第44話 素晴らしい

ミナと食事をした素晴らしい夜から2日、ついにパーティーの日になってしまった。


「おはようございます。」

「あぁ、おはよう……」


ミナの1番の友達だというメイドに濡れたタオルを受け取る。


昨日の夜は覚悟を決めて気持ち良く眠りについたはずだったのだが、朝になるとそんな気持ちは一切残っていなかった。


「ミナと共に行きたい……」

「……!」


あの婚約者が父親に抵抗してくれれば、こんな気持ちにならずに済んだのに……

公爵は主人公を連れて来なかったらしいし、私のパートナーは婚約者になってしまうだろう。


「本日の御予定ですが──」

「すまない、それ以上は言わないでくれ……」

「かしこまりました。」


わざわざ嫌な現実を見せないでほしい。


「ん?」


下の階が少し騒がしいな。

ただ私が警備のために召喚している魚達が動いてる様子はないし敵では無さそうだが、こんな朝から何を騒いでいるんだ?


「どうかなさいましたか?」

「下の階が騒がしくて、少し気になっていただけだ。」

「騒がしい、ですか?」


あっ、やってしまったな。

私は嫉妬の力で聴力が強化されており聞こえているが、普通の人にはこの騒がしい声は聞こえていないみたいだ。


「少し行ってみましょう。」


見られても恥にならないよう身嗜みを軽く整えてから、メイド共に下の階へと降りる。

その途中、騒がしい声は足音に変わっており段々と近づいて来ていた。


「カリル様!」


足音の主は伯爵家の護衛、その中に1人見慣れない鎧を着た者が混じっている。

胸の辺りに刻まれている紋章を見る限り、公爵家の者だ。何しに来たんだ……


「どうした、そこに居るのは公爵家からの連絡係だろう?」


不機嫌を隠す事なく公爵家の者を見ると、少し前に出て跪いた。


「イーウェル公爵閣下よりディカマン伯爵様に伝言を預かっております。」

「……少し待て。」


伯爵家の護衛達が周辺に散らばり聞き耳を立てている者が居ないかを確認しにいき、一通り確認を終えたあと連絡係に話すように促す。


「実はノラ・イーウェル様が行方不明となりました。」

「!」


よし!私は信じていたぞイーウェル嬢、よくぞここでやらかしてくれた!


「寝室に置き手紙があり、内容はパーティーには参加するから心配しないで、と書かれていたそうです。

それと公爵閣下からパーティーが終わったあと謝罪に伺わせて頂きたいとのことです。」


パーティーには参加する?

これがパーティーの前日なら帰って来ると判断してもいいが、当日にこれは帰って来ないと判断した方が安全だ。


というか、帰ってくんな。


「わかった。

公爵閣下に昼までに見つからなかった時は、パートナーはコチラで用意すると伝えてくれ。」

「……かしこまりました。」


連絡係が立ち上がり帰ってゆく。

何故かキラキラしてる視線を向けて来るメイドに指示を出す、ほぼ間違いなく必要になるパートナーの代わりであるミナの服装を用意してもらうためだ。


「まだ着付けには入らなくていいが、服装の準備だけは進めてくれ。」

「かしこまりました!」

「それと──」

「行ってまいります!」


まだ伝えたいことがあったんだが、まぁいいか。


次に護衛達、


「お前達はイーウェル嬢を探してくれ。

本気で見つける必要は無い、あくまで探索に参加していたという結果が欲しいだけだ。」

「「かしこまりました。」」


なるべく伯爵家側がに非があると言われそうなことを減らしていく。

護衛達が駆け出していき、指示出しは終了。


残った私に出来ることは、奴が帰って来ないことを祈るだけ。


ーーーーー


結果から話していこう。

まず当たり前のようにノラ・イーウェルは見つからなかったし帰って来ず、パートナーはミナに頼むことになった。

素晴らしいの一言に尽きる。


「どうですか?」


ドレスを着たミナはとても魅力的だった。

ミナの背後でやり切った表情で倒れているメイド達が、ミナの存在感が大きすぎて全く気にならない。


「綺麗だ。」

「あ、ありがとうございます!」


それ以上の言葉は出て来ない。

いや、正確には言葉がミナの美しさを邪魔するため言うことができないのだ。


「では向かうとしよう。」

「はい。」


ミナに手を差し出しエスコートを始めて、2人で馬車に乗り込み5分ほどの短い移動だ。


「……」


向かい合うように座ったミナの体は硬っており、表情からもかなり緊張しているのがわかる。


何回かパーティーに出席している私も緊張しているのだ。

そもそも貴族では無く、パーティーにも出た事ないミナが緊張してしまうのも仕方ない。


まぁ初めてのパーティーな重要な物であることも重荷になってしまっているんだろうが……


「大きいな……」


王城の門が近づいて来るのを見て私は気持ちを切り替える。集中力を高めろ、今から向かう場所は戦場なのだから。


やっとここまで来れた。



ふと思ったのだが嫉妬伯爵としての私はこのパーティーに出席できたのだろうか?

婚約者に対する執着がなくなった私はミナをパートナーに出席できたが、知識の嫉妬伯爵ではノラ・イーウェル以外がパートナーとして立っているのを想像できない……


もし今回のパーティーの件が嫉妬伯爵になるキッカケだとしたら私は嫉妬伯爵と呼ばれる事は無くなるだろう。

だけど問題は山積みだ、何故か公爵が婚約破棄をさせてくれず、あと少しで原作が始まり、マリアの様子は少しおかしい。


「招待状を確認いたします。」

「ディカマン伯爵家だ。」

「……はい、確認いたしました。待機室へご案内いたします。」


関わる必要のないイベントは無視するが、どうしても無視できない物も多い。

それに嫉妬伯爵関連のイベントは全て無くなる可能性が高く、その影響で今後どうなるか予想ができない。


だが、信頼しているボスコを筆頭に信じて付いてきてくれている使用人達と、


「王城ってお水まで美味しいんですね。」

「そうか?」


少しアホっぽい事を言っているミナを守るためにも、私は全力で伯爵家を守ろう。

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