第46話 呼び出し

会場は先程までの祝いムードだけで無く、ある程度事情を知っていたであろう貴族の者達から困惑しているような言葉が聞こえてきた。


そんな中を堂々と歩く2人。

いや図々しくと言った方が正確だ、歓迎していた貴族達も困惑している貴族達に引っ張られ様子を見ることにし、会場には少し不穏な雰囲気が充満し始めた。


「か、カリル様……」

「大丈夫だ、何も心配いらない。」


私達も周囲の貴族から見られているような視線を感じた。

詳しい事情を知らぬ者達は婚約者として何か知っているのかと注視しているだけ、ようは野次馬のような物だ。


ミナが不安がってるから即辞めさせたいが、流石にいま声を出す訳にはいかない。


「イーウェル公爵令嬢、ノラ・イーウェ──」

「もう良い、横にそれたまえ。」

「……失礼致します。」


国王に雑な扱いをされ周りの貴族から嘲笑されている。

このパーティーでは主役が令息、令嬢でまだ未熟な部分も多いとして国王や上位貴族に対する多少の無礼は許されている。


そんなパーティーで国王から雑に扱われるのはよっぽどであり、それが上位貴族の公爵家に属する者であった事も嘲笑の多さの原因だろう。


「イーウェル公爵は跡取りの教育に失敗したと見えますな。」

「赤石病の対応に掛かり切りだったのでしょう。」

「「ハハハハ。」」


小さな会話だがあちこちでイーウェル公爵家を馬鹿にする会話が行われている。


カン!


騒つきが大きくなりつつあったとき、宰相が床を杖で小突いた音が響き貴族達の話し声が止まった。


「お静かに、まだ未来の王国を背負っていく若者は残っています。

続きを。」


宰相の一言により会場の空気が再び真面目な物へと変わった、これがカリスマというのだろう。


「は、はい!

続きまして──」


今回はイーウェル公爵家が貴族の中では最高位、次は王族の王子と王女の2人だ。


王族に限り複数人いる時は2人同時、つまり今回は4人で入場する事となる。

それは次期国王が誰になるのか候補者として争っている事を考慮し、順番によって差ができる可能性を消すためだ。


「王子アクト・ヴェンガルテン様、同時に、王女メルデナ・ヴェンガルテン様の御入場です。」


王族の2人の子供、主人公と同時期に学院に入学した影響か、元から本人が持っていた気質かは分からないが革命軍に入る2人だ。


国王の前まで歩いた4人のうち、王族のみが国王の前に残りパートナーは横に抜ける。


「我が息子、我が娘よ。

己が優秀さを私に示し、この国をより良い方向へ導くのだ。」

「「王族の血に恥じぬよう、日々精進致します。」」


その言葉を聞いた国王が立ち上がり、会場に居る貴族達は頭を下げた。


「今宵は良い日だ。1つの家を除き貴族家の未来は明るく、我が国がこれからも繁栄をし続ける事ができると確信した!」


国王が合図をすると会場の扉が開き、机と多くの料理が運ばれてくる。


「これから同じ派閥の者達と朝まで語り合うも良し、貴族家同士の繋がりを作るも良し、事業の話をするも良し、自由に過ごしたまえ!」


貴族の当主達に手際よく酒が配られていく、受け取った者は顔をあげ国王を真っ直ぐ見つめている。

もちろん私も受け取っている。


「この国の未来に!」


最後に国王と同時に酒を飲み干し本格的にパーティーが始まった。

といってもさっき国王が言っていたように基本的に、人との交流を目的とした立食パーティーだが今回はかなり緩い。


何をしても自由、仮に国王の挨拶が終わった後に帰ろうとしても特にお咎めはないのだ。


もちろんそれは建前で本気で帰る馬鹿は居ないが……


「カリル様。」

「どうした?」


貴族達が派閥同士で固まったり、上位貴族に擦り寄ろうと挨拶を始めている中、私もそろそろ動こうかと考えているとミナが話しかけてきた。


「あの、食べてきてもいいですか……?」


会場に運ばれてきた食事はとても美味しそうだが貴族達は手を付けていない。

まだ始まったばかりで直ぐに手を付けようとするのは恥ずかしいと思い、誰も手を付けようとしないのだろう。


貴族家との関係を築くためにも、ここは心を鬼にしなくてはならない。


「あと30分ほど我慢をして欲し──」

「ディカマン伯爵様、お話中失礼致します。」


ミナに残酷なお願いをしている最中、1人のメイドが声を掛けてきた。

王城のメイドが貴族の会話を遮るほどの用事など、片手で数えられるぐらいしかない。


「宰相様がお呼びしております、案内いたしますので私に付いてきていただけますでしょうか。」

「わかった。」

「ぇ……」


美味しそうな食事を前にお預けが確定してしまったミナが悲しそうにしている。


「もちろん御連れ様もご一緒に。」

「うぅ、はい。」


罪悪感が、凄い……


移動する途中に小声で食事を少し持ってきてもらうように頼む、メイドは何も答えなかったが頷いてはいたので伝わっているはず。


「ディカマン伯爵、いま少し良いかな?」


会場に複数ある扉のうち1つに入ろうとした瞬間、顔色が悪いイーウェル公爵が話しかけてきた。

だが、


「申し訳ありませんイーウェル公爵様、現在ディカマン伯爵様は宰相であるミゲアル・ヴァレーゼン様に呼ばれておりますので用事はその後にお願い致します。

では行きましょう。」


案内役のメイドが素早く間に入り、公爵と私達を突き放した。恐ろしいと思うほど手際が良い。

流石の公爵も宰相の名を出されてしまい引き止めることは出来なかったようだ。


扉が閉められ騒がしいパーティーの音が急激に小さくなり、どこか寂しい気持ちが湧き出てくる。


「こちらの部屋になります。

申し訳ありませんが私は扉を開ける権限を持ちません、ディカマン伯爵様に頼まれた物も他の者が持ってまいります。」

「そうか、案内ご苦労。」


あまり広いとは言えない廊下を2メートルほど進んだ先にひとつの扉があった。


「ディカマン伯爵です、入室してもよろしいでしょうか。」

「入るといい。」

「失礼致します。」


部屋の中には私を呼び出した宰相ミゲアル・ヴァレーゼン公爵、そして、


「よく来たなディカマン伯爵、早速だがお前の右手を見せろ。」


カリウス・ギヨーム・ヴェンガルテン、この国の国王が私を待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る