず、その理由は克服していなかったからだと予想していた。

つまり克服した覚えのない私は2人から接触されるとは思えず、特別な魔法薬を作り出し献上することでなんとか関係を作ろうと考えていた。


2人の様子を見ると、予想は良い方向に外れてかなり良好な関係を築けそうではある。


「ミナと言ったか?

いま食事を用意させるから少し離れていてくれ、我々は君の主であるディカマン伯爵と話さなくてはいけない事がある。」

「は、はい!」


鈴を鳴らしメイドを呼び寄せ命令すると、直ぐに料理が用意され先程まで緊張で固まっていたはずのミナは目を輝かせ離れたところで食べ始めた。

幸せオーラがこっちまで流れてきている。


これで大罪しか居ない私の運命を左右する会話が始まる。


「……絶滅危惧種のような存在だな。」

「えぇ、今どき珍しいほど天然な存在ですね。」


もしかしたら処刑されるかもしれない、そんな風に考えて覚悟を決めていたのだが、


「さてと、ディカマン伯爵は私の隣に立つべき2人目の友となる。

我々は王と貴族という関係を超え、上下の無い、真の友として共に歩んでいきたいと私は考えている。」

「もちろん私もそう考えています。」


さらに想像の上を来た。

なんらかの事を問い詰められると思っていたのに有効的で、しかも配下としてではなく、共に並ぶ者として迎え入れられるなんて思わなかった。


「どうだ?」

「正直に言って、実感が湧かないと言うべきでしょうか……

光栄な事ではございますが、貴族としてどうしたら良いのか、分からないのです。」


考えてみて欲しい。

所属する国の絶対的な存在である王にこれからは私の横に並ぶと良い、急にそう言われても困ってしまう。


「ふむ、それもそうか。

私とミゲアルはともかく、ディカマン伯爵とは歳が離れすぎているからな、残念だが仕方ないか。」

「……」


ちょっと違うが、まぁ概ね合ってる。


「では友になるのは後々という事で、これから王の側近になるディカマン伯爵が悩んでいるであろうイーウェル公爵家を消しましょうか。」

「そうだな、そうするか。」

「?!」


ミゲアルの一言で私の悩みの対象であるイーウェル公爵家が無くなる事が決まってしまった。


「何を驚いているんだカリル、後継があんなのになる可能性が高い家より大罪を克服した者を優先するのは当然だ。」

「イーウェル公爵家の取り潰しは確定として、公爵とあの娘はカリルのストレス解消に処刑でもしますか?」


急に名前呼びに変わり、軽いノリで公爵を処刑という言葉まで出てきた。


「消すのは確定なのだが不安要素が多くてな、あぁカリルにも私の能力の1つを説明しておこう。」


同じ大罪だからと内側に引き込みでは無いかとも思ったが、知識の中でも国王はこんな性格だったなと思い出し深く考えない事にした。


「簡単に言えば私は所有物の情報を全て把握できる。」


所有物の情報の把握?


私が持っている知識で国王は魔法鎧を装着して無手での物理攻撃をする戦闘スタイル。

年齢に対して異常なあの身体能力が傲慢の能力だと思っていたのだが、登場しなかっただけで他にも能力があったようだ。


「もちろん欠点はある。

私の国に存在して所属して暮らしている者の情報で国から出てしまうと情報の更新が止まる事、そして大罪のような特別な力を持つ者と周囲の情報も更新されない。」


なるほど、つまり私が大罪を手に入れた時点で情報の更新が止まり……

待て、私がこの世界の知識を得た事を情報として知っているとしたら国王も私と同じ視点を手に入れているという事に?!


「それを踏まえて不安要素を教えよう。

この国の貴族で私が知らない家は3つ、我が友のヴァレーゼン公爵家、新たな同士のディカマン伯爵家。

そして不安要素のイーウェル公爵家。」

「なるほど……」


確かに情報が全く無いというのは最大の不安要素。

そして私が知る限りイーウェル公爵家に大罪に匹敵する特別な力を持つ者は1人だけ、この世界の主人公だ。


「王と私で何度か公爵領は調査していますが大罪の気配は無く、今日のパーティーでようやく判明しました。」

「それはノラ・イーウェルのパートナー、ですか?」

「その通りだカリル、流石は我々と並ぶに相応しい者だ。」


私は知識で予め主人公の存在を知っていたからで、褒められてもカンニングをしてしまったような気分になった。


「私の傲慢を防ぐ力はどんな効果なのかわからないが、大罪が3人も居ればどうとでもなる。

問題はあの無駄に広い公爵領をどうするかだ。」


赤石病の影響で生産性が著しく下がり、仮に赤石病が解決しても直ぐには元に戻らない無駄に広い土地、それが公爵領。

お取り潰しになった貴族家の領地は基本的に周囲の貴族に分割されるか、王族の直轄領になる。


「……カリルよ、あの土地はいるか?」

「要りません。」

「だろうな。」



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