王族主催のパーティー
第36話 招待状
「……」
ナーミスとの会話はとても辛かった。
拷問と言った方が適切な会話はボスコへと報告してナーミスの元へと向かってから、次の日の昼間まで続いた。
「ぁぁぁぁぁ……」
私の横には同じく燃え尽きたノールが目の前の食事にも手を付けず机に突っ伏していた。
「カリル様とノールは食べないのですか?
この『豚肉』とてもとても美味しいですよ。」
「「……」」
普段の素晴らしいテーブルマナーは見る影もなく、伯爵家のシェフを脅して作り上げた豚肉のステーキをナイフで刺しながら食べていた。
どうやら私が豚を逃したのは正解だったようだ、逃していなかったらこのテーブルの上にあったのは見るも無惨な豚の体になっていたかも知れない。
コンコン
「失礼致します。
カリル様に緊急のご報告です。」
「あぁ、今行く。」
「ぇ……」
ノールの件では味方してくれなかったボスコに呼ばれ、この場を離れる事が可能になった。
燃え尽きていたノールから視線を感じるがそちらを見ずにボスコの所へと直行、裏切るようで申し訳ないが元を辿ればノール自身のせいだからな。
「カリル様には感謝しておりますが、娘を変態にするつもりはないので、今後なにかあれば直ぐに教えてくださいますね?」
「……勿論です。」
部屋を出る直前、とても冷たいナーミスの声が聞こえた。
ちなみにだがナーミスがノールの女王様化を知ったのは世話を頼んでいるメイドからだったらしい。
これは裏切りとして粛清対象になるだろうか。
「それで緊急の報告とは。」
「実は先ほど王家から手紙が届きました。」
「!!!」
王家からの手紙、赤石病の報告書の返信は既に来ているし、何かしらの依頼か報酬の話だろうか?
だが知識にはそれっぽい事は無い……
色々と考えながら書斎へと入る。
「……」zzz
「手紙を。」
「こちらです。」
渡された手紙には王家の紋章とディカマン伯爵と書かれてあり、私が手紙を開く手は緊張で少し震えていた。
『王国を支える貴族達よ。
今年も次代の王国を支える者の交流会が近づいてきた。』
そう始まった手紙、それは貴族家の次期当主を発表するパーティーへの招待状だった。
3年に1度行われるパーティーで、特定の年齢の貴族が参加しなければ今後の貴族としての地位が危ぶまれてしまう重要なパーティー、ディカマン伯爵家では私が特定の年齢だ。
「なるほど……」
開催日は1ヶ月後で3日前から王都で滞在できるように宿泊先も手配されているようだ。
そして、
『パートナー必須。』
このパーティーは次代の貴族達の顔合わせと関係を作りだすのが目的であるため、基本的には婚約者と参加する。
「アイツが大人しく私と来るか?」
パーティー当日にノラ・イーウェル公爵令嬢の隣には主人公がいる姿が容易に想像できてしまう。
知識にはこのパーティーの事は一切無かったから絶対とは言えないが、私がわざわざ公爵家に迎えに行ってから王都へ向かおうとしても居ない気がする。
「ほぼ間違いなく来ないかと。」
「だろうな、私もそう思う。」
「ではパートナーはどう致しますか?」
どうするか……
まだ婚約者が決まって居ない他の貴族令嬢に頼むのもいいが、一応は婚約者であるイーウェル令嬢を迎えには行くつもりだし、仮に私の予想が外れていたら貴族の間で私の悪い噂が流れる。
迂闊に他の家に頼むわけにはいかない。
「……」zzz
「そう言えば書斎に入った時から疑問に思ってたんだが、なぜミナは此処で眠っているんだ?」
部屋に入った時に1番最初に気づいていていたんだが害は無いと無視していた事、ミナが大きめのソファで丸くなって眠っていた。
「カリル様が戻られるのを書斎の前で一晩中待っていたようで、今日の朝に私が確認した時に座り込んで眠っておりました。
そのままでは体を痛めると思い、そこに寝かせておきました。」
「なるほどな。」
基本的にボスコは私とこの部屋で仕事をしているし、ミナを見守るという意味でも書斎に入れたんだろう。
待てよ?パートナーにミナ連れていくのはどうだ?
まず前提として妹のマリアは年齢制限で不可能、ノールはベルトナ家だとバレる可能性があるから不可能、残る候補は……
「ボスコ、ミナをパートナーとして連れて行こうと思うんだがどう思う?」
「いざという時に臨機応変に対応しやすいので、かなり良い案かと。」
問題はミナに万が一の時の備えとして共にパーティーに出てくれと頼みづらい事。
お前は予備だ、と伝えるのは流石に気が引ける。
「……」zzz
それにミナ自身も不愉快だろう……
だが、
「仕立て屋を呼んでくれ。」
「かしこまりました。」
今はミナを頼るしか無いな。
ボスコが書斎から出て、室内は私と眠っているミナの2人だけになる。
「……」zzz
可愛らしい寝顔だ。
知識を得てからミナと共に過ごすことが増え、それが当たり前のようにも感じつつあったが、冷静に考えれば、どうしてメイドという立場で此処まで私に支えてくれるのかわからない。
仕事ではある、だがその仕事程度で命令されていない自己判断で寝落ちするまで部屋の前で待機などするだろうか。
「感謝する、これからもどうか私に仕えてほしい。」
眠っているミナには聞こえないだろう、それでも私はそう伝えていた。
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