第41話 不満気
イーウェル公爵家とディカマン伯爵家の馬車が王都の貴族専用門の前にある列に並んでいる。
公爵の作り出した婚約者同士の地獄の馬車の中、王都までの長い道のりの間は一度も話すことは無く、お互いにストレスが溜まるだけの時間が過ぎていった。
だが今は終わりが見えた事もあって少しずつ空気が軽くなっている。
コンコン
「誰だ。」
「ヴェンガルテン王国第二騎士団の者です、ディカマン伯爵様に入場する際のサインをいただきに参りました。」
「少し待て。」
この国の王都は警備面に力を入れており、王都外に住む平民や王国の貴族と関わりの無い商人は身元を保証してくれる者が居ない限りは入れない。
貴族位を持たない者の基本的な身分証明になる冒険者ですら、全体の20%しかいないCクラス以上でしか入る事を許可されない。
人の出入りを厳しく管理するため王都に暮らす者は基本的に王都で一生を過ごす事が多く、生活を守るために自らの技術を磨き続けている。
そのため王国は他国から見ても数世代先の優秀な技術を持っている。
「ディカマン伯爵様、会えて光栄です。
早速ですが、こちらにサインをお願い致します。」
フルプレートの鎧を着た騎士の持つ紙へサインをする。
「失礼ですが、そちらの御令嬢は……」
「あぁ、彼女は「イーウェル公爵家の長女、ノラ・イーウェルです。」……」
私が婚約者とでも紹介すると思ったのか割り込んできた。
「なるほど、ではディカマン伯爵様が身元保証人として問題はありませんか?」
「えぇ……」
「ご協力感謝します、それでは。」
ここで保証しないと言ったらどうなっていたのか少しだけ気になる、王都に入れずに泣きながら帰るのかな?
騎士が去るのと同時に馬車が動き出した。
「ねぇ。」
「……なんです?」
「このあと御父様が食事に誘うと思うのだけど、来る?」
珍しく話しかけて来たと思えば、来るな、とでも伝えようとしているのか?
「誘われれば行くでしょうね、流石に公爵閣下のお誘いを断るのはなかなか難しいので。」
「そっ。」
……怪しすぎる。
明らかに自分でも嫌なはずの食事の話をわざわざ始めたのに、何も要求せずに会話を終了。
何かやらかすんじゃ無いだろうな?
公爵家が勝手に自滅するならいいが、私達を巻き込んでくれるなよ?
王都で問題を起こせばお互いがタダでは済まない。それはノラ・イーウェルもわかってるだろうし、大きなやらかしは無いだろうが……
「「はぁぁ……」」
少し空気が良くなっていた馬車の中は再び悪くなり、2人の溜息が同時に溢れた。
ーーーーー
「ミナちゃん!王都って凄いね!」
「そうだね!」
こんにちはミナです!
ナーミス先生の地獄の授業を乗り越えた私は、カリル様がパーティーの相手に困らないよう王都へと来ました。
王都に入って宿泊する場所に辿り着いた私達はカリル様に自由時間を与えられました。
なんでも公爵の野郎がカリル様を食事に誘ったらしく、断れずに暗い目で行って来ると言ってました。
辛そうなカリル様を見てしまい私もあまり楽しむ気分じゃなかったのですが、メイド友達に誘われて王都散策に行く事になりました。
そして、
「見て見て!」
「それはなんですか?!」
「う〜ん、フワフワのお菓子?
甘いから少し食べてみなよ。」
「……!甘い!」
めちゃめちゃ楽しんでしまってます……!
カリル様が頑張ってるのに、私は遊んで楽しんじゃってます……
「お金使い過ぎちゃいそう……」
「今回の特別手当が多いから大丈夫じゃないかな?仮に我慢するとしても〜、ミナは王都でしか食べられないスイーツを我慢できるの〜?
カリル様は優しい方だけど、王都には滅多に来ないし、私達が王都に入れるのは最初で最後かもよ〜?」
「うっ……」
そうです。
あくまで私はカリル様の付き添いとして王都に来れただけのラッキーメイド、また王都に来たいと思っても簡単には来れない。
それなら!
「今日だけは楽しんじゃおう!」
「じゃあ次は噂のアイスクリーム食べに行こ!」
「行こー!」
こうして王都をエンジョイする事になりました!
スイーツを食べたり、珍しいお土産も選んで、伯爵家の使用人という事で服を自由に試着したりと、とても楽しい時間を過ごしました。
「そろそろ戻ろうか。」
「だね〜。」
太陽が沈むまではまだ時間がありますが、カリル様は夕飯には戻ると言っていたので私達も戻って仕事の用意をしないといけません。
「あの人だかりって、なんだろう?」
宿への帰り道で人が集まっている場所があり、なんとなく見て見ると、お世辞にも綺麗とはいえない服を着た子供と貴族様が揉めているみたいでした。
「貴族である私から金を奪おうとするとは!」
怒っている貴族様の雰囲気的に、子供は物取りでそれがバレて衛兵の人に捕まってしまったみたいです。
他の街ならともかく、治安が比較的良い王都では珍しい光景です。
境遇は不憫に思いますが、盗みはダメです。
「ねぇ、あまり気持ち良いものじゃないし、もう行こう……」
「そうだね。」
帰ろうとした時です。
子供を取り押さえていた衛兵さんがフードで顔を隠した男に蹴り飛ばされました。
「何者だ!」
「幼い子を虐めやがって……」
その男の声は呟くように言っていましたが、不思議とこの場にいる全員に聞こえました。
衛兵さん達が男を警戒する中、男は子供を抱き抱えて走り出し、
「待て!」
それを衛兵達が追いかけて行きました。
辺りに集まっていた人達は衛兵達を見送ったあと、少しずつ解散していきました。
「ねぇミナ、早く帰ろう、少し怖い。」
「う、うん!」
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