第30話 お手柄

「ほらね?」

「ほへ〜、ミナちゃんの魔法は強力なんですね〜。」


手をパチパチと叩きながら褒められるのは少し嬉しいかも。


「って、そんな事より縛りましょう。」

「そうですね〜、これ使ってください。」


メーナさんが何処から取り出したのかわからないロープを手渡してくる。

……今の今まで何も持っていなかったはずなのに、気づいたら手に持ってた。今度やり方教えてもらおう。


「よいしょっ。」


魔法の訓練ため自分に強化魔法を掛け続けてる私は、自分よりも大きな男でも簡単に持ち上げられる。

少し振り回して力をアピール。


「お〜!力持ち〜!」


なんか楽しい!

けど此処はカリル様の研究室、これ以上振り回して物を壊したら大変だ。


「椅子に縛った方がいいですかね?そもそもこの部屋から出します?」

「ん〜……

取り敢えず部屋の中で縛って、持ち物検査をしましょう?」


腕と脚を縛り、持ち物を確認する。


「靴とか袖口は色々と仕込みをしやすいので、もっと確認した方がいいかもですよ〜。」


流石は頼りになるメーナさん、言われた通りに靴を確認したら大きな針が出てきた。

何故かヌルヌルしてて気持ち悪い。


「あれ?」


魔力の消費が増えた。

さっきまでなら回復する量の方が多かったのに、今は回復量と同等まで消費が上がった。


「ちなみになんですけど隠し武器、えっと暗器とも言う武器は毒が塗られてる事がほとんどなんのであまり触らない方がいいですよ。」

「もっと早く言ってくれません?!」


魔力の消費が増えたのは、私にかけられた強化魔法が毒と戦ってたからって事ですよね?!

ヤバすぎます、免疫強化する魔法を掛け続けていて良かったです。


「はぁ、私じゃなきゃブチギレですよ……」


まだ毒を隠し持っているかもしれない、慎重に物色する。


色々探ってみると、胸ポケットから独特な形をした装飾がついたネックレスが出てきた。

羽が剣で出来た龍の形が彫られている銅コインが付いている、初めて見る形だけど通貨ではないし何処かで買った記念品かな。


「何か見つかりましたか〜?」

「あっ、これを見──

熱っ!!」


取ったネックレスをメーナさんに見せようと視線を動かした時、ボッっと音を立てて眠っていた人が燃え始めた。


体の耐性も上がっていたおかげで火傷はしていなかった。

でも、それはそれとして、


「熱い!」

「大丈夫ですか〜?」


ダメ、熱い。

熱すぎて変な声も出た……


火傷がなく火元からも直ぐに手を離したおかげで、手を撫でれば熱い感覚は直ぐに落ち着いた。

気づけば燃えていた場所には黒く焦げた跡しか残らなかった。


「どうし──」


「動くな!」



ーーーーー


「っていう感じです。」


なるほど。

言いたい事は幾つかあるが、とりあえずは、


「そのネックレスを見せてくれないか?」

「はい、こちらです!」


渡されたネックレスはミナの説明通りの見た目だ。

そして、このネックレスのおかげで今回の裏切り者が何処の手の者かわかった。


「わ〜、なんか男の子が好きそうな見た目ですね〜。」

「こんなのが好きなんでしょうか?」

「私の弟もこういうの集めてたので、そうだと思いますよ〜。」


このネックレスは知識で知っている。


国とは別の強大な勢力であり、回復魔法を独占するためにベルトナ家を滅ぼしたセイクリード教。

その教会の暗部であるクリープ、このネックレスはクリープの所属だと示す物だ。


強力な魔法薬を作り出すことが出来るディカマン伯爵家を狙う理由もあり、あれだけの忠誠心を示したのにも納得がいった。


「2人とも今回の件は他言無用だ。」


このネックレスにはランクがある。

これは銅のコインで1番下、銅から銀、そして金、とランクが上がるごとにクリープの中での地位が上がる。


正直に言えば銅は弱い奴が殆ど、少数の部隊を率いることになる銀も技量にはある程度の差があるし、私でも余裕で排除できる。

問題は金が潜入してきた場合だ、知識の中でもなかなかの強敵でマップ内では雑魚敵の判定だったのに、とある1体の金コインはネットでカリル・ディカマンより強いんじゃないかと盛り上がっていた事もある。


「同僚にも、身内にも、此処にいる者達にすら話してはいけない。

自分の中だけで押し留めておけ。」

「「かしこまりました。」」


教会との衝突は避けられない。

だが教会は直ぐには動かないだろう、そもそも銅と未確認だが銀だけで潜入した時点で教会の優先度として伯爵家は低いのがわかる。


定期連絡が途絶えたとしても、ただ銅がしくじったと思われるだけで特に何もしないはずだ。


「それと今回の件に対しての報酬として、伯爵家に用意できる物なら望みの物を用意する。」

「本当ですか〜?!」


……凄い喜びようだ。

メーナのとてもいい笑顔に思わず気が抜けてしまった。


「用意できる物ならな。」

「楽しみにしていますねー♪」


「……」


そんな嬉しそうなメーナと違い、ミナは頷きながら腕を組んで目を瞑っていた。

どうした?


「大丈夫か?」

「とても元気です!」

「……そうか。」


よく分からないが、まぁいいだろう。


公爵家の者では無かったが、屋敷に潜んでいた裏切り者を排除できたのは良い傾向だ。

だが公爵家が忍び込ませた者が居ないとは限らないし、警戒は必要。今後は使用人達の動きには注意しなくちゃいけない。


それに、


「ミナちゃんは何をお願いするんですか〜?」

「私はですね──」


気になる事もできた。

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