第33話 選択肢

「これは酷いな……

助けてやりたいんだが申し訳ない、私の店にはこれだけの症状を解決させる薬は無いね。」

「そんな……」


2日間寝ずに弟を背負いながら歩いた私を待っていたのは薬が無いという残酷な現実でした。

大きな街で多くの薬屋があったにも関わらず、何処に行っても、助かりません、無理です、としか言われず、教会にも行ってみたけど今は回復魔法の使い手が居ないらしい。


「大丈夫だよ……」


生まれつき身体が弱かった弟、まだ話せない頃に両親が居なくなって苦しい思いを沢山した。

それでもたった1人の家族、絶対に失いたく無い。


「この街で怪我をした少年の治療法を探している少女が居ると聞いたのだけど、それは君かな?」

「……誰ですか。」


街を歩き続けて太陽が沈み始めた頃、黒い服を着た男が私に話しかけてきた。


「君には選択肢がある。」


急に現れた怪しい男へ警戒しながら話しかけてみましたが、男は私の言葉を無視して続けました。


「希望の見えぬ底なしの絶望の中そこの少年を見送るか、私の手を取り自らは人形のように扱われるとしても少年を助けるか。

どちらでも好きな方を選ぶといい。」



ーーーーー


「男から聞かれたら選択肢で、私は人形のように扱われたとしても弟を助ける事を決めました。

その後は誰でも予想できるような流れだと思います、薬の代金を払ってくれた男が公爵家の人間で私はスパイとして訓練を半年だけ積んだあと伯爵家に潜り込みました。」


……そうか。

なんというか、メーナに同情させようという意思は感じないのだが、話し方が同情を誘おうとしているようにしか思えなかった。


それに所々に違和感が残る、公爵がスパイを使うのにたった半年の訓練だけで実行するのか?

話も恐ろしいほど短いし、薬を作っただけの伯爵家より代金を肩代わりした公爵家の方に恩を感じると思うんだが……


虫食いの様な、ツギハギの様な、不思議な違和感だ。


確かめてみるか、


「少し気になることができた、取り敢えずこの契約魔法を終わらせよう。

今までの全ての条件を破棄、再び契約魔法を結ぶ10分後までメーナを傷つけないと約束しよう。」

「了承します。」


契約が終わりお互いに魔法を使用可能になった。


「私の目を見ろ。」

「は、はい。」


メーナへと近づき目を合わせる。

真っ直ぐと目を見つめながらメーナとミナへ纏わせるように魔力を広げる。


「あ、あのぉ私は……」

「もう少しそのままで居てくれ。」

「あっ、了解です。」


広げた魔力をメーナの体に合わせるように薄くしていく。


(揺れている。)


薄くした魔力は一部が安定せず揺れ続けていた。

私の予想があたったかもしれない。


「額に触るぞ。」

「へ?」


直接触れて魔力を大量に送り込む。

送り込んだまま数秒経つと急激に魔力が吸われ始めた、これは私の予想が当たったと思っていい。


「呪術だな。」


世界には魔法以外の特殊な力を得る方法は意外と沢山ある。

この世界のタイトルにもなっている大罪の力はもちろん、美徳の力、神鉱石と呼ばれる神の力を得ることのできる鉱石、などのとても強力な物。

そんなこの世に2つと無い強力な力だけではなく、修練で獲得可能で使用者がそこそこ多い、魔法以外の特殊な技術が存在している。


その中の一つに呪術と呼ばれる技術がある。


魔力を一切消費しない代わりに自らの体を犠牲とする力だ。主な能力は呪殺だが通常の魔法と違い基本的に証拠が残らない。

呪殺されたとわかった時には既に遅く、術者は特定できない。


もちろん呪殺以外にも、人形移しという怪我を相手に移す力、反転幸運など強力な力を使える。

だがデメリットとして、相手の魔力が高いと抵抗され、失敗すれば自らの力を失う。


呪術は基本的に一子相伝であり、100年前ならともかく今は殆ど使用者が居ない。

知識の中でもこの時間軸では存在すら無く、次回作、つまり少し先の未来で敵として現れただけだ。


「撤退……」

「ふむ、軽い思考誘導か。」


どのように誘導されたのか全てはわからないが、目が虚ろな状態で呟いているし伯爵家から撤収する事は誘導されているっぽいな。


私の魔力が入り込んでメーナが不安定になっている今の状態を維持すれば、どのような誘導を受けたか全て吐かせられるだろう。

だが10分後に再び契約魔法を実行しなくてはならないため、メーナと呪術を行使している者との繋がりを切りにかかる。


魔力が流れている道を引きちぎるようなイメージだ。


「ぐぇぇ……」


ミナが急に苦しそうな声を出した、どうやらメーナの腕に力が入っているようだ。


すまん、頑張って耐えてくれ。


少しずつ魔力の通り道が小さくなっていき、そのうち魔力が通っていた道は完全に消える。


「あ、あれ?」

「……」

「ミナちゃん大丈夫ですか〜?!」


意識が戻ったメーナが自らの腕の中で目を回してるミナに驚いている。

私が殺ってしまった?!というか表情が面白くてみていたくなるが、契約の時間が迫っている。


「契約魔法を使うぞ?」

「は、はい!」


状況は戻った。


「思考誘導は消えたはずだ。

だがもう一度過去話を聞く気は無い、ただ選択肢を与える。」


過去の話など邪魔だ。

この場で必要なのは、メーナがスパイだという事と、自首してきたメーナ自身の希望。


「1つ目、この場で私に殺される。

2つ目、弟と最期の時を過ごしてから殺される。

3つ目、弟と共に殺される。

どれにする?」

「……!」


驚きに目を丸くするメーナ。

先程の契約魔法には殺さないという条件が含まれていたが、今の新しい契約魔法にはそれが無く、条件を先に口にした私が優先されるからだ。


不意打ちで卑怯だと言われたとしても、私には許せないことがある。

それはディカマン伯爵家に対する裏切り、私が知識を得て精神的に弱くなり、裏切った者が脅されていたりしたとしても絶対に許すことはない。


「魔力が尽きるまでゆっくり考えるといい。」


契約魔法は結ばれる前の状態でもゆっくり魔力を消費する、メーナの魔力が尽きた時点で攻撃は可能になる。


さて何を選ぶかな。

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