第29話 侵入者な2人
気分が悪い、作戦が上手くいかない自分に苛ついてしまっている。
今直ぐにでも走って帰ろうと思っていたが、深呼吸で息を整えているボスコは体力面で少し危険だ。
今更だが、年齢的に技術はともかく体力がかなり落ちてしまっているボスコにこれ以上の無理はさせないほうがいいな。
「私は先に屋敷へ戻っている、ボスコは馬車に乗り戻ってこい。」
「しかし──」
「命令だ。」
「……かしこまりました。」
自分のイラつきを隠すようにボスコの前から走り去る。
とんでもない失態だ。
味方を殺す訳がないと思い込み、結局は誰も捕える事ができず、伯爵家にスパイが居る可能性を0に出来なかった。
いっそのこと、信用できるボスコとミナ、そしてナーミスとノール以外を追い出してしまおうか。
そんな伯爵家の今後を考えれば現実味の無い事を考えてしまうほど、私はネガティブな思考になってしまっている。
だが、その思考になっていると理解できるだけマシなんだろう。
暗い時間、門の横にある待機小屋で夕飯を食べていた警備隊の者が1人で帰って来た私を見て驚いている。
「カリル様?!お早いですね。」
「あぁ、それより外出した者が居たとか、変わった事は無かったか?」
「どちらもカリル様とボスコさんが出掛けられてからはありませんね。」
「そうか、そろそろボスコも帰ってくるから用意しておくように。」
流石に門から出ては来ていない、と。
太陽が沈んでまだあまり時間が経っていないのもあって屋敷はまだ使用人達が仕事をする音で騒がしい。
私の研究室へは、少し遠回りになるが人が少ない道を通って行くことに──
「いや、わざと顔を見せるか。」
怪しい動きをしている者を探すには丁度いいかもしれない。
もう作戦は意味を成さない、臨機応変に対応していかなくては。
すれ違う使用人達から、不思議そうな顔でお帰りなさいませと言われながら屋敷を歩く。
「ん?」
私の研究室の入り口は長い廊下の真ん中にあり、かなり人目につく。
そんな入り口の扉が少し開いているのが見えた。
「当たりを引いたか、既に撤退したか……」
作成途中の魔法薬関係を持ち出すのを条件に設置してある爆石の効果が発動していないなら、まだ室内にいるか、何も取らずに資料のみを読んで撤退しているかのどっちかだ。
「──!」
「──?」
慎重に近づき扉に耳を当てると中から会話が聞こえた。爆石を設置している部屋、派手には暴れられない。
先ほど使用した魔道具に魔法をストックし直して、慎重にかつ大胆に扉を開けた。
「動くな!」
「ヒッ!!」「……!」
中に居たのは私の声驚いててしゃがみ込むミナと咄嗟に戦闘の構えをするメイドが1人、確か名前は……
「メーナだったか?
ミナと2人でここで何をしている。」
2人はビックリしすぎて息が上手く吸えていなかったのか、深呼吸で息を整えている。
急かすつもりは無いので、扉だけは閉めて待っていると部屋の一部が焦げていることに気がついた。
「じ、実は──」
落ち着いたミナが少し話し始めた。
ーーーーー
カリル様とボスコ様に管理の代行を頼まれてから少し経った頃。
何故かカリル様が居なくなってから報告してくる使用人達に僅かに殺意を覚えた私でしたが、なんとか仕事は出来ています。
まぁやる事と言っても、仕事別に纏めて鍵付きの棚へ保管するだけなんですけどね。
コンコン
「どうぞ。」
私はノックの音に対してキリッとした表情を作ります。
代行なんて一切できない私だとしても雰囲気だけそれっぽくすれば、無様な姿を晒さずに済むんじゃないかと思って頑張ってます。
「失礼します〜。」
この言葉の最後が伸びたふんわりした声、私の先輩メイドのメーナさん。
雰囲気までフワフワしてますが周囲を癒す謎の力を持ってます、同じメイド仲間から慕われているのはもちろん、使用人の男性達に告白されているとか。
「あっ〜!」
メーナさんが両手で顔を挟んできた。
不敬だぞ?今の私は代行だぞ?
「どうしましたか?」
「ん〜?
なんか、いつものミナちゃんじゃないみたいで違和感が凄いんですよね〜。」
うむうむ、今の私はいつもと違うからね。
「そんな事より、何しに来たんですか?」
「あっ、そうでした〜。
カリル様の研究室の辺りでウロチョロしてる怪しい人がいるんですよ〜。」
「えぇ?!」
カリル様達から軽く事情は聞いてますが、とにかく私はここで資料を纏めていればいいと言われてて……
でも、聞いちゃったからには動いた方がいいのかな?
「直ぐに行きましょう。」
「わかりました、行きましょ〜!」
手を繋いでカリル様の研究室へ向かう。
フワフワしてていい人なんだけど、メイド達に対してスキンシップが激しいんだよね。
一時期そういう噂もあったけど悪い人じゃないし、なんなら告白されたいって言ってるメイドも沢山いた。
「あっ、開いてます〜。」
「こ、声が大きいですよ、中に居る奴に聞こえたらどうするんですか!」
「人の事は言えないと思いますよ〜。」
ガタッ!
メーナさんが大声を出すから研究室の中に居る人にも聞こえたんだろう、焦って動いた音が聞こえる。
「【
研究室を私の魔力で満たすように魔法を発動する、これはカリル様にも褒められた魔法技術だ。
相手は対策を取っていなければ部屋の中で爆睡だろう。
「可愛いドヤ顔ですが、状態異常系の魔法は効きにくいらしいですよ〜。油断しない方がいいかも〜。」
「問題ないです、私ですからね!」
開いていたドアを開けてみると、庭師見習いの男が部屋の中で倒れていた。
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