第42話 地獄から天国へ
なんて少し怖かった時間がありつつも、メイド友達と宿に戻ってお土産を整理したあと、カリル様をお迎えする準備を始めます。
といっても、殆どは宿の方々がやってくれるので私達のやることは、メイド服に着替えるのと軽いベットメイキングぐらいです。
「ん?」
適当に宿を歩いていると、先程のように軽く人が集まってました。
「これ何があったんですか?」
「うぉぉ?!なんだミナか、脅かさないでくれ……」
偶然その集団に居た伯爵家の護衛に声を掛けて事情を聞きました。
なんでも、白昼堂々と衛兵を殴り倒し貴族様に狼藉を働いた男が逃亡中なのだとか。
王城で行われるパーティーも近く、多くの貴族が集まっており、このような不審者を放置する訳には行かないので怪しい男が現れた時の対処法を同じ宿に泊まる貴族様の護衛さん達で話し合っていたらしい。
「私その男を見ましたよ。」
「はぁ?!
大丈夫だったのか?」
「はい!」
そんな会話を聞いていた護衛さん達にどんな奴だった!と問い詰められ、私の知る限りの情報を話しました。
事情とかは可哀想だけど子供が悪かったって事、 男については顔が隠れてて姿はよくわからなかったのと、かなりの実力者っぽい事を伝えました。
「なるほど、警備体制を強化するべきだろう。
宿の人にも事情を話してチームで深夜に巡回をするのはどうだ?」
「ふむ、良いかもしれないが俺の仕えている主人は護衛が俺を含めて2人しかいない、すまないがあまり協力は出来ない。」
一通り話終わったらまた護衛さん達で相談し始めたので私は戻ります。
「それでは!」
「おう、情報ありがとうな〜。」
情報ってほどの事は言えてない気がするんですが、感謝されると気持ちがいいです。
それにしても、なんであの男の人は衛兵さんを蹴ったのでしょう?
この王都では能力が全て、戦闘系の技能でも、生活を豊かにする技術でも、鍛治師としての技術でも、何かしらを磨いて自らの子供に継承する。
受け取った子供は継承した物を更に磨き上げて、自らの子供に継承するもの。
あの子供にも何かしらの技術があった筈、王都は能力を持つ人には支援が貰えますし、それは子供でも例外じゃ無い。
私はあの子供の事情を知らないので確定では無いですが、少なくとも楽な方に行ったのは間違いないと思う。
王都での生活は私達のような平民には夢のような物です。
今日1日過ごしただけで私もここに暮らしたくなるぐらいですし、あの子供は王都を出たくなかったんじゃないかな?
まぁ子供については全て私の想像ですが、相手が貴族様じゃ無かったとしても盗みを働くのは絶対にダメ、衛兵に捕まるのも当然です。
あの男もこの国に住んでて王都に入れるぐらいですし、それはわかる筈なんですけどね……
「ミナ〜、カリル様が帰って来るって!」
「直ぐに行きます!」
私はそんなどうでもいい考え事を頭から削除して、カリル様をお迎えする準備を始めるのでした。
ーーーーー
ついに地獄の食事会兼しょうもないティータイムが終わった。
公爵は何故か始終ニコニコして気持ち悪いし、ノラ・イーウェルは無表情だし、私は表面上は和やかな雰囲気を出さないといけなかったし、貴族家同士の親交を深めるための場とはとても思えない地獄だった。
「「お帰りなさいませ。」」
あぁ癒しだ。
伯爵家の使用人が近くにいると心が浄化されていく気がする。
「これからのご予定は何かございますか?」
「特にはないが、疲れたから休む。」
「「かしこまりました。」」
嫌な相手と長時間いたせいか何もしたくない、何もしたくはないが……
1つだけやらないといけない事があったな。
「待て、ミナには少しお願いがある。」
「へ?」
「服装はメイド服でも良いが新しい物に着替えてくれ、終わったら私の部屋に来るように。」
「……へ?」
反応が少し鈍いが、少し横になるためにも部屋に向かう。
背後ではメイド達がミナに頑張って!と言っていたが、呼び出した理由はナーミスの教育を乗り越えてくれたお礼と必要無さそうな事に対する謝罪だから頑張る事はないぞ。
ただの食事だしな。
公爵との食事は緊張とストレスが味がわからなかったからな、美味しいのは間違いなかっただろうが食べた気がしなかった。
ちなみにミナを連れていく場所の候補はもう決まっている。
知識の中でとあるイベントで使用されていた隠れ家的な名店だ、2人組が1回の食事で大金貨1枚が吹っ飛ぶが私も行ってみたかったし問題はない。
「お待たせしました!」
「……早いな。」
部屋に戻って軽く身体を伸ばしていたらメイド服から変わったミナが部屋に入って来た。
想像以上に早かったが、まだ微妙に明るいから行ってしまおう。
「では行くぞ。」
「えっと、どちらにですか?」
「共に食事をしに行くんだ。
ナーミスのキツイ教育を乗り越えたミナに対する、ご褒美みたいな物だ。」
「あ、ありがとうございます!」
ミナから楽しみだというオーラが溢れ出る。
……ここは天国だろうか、不幸なオーラを出す公爵家の奴等と比べて、幸せオーラが充満するここは天国だ。
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