第27話 作戦開始

その後、合流した私とボスコは2人で大きな荷物を持ちながら伯爵邸を歩いていた。


「カリル様、ボスコさん行ってらっしゃいませ。」


人目の多いところを歩いていると使用人達に声を掛けられる。

これでいい、だが作戦の為に私とボスコの2人で外に出ないといけないとはいえ、護衛の者達が心配そうに話しかけてくるのに対して少し罪悪感を覚えた。


「そういえば、マリアは何をしているんだ?」


忙しくて最後に会ったのは3日前。

公爵が来なければ会えていただろうが、色々とやらかして私に報告がくる事の多いマリアが大人しいのは不気味だ。


「自室で勉強をしているかと。

この前にカリル様から当主代理を任せられ、自らの無能を痛感したらしく1週間ぐらい前から通常の勉強に加えて、領地経営について自主勉強を始めております。」

「……そうか。」


公爵家から帰って来てから直ぐの頃の自由時間は遊んでいたのがマリアらしい、普通なら直ぐに自主勉強を始めるだろう。


「こちらです。」


ボスコの用意していた馬車は中堅の商人が使うような普通の馬車だ。

乗り心地は最悪だが、隠密には向いている。


「では行きましょうか。」


御者席に居るボスコと背中を向かい合わせるように座る。体勢的に大声を出さなくても会話ができるようにした。


心配そうに門を開ける警備隊に軽く手を振り、暗くなり始めた道を進んでいく。


カラカラ カラカラ


整備されている道を馬車がゆっくりと走る音が響く。


「ボスコ。」

「えぇ、わかっております。」


道を少しそれた場所に人が居る気配がする。

このまま真っ直ぐ4分ほど走れば伯爵家の管理する街へと着く、街に住む人の可能性もまだ捨てきれない。


「そこを曲がれ。」


気配はこの馬車と一定の距離を保っており、私達を追って来ているのはほぼ間違いないだろう。


問題は、


「剣の腕は鈍っていないな?」

「えぇ、勿論です。」

「なら同時に何人を相手にできる?」


気配が1人ではなく複数だということ。

屋敷を出て直ぐに2人分の気配、その後3人分の気配が合流、合計で5人に増えた。


「向こうが襲ってくることが前提ですが無傷で短時間なら3人、怪我を覚悟でなら全員を相手にできるかと。」

「わかった。」


2人分の気配、もしかしたらスパイが呼び寄せたのかもしれないな。


屋敷に放している嫉妬の生物達に重要な場所を守っている生物を除き、試験的な命令として怪しい行動をしている者を報告しろと命令していた。

だが一切報告は無く、眠らせる担当のカクレクマノミも動いていない。


命令が抽象的すぎたか?

もっと具体的な行動まで示さなければ使い物にならない可能性が高い、リソースばかりを使用して使い物にならないのは問題だ。


遠距離から命令の変更は出来ないし、命令を変更してない生物以外の召喚を全て解除する。


「太陽が完全に沈んだら始めるぞ。」

「かしこまりました。」


ちなみにだが、ボスコには前もって私の強さを教えていた。

嫉妬の能力については詳細は教えていないが、奥の手がある、とだけ伝えている。


少なくとも守られる対象にはならない事は理解してくれているはずだ。


「今後は戦闘まで口は開かない、いつでも動けるように準備だけしておいてくれ。」


太陽が沈んで辺りが暗くなるにつれて気配がどんどん近づいてくる、火を付ける気配がない私達を見失わないようにだろう。


あと僅かで完全に太陽が沈む。


最後に身に付けている魔道具が正常に動いているかを確認する、暗殺対策の指輪、魔法威力増加のネックレス、魔法制御が上がる腕輪。

どれもあまり目立たない物を選んで身に付けていた。


「いくぞ……」


辺りが完全に暗くなると同時に私とボスコが馬車から降りた。

足音を消す魔法を自分にかけていた私とは違い、ボスコは純粋な技術で足音を消しているのは尊敬する。


「水と……保を。」

「了。」


理由はわからないが5人は固まって動いており、逃がさないように戦いやすい。


最後に目を合わせて始めの合図を行った、ボスコが攻撃を開始する。

5人組のうち1人は首元にボスコの剣が突き刺さり倒れ、他の4人がボスコから素早く距離をとった。


「何者だ……」


手に持つ剣がヒュンと音を立て振り抜かれ、あたりに血が飛び散った。


「名乗る程の者ではありませんが、冥土の土産に教えてあげましょう。

私の名はボスコ、元王国軍特別遊撃隊の副隊長でした。現在はカリル・ディカマン伯爵様に仕える執事です。」


良い感じにボスコへと意識が集中している。

私は4人組の背後へと回り、右手を構えた。


この世界における魔法は基本的に魔法名を唱えなければ発動する事はできず、今のような闇討ちでは魔法は基本的に向かない。


だが魔法名を言わないで発動する方法がある。

例えば魔法制御を極めた者なら、魔法名から発動までを遅らせ好きなタイミングで発動することができる。


私の場合は、


バチっ!


好きな魔法をストックし、魔力を流すだけで発動できる魔道具を使用することで魔法名をカットしている。


「なっ…に……?!」


ストックしていた魔法、【エレキショック雷を受けよ】で1人を気絶させた。

これで残りはボスコが抑えられると言った3人のみとなった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る