第38話 準備期間
王家から招待状が届いてから数日が経った頃、私は研究室の中で喜びで震えていた。
「よし!」
鮮やかな緑色の液体の入った瓶、それは王家との繋がりを作るための魔法薬、やっと完成したのだ。
知識の中でありとあらゆる状態異常を治すことのできる物で回復系の魔法薬の中でも上から2番目に高い等級に位置する。
ちなみに最高等級の魔法薬は作成不可能で呼び名はエリクサー、それは死者を甦らせることも可能らしい。
知識の中では減った体力と全ての状態異常を回復している描写しか無く、死者を甦らせたことはない。
「だけど、失敗作が8個か……」
嫉妬の神殿にそこそこ大量の素材があったおかげで、5個は作る事に成功したが8個は鮮やかな色を失い失敗作となった。
必要素材は大半が揃っているものの、1番レアな物が既に尽きており追加で作るのは暫く不可能だろう。
「5個のうち2個を王家に、流石に全てを提出するのは辞めておいて……」
求められれば提出するしかないが、おそらくあの王様はそこまで求めてこないはずだ。
そこまで考え終わり、私が書いた作成方法が書かれた書物と完成した魔法薬をアイテムBOXへとしまう。
失敗作は廃棄では無く、私の研究材料として使用する。
かなり高級な必要素材を大量に使用した失敗作は、色々と研究するうちに知識にない方法で何か別の魔法薬が完成するかもしれない。
椅子に座り次に作る魔法薬について考える。
やはり状態異常の次は体力回復を……
「……そういえば何が違うんだ?」
知識では回復系の魔法薬は大きく分けて2種類、自らの体力を回復する物と状態異常を治す物。
今回作成したのは後者、毒や麻痺などはもちろん過去に負った傷による身体の不調を全て回復できる。
だが前者である体力を回復する魔法薬は傷を癒すことができ、等級が上がるにつれて治す事のできる傷は増える物。
だが、それに加えて毒の治療も可能だ。
簡単に言えば、体が癒されないのが状態異常を治す物で、体を癒してある程度の毒まで消せるのが体力を回復する魔法薬となっているのだ。
となると後者は前者の、
「完全な劣化か?」
この世界での回復系の魔法薬については、どこまでの毒を消せるのか、どれだけの傷が治るのか、色々と要検証だ。
「そうだ、材料が違ったやつもあったな。」
ふと思いつき、次の研究は現在伯爵家で量産している回復系の魔法薬より効果の良い物を作成する事にした。
効果的には伯爵家当主のみに伝わっている方法で作った魔法薬と同等なのだが、材料の無駄を省くことができ、実際に成功すればかなりのコストカットに繋がる。
材料を刻み、大きなフラスコへ入れて加熱。
あとは暫く放置。
本来なら魔力を込めたり、適切なタイミングで材料を追加するのだが知識ではこれで出来たし、急ぎで作っている訳でもないので試しで作ってみる事にした。
これで私ができる仕込みは終了だ。
あとはパーティーに行って王族と関わりを持つだけだが、暫くは王都に滞在する事になるだろうし屋敷の事は出来るだけ把握して問題が起きないようにしておかないといけない。
連れていく使用人の選定もしなくてはな。
屋敷をフリーにする訳にはいかない、伯爵家はボスコに任せるとして、当主代理はマリアに、ナーミスにもサポートを頼んで……
「歩いて連れていく使用人を探すか。」
真の意味で信用できる者で連れていくのはミナのみ、他の者達は技術面で選んでも良いかもしれない。
「待てよ?」
ミナに聞いた方がいいか?
基本的に使用人達同士の関わりが多いだろうし、私には特に連れていく者達にこだわりはない。
「ナーミスのところだったか。」
ミナはパーティーの作法をナーミスに教わっているはずだ。
向かおう。
ーーーーー
「……」
ミナとナーミスが居る部屋に辿り着いた私は光の無い目でボーッと外を眺めているミナを発見した。
ナーミスは優雅に紅茶を飲んでいる。
「何があったんですか?」
「少し疲れてしまったようで、目標の大体半分ぐらいは達成したので現在は休憩中です。」
「そうか。」
私が部屋に入っても何も反応しないミナ、恐らくだが地獄を見たのだろう。
どのようなスケジュールで教わったのかはわからないが、ナーミスの教育ってかなり辛そうだし逆によく逃げ出さなかったと思うよ。
「あ、逃げましたよ?
魔法で速攻捕まえましたが。」
「……そうか。」
私の考えていることを察したナーミスが紅茶を置き話し出した。
「お仕置きとして調きょ──教育の濃度を濃くしてからは全く逃げなくなったので安心してください。」
楽しそうに笑うナーミスを見てノールの女王様化は遺伝だった可能性が高いな、と私は思った。
「そんな事より、カリル様はどうしていらっしゃったのですか?」
「実は王都について来てもらう使用人を選ぶためにミナに意見を聞きに来たんだ。」
もっとも、あの状況のミナにこれ以上の負担は与えたく無いし聞くことはないだろうが。
「よければノールでも連れて行きますか?」
「は?」
「ふふふ、あの子には我慢させ続けたので少しでも楽しい思い出を作ってあげたいのです。
それにベルトナ家が健在の頃に居た私ならともかく、あの子はベルトナ家が没落してからの人間ですしバレる心配は限り無く薄いと思うのですよ。」
……正気か?
親としての気持ちはわかるが、流石に貴族が集まる王都に連れていくのはなぁ……
「考えておこう。」
「良かったです。もし連れていくと言っていれば、ノールを連れて此処から逃げていましたよ。」
危機感を持たせるためだったのか?
いや、多分だが本音ではあるんだろう、私があまり考えすぎないように冗談だと言った説が高い。
王都から帰って来たら、信頼できる者達で少し出掛けるのもいいかもしれないな。
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