第37話 ナーミス先生
「さて、やるか。」
カリカリ
ペンを走らせる音が部屋に響く。
「……」zzz
これからの方針は決まったがミナが起きるまで書類を片付ける。
簡単なものから少し面倒なものまで伯爵家の当主ともなれば毎日大量の仕事がある。
管理してる街と村の状況、新しい政策、など色々とあるがその中でもトップクラスに面倒なのは、公爵家関係。
「やばい、もう殆どの仕事が終わってしまった。」
ボスコが殆ど片付けてくれていたおかげで私がしたのは、ほぼ書類に目を通して判子を押すぐらいだった。
後回しにしようと思っていた公爵家への手紙を書かなくてはいけなくなった。
まぁ、事務的な手紙を書けばいいだろう。
パーティーが始まる1週間前に公爵家を訪ねること、そして最後に楽しみにしているとそんな事は一切思っていないが真顔で書きくわえる。
「んぇ……?」
ソファの辺りから変な声が聞こえて視線を向ける。
「起きたか。」
「えぅ、おはようございますぅ……」
なんだろうか、寝起きでフニャフニャしているミナを見ていると気分が浄化されていくようだ。
これが癒しというものなのだろう。
コンコン
「ボスコです。」
「入れ。」
連絡を終えたボスコが戻ってきた。
「これから2時間後に来れるそうです。」
「了解した、ミナも起きたし準備を始めるとしよう。」
「それとナーミス様にも声を掛けてミナの教育を頼みました。1週間で見られても恥ずかしく無い程度までには作法を叩き込んでくれるとの事です。」
流石はボスコだ。細かいところに気が効くな。
ミナはメイドでパーティーに参加する為に作法を教えないといけなかった、しかしナーミスの教育か……
「私の為にも頑張ってくれ……」
「ん、はぃ!」
それにしても、まだフニャフニャだが大丈夫か?
寝起きは弱いのか、朝ミナに会った時は基本的に息切れしていて不思議には思っていたが謎が解けたな。
「では私はミナをナーミス様の元へ連れて行きます、何かあれば手元のベルでお呼び下さい。」
「わかった、私は此処か研究室に居る。」
「かしこまりました。」
そのままボスコはミナに立つよう促し礼をして外に出る、それを見たミナは幼い子供のような礼をして出て行った。
「さてと、薬を完成させるか。」
どのタイミングで王族と関わるかは考えていたが、今回のパーティーは王へと直接挨拶する機会がある。
とてもウザい公爵家に1発当てる為にも、パーティーまでに全て準備を終わらせてしまおう。
ーーーーー
「はっ!」
「やっと目が覚めましたか?」
「えっ、あれ?ボスコさん?」
おかしいな。
私はカリル様を待つために書斎の前で立ってたはずなんですが、なぜかボスコさんと廊下を歩いています。
「相変わらず朝が弱いのですね。
いや、弱いでは説明できない程の現象を私は見ましたよ。」
「えへへ。」
「褒めておりません。」
同室になったメイド仲間にも言われました、『朝のミナは、なんというか……幼いね。』って。
意味わからなかったけど、私の意識がハッキリすると何故か近くに居た人が落ち込みながら『もう戻っちゃった……』ってハッキリした事を残念そうにしながら言ってるし悪い事じゃ無いと思う。
多分……
「貴方はそのままカリル様の近くに居てあげてくださいね。」
「……?」
「いえ、わからないのならそのままで良いのです……
それより、心の方は大丈夫ですか?」
心の方、まぁメーナさんのことだろう。
あの時は事態が私に理解できないくらい早く進んで、全て終わった後にメーナさんが裏切り者だった、って事だけ理解したんですよね。
メーナさんを眠らせた時のカリル様が怖くないと言えば嘘になりますが、そんな感情よりもカリル様が辛そうにしていたのが1番記憶に残って……
いや、1番記憶に残ってるのは手を繋いで屋敷に戻った事でした。
「その様子なら大丈夫そうですね。」
「うっ、はい……」///
よくよく考えれば1番記憶に残ってるのが手を繋いだ事が良かったのかも?
もちろんカリル様のことも大事なんですけど、私的には辛い側の記憶より嬉しい側の記憶が1番だったおかげで、普通に過ごせているのかもしれないです。
というか、
「何処に向かってるんです?」
「貴方がカリル様とパーティーに出る可能性があるので、ナーミス様に作法を教えてもらいにいくのですよ。」
「え?」
えっ、カリル様とパーティー?
「貴族として参加しなくてはいけない王家主催のパーティー、パートナーが必須ですがカリル様の婚約者は逃げる可能性があるので万が一に備えてミナに出てもらうと、先程カリル様の書斎で説明されたでしょう。」
聞いてないんですけど!
いや、正確には記憶に無いんですけど!
「さぁ、着きましたよ。
カリル様の為に頑張るのです。」
「は、はい。」
扉を開けた先にはナーミス様とノールちゃんが居た。
ノールちゃん机に突っ伏してるけど大丈夫かな。
「ミナさんお久しぶりです。」
「久しぶりです!」
ゾクッ
挨拶した瞬間に息が苦しくなった。
「あ、ぇ……」
「これから私が貴方の教育を行います。
伯爵様に報いるため私は貴方に全てを教えるつもりでいます。それをどれだけ自分の物にできるかは貴方次第で伯爵様が恥をかく可能性もあります。」
「!」
私のせいでカリル様が恥をかく?
そんなの絶対に嫌だ。
こんな圧に屈していてはダメだ、ナーミス様と目を合わせる。
「良い顔です、では早速始めましょう。」
「はい。」
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