第32話 自白した理由
予想は出来ていた。
契約魔法を求めてきた時点で、私はメーナを信用などしておらず敵として認識していた。
契約魔法は基本的に破ることができないが、抜け道はいくつかある。
この契約は条件を口上で言わなければ成立せず、追加した条件を口に出して言った者の意思が優先される。
今回はその時点であやふやな条件を決める事により、私の意思で契約の廃棄を簡単にできるようにした。
「えっ、え?」
「ミナちゃんは少し静かにしててください。」
この場にはボスコも居る、その気になれば簡単に捕らえられるだろうがミナが人質に取られている。
「それを望む理由は?」
「……私は弟を残して死にたくありません。」
メーナは使用人の中では珍しく住み込みでは無い、2日間働いて1日街で過ごすというルーティンで伯爵家で勤務している。
理由は弟が居るから、弟も働いているらしいが病弱で体調を崩しがちなため高頻度で様子を見たいと言っていた。
「昨日のカリル様の研修室での出来事、あの時カリル様からとても強い血の匂いがしました。
その時に全てを察しました、今回の事は伯爵家に潜入している者を炙り出すためのもので私以外の誰かが罠に嵌ったのだと。」
なるほどな。
私がスパイを、裏切りを許さないと察して今回の報酬の話で賭けに出た訳だ。
「そして公爵様が伯爵家を訪ねたタイミングでの行動、本当は公爵家のスパイを炙り出したかったのだと思いました。
でもミナちゃんがあのネックレスをカリル様に見せてしまって、あの者達が公爵家の関係者では無いと露呈し、このままでは私も……」
捕まっているはずのミナが何処か心配そうな表情をしていた。
本人は必死に隠しているつもりだろうが、メーナからは恐怖の感情が見える。接触しているミナもそれを感じ取っているんだろう。
「言い訳になるかもしれませんが、私はディカマン伯爵家に恩がありました、私は確かに公爵家に繋がっていましたが自分の……
信じてもらえるかわかりませんが、自分の意思では、なかったんです……」
同情を誘っているのか?
仮に事実だとして、ベルトナ親子の事を報告している時点で本人の意思は関係ないとは思っている。
「伯爵家に雇われてから公爵家に送っていた情報をひとつ残らず今ここで話せ。」
「かしこまりました……」
自分でもわかる程に殺意をメーナにぶつけている。
そんな私の圧を受けながら質問にポツポツ答えていく。
内容は伯爵家の戦力、魔法薬師の名前、私と妹の動向など、基本的で直ぐに手に入るような情報ばかりだ。
伯爵家の秘密に迫るような情報は何も言われていない。
「以上、です……」
「は?」
本人も契約魔法が絶対ではないこと、そもそも契約が終了していないことも知っている筈だ。
死にたくないと言っているのに見え透いた嘘をつくのか?
「それだけの筈がないだろう?」
「……」
私とボスコに疑惑の視線を向けられたメーナは俯いた。
「メーナさん……」
「……」
抱き締めている腕を首元から少し下げて表情を隠すようにミナの肩へと顔を付けた。
話に進捗が無さそうで、捕まえて牢に閉じ込めてしまいたいが、契約魔法は達成されるまで魔法陣の中心に居る者への干渉は不可能。
「はぁぁ……」
「……!」
溜息を出しただけでビクッと怯えられる。
裏切り者であるメーナに罪悪感は感じないが、公爵家で訓練を受けたとすれば、あの恐怖一色に染まった表情とこの状況には違和感が残る。
「なぜベルトナ家の2人の事を公爵に報告した。」
公爵に露呈していた重要情報の筆頭。
メーナが言うには重要な事は漏らしていないらしいが、事実として公爵はあの親子の事を知っていた。
嘘がバレれば少しばかり動揺するかと思い、こちらから問いかけた。
だが、
「えっ……ベルトナ家?」
予想に反して消えそうな声で不思議そうに呟いた。
「……私が治療の為に伯爵家に連れて帰ってきた親子の事だ。」
「ナーミスさんとノールさんの件は、2人の名前と連れて帰ってきたとしか報告しておりません……
まさか、そんな重要人物だったなんて……」
そう顔色を悪くしながら話すメーナを見て、私は思い違いをしているのではないかと気づいた。
「待て、メーナが公爵家のスパイになった経緯を話してくれ。」
「は、はい。」
ーーーーー
私は弟と二人暮らし、両親の顔はもう殆ど覚えていないし、お金も無くて苦しい生活を送っていました。
生活は決して楽ではありませんでしたが、それでも唯一の家族である弟と精一杯生きてきた。
あの日までは……
「助からない……?」
「えぇ、残念ながら。」
私が目を離したとき、弟が小屋の外れかけていた板に向かって転んでしまい腕に大怪我を負ってしまった。
直ぐに村に居た薬師のお爺さんに見て貰いましたが、ここまでの怪我は治らないとの診断でした。
「もしかすると、強力な魔法薬を作っているディカマン伯爵ならなんとか……」
強力な魔法薬は値段が高い事は知っています。
でも、僅かにでも助かる可能性があるならと大きな街へと向かいました。
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