第13話 公爵の伝言

公爵の密偵に中を見せるように扉を開け、私が外に出る。


「中は狭いからな。」

「左様でございますか。」


チラッと中を確認できれば良かったのだろう、特に中に入ろうという動きは見えなかった。


「ディカマン伯爵様にご挨拶申し上げます。

公爵家に仕える諜報の者として私は名を名乗る事ができません、御不快かも知れませんがお許しください。」

「構わん。」


なんだろうか。

公爵の密偵になれる程の存在だしもっとお互いに圧を出して油断できない会話になると思っていたのだが、ナーミスと会話をしたせいか圧がお遊び程度にしか感じられない。


「そんな事より早く要件を済ませてくれ。」

「かしこまりました。

早速ですが公爵の伝言をお伝えさせていただきます。」


姿勢を整えて伝言を待つ。


「『ディカマン伯爵、今回は治療のため我が領に来てくれて感謝する。私に挨拶する必要は無いが報告書だけは纏めて近いうちに報告してほしい。

それと、もしよければ娘に会いに来ないか?』

との事です。」


ふむ、私が公爵領に来た理由と治療院での出来事は公爵に伝わっていると考えたほうがいいな。

とりあえず最後の社交辞令は無視だ。


「了解した。

これから挨拶に伺えないことについて手紙を書く、それを公爵閣下に渡してもらえないだろうか?」

「承りました。」


しかし、わざわざ伝言として伝える程の物でもなかったな。


「では少し待っていてくれ。」


再び小屋に入ると中で待機していた者達が心配そうに私を見つめていた。


「大丈夫でしたか?」

「あぁ、多分だが音を遮断したことが原因ですね。小屋の中の事を確認したかったんでしょう。」


本当にあの伝言を伝えるだけだったとしたらタイミングがあまりにも良すぎた。

中に誰が居るのかを確認し、私を含む伯爵家に属する者は除いてナーミスとノールの事を聞き込みなどで情報を集め私が何かを企んでいないか調べるのだろう。


ここまでは私の予測でしか無い、だが公爵は伯爵である私の行動を気になっているのは間違いない。


「誰か外に立っていてくれ。

警戒するのはいいが敵意を向けるのはやめろ。」

「私が行きます。」


何故か護衛の者ではなくミナが手を挙げて立候補した。


「頑張ります!」

「……そうか、頑張れ。」

「はい!」


護衛の誰かが行くと思っていた私達は勿論、ノールまでポカンとしていた。

元気に立ち上がり外へと向かっていった。


「紙とペンを。」

「えっ?あ、どうぞ。」


その後しばらく小屋の中は音を遮断しなくてもカリカリとペンを走らせる音しか聞こえなかったのだった。


ーーーーー


私はミナ、お母さんのお母さんのお母さんの代からディカマン伯爵家に仕えている平民です。

中でもお母さんのお母さん、つまり私のお婆ちゃんが凄かったらしくて、ディカマン伯爵に仕えている使用人の中でもそれなりの地位にいます。


私もカリル様と年齢がほぼ同じということもあって側仕え的な立ち位置です。


まだ私が幼く未熟な頃から大人っぽいカリル様の近くで過ごしていて、自分で言うのも変な感じですがカリル様のお世話ならなんでも出来る完璧なメイドなのです!


多分……


そんな私ですが、最近はカリル様が研究室に篭りきりで少し寂しかったです。

カリル様は婚約者の領で流行っている病の治療法を探しているそうです、その婚約者のことをどう思っているかは真剣に治療法を模索するカリル様を見ればわかります。


ベタ惚れでした。


そのせいで優先順位が少しおかしくなっていましたが、伯爵家と使用人達にとても優しく貴族としては珍しいほど清廉潔白な方で皆に慕われてました。


『はぁ……』


だから伯爵家に着いた瞬間に大きな溜息をした婚約者は使用人から態度には出しませんが嫌われていました。


頑張るカリル様は報われてほしい。


屋敷で仕事をする者達は全員そう思っていました。


でも不思議な事が起こったのです。

初めはやっぱり私に、カリル様と婚約者の関係はどう見えるかと聞いてきた事ですね。


私は正直に語りました、途中で婚約者をボロクソに言ってしまい咎められましたが後悔はないです!


っと話を戻します。


その後にカリル様が何処かへと出掛けられ、意外と早く帰ってきたと思えば直ぐに公爵領へと行くと言い出したんです。

ボスコさんから着いていくように言われて慌てて準備しました、おかげで忘れ物も沢山です……


その後の事です。

着いていくとカリル様に報告すると同じ馬車に乗っていいと言われたんです!

もうその時点でビックリしちゃったんですけど、カリル様はとても優しくて、起きてる間は私を気遣う言葉を掛けてくれたり、私に分かりやすい話をしてくれました。


普通は貴族が平民と同じ馬車に乗る事は無いので本当に驚いたと同時に、とても優しい、って更にカリル様の事が好きになったんです。


あっ、仕えるべき相手としてですよ?

平民が貴族と共になれる訳ないですから……


再びカリル様は優しいと再認識していた私は公爵領に着いたとき驚いた。

公爵領に住む誰もがカリル様に悪意をぶつけていたんです。


この街の者達の行動を見て、わざわざカリル様がこいつ等を救う必要はあるのか?と考えてしまいました。


それから色々あって、病にかかっていたベルトナ家?の者を治療しています。

お話が難しくてあまり理解できませんでしたが、とにかく凄い人だそうです。


そして現在、治療を行なってる小屋の外には私と公爵家の関係者が居ます。


「聞きたい事があります。」

「なんでしょうか?」

「どうして公爵領に住む者はこんなにカリ──伯爵様を恨んでいるのですか?」

「…その言は私の口から申し上げることはできません。ただ言える事は伯爵様が嫌われる事が公爵領にとって必要だったことなのです。」

「!!!」


私は耐えます。

どんなに殴りたくても相手はカリル様が大切にしていた婚約者の関係者、必要だからとあれだけ優しい方を利用して怒りが込み上げてくる!


「そうですか。」


私は今日この人を、この街を、公爵を、カリル様の婚約者を、大嫌いになった。

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