第14話 帰還準備

手紙を書いていて気づいたのだが、伯爵家の印章が無いためこの手紙は非公式という事になってしまう。


今更どうなる訳でも無いのだが、書き換えられる可能性も考えればかなり不安だ。


できるだけ紙を小さくして、文字で埋め尽くす。


「よし。」


公爵宛の手紙に書いた内容は、挨拶に伺えない謝罪と治療法が見つかったかもしれないということだけ。

肝心の治療法については後日正式に纏めて報告するとして、魔封石の魔の字も書いていない。


「伯爵様。」


簡易的に封をして外へ出ようとしたらナーミスに呼び止められた。


「どうしました?」

「助けて貰っている身ですが至急伯爵領へと連れていってもらいたく思います。」

「ふむ。」


家族の間でもベルトナ家の者が生き残っているという情報は噂の域を出ていなかった、それはベルトナ家がナーミス達を隠すのが上手くいったということ。


だが公爵が本気で調べればバレてしまうかもしれない、それをナーミスは恐れている。

伯爵家を利用されて印象が悪い、というフィルターを無しで見れば公爵は善人よりではあるが教会と敵対してでもナーミス達を助けるかは五分五分だ。


公爵家の調査によりナーミス達がベルトナ家とバレれば、囲い込むでも教会に差し出すでも拉致同然で連れ去られる。

そうなれば私でも見捨てるしかない。


「準備しておいてくれ。」

「ありがとうございます。

ノール準備しておいて。」

「えっ、うん。わかった。」


それは公爵領であればの話だ。

伯爵領に連れていってしまえば、公爵からベルトナ家の人間を引き渡せと言われても言い訳ぐらい簡単にできる。


「お前達も準備しておけ。

なるべく悟られないように買い出し担当が重要な物を買い忘れたとかでっちあげて待機組にも情報を共有してくるんだ。」

「「了解です。」」


ガチャ


そんな会話をしているとタイミングよく帰ってくる。


「戻りました。なんかミナがめっちゃ怪しいやつを睨んでたんですけど、何があったんで──」

「おらテメェ!なんであんな大切な物を買い忘れてんだ!」

「そうだぞお前!見てみろ、カリル様も心底お怒りだ。」


なんだコイツ等…


「俺直ぐに買ってきます!」

「あ、あぁ……」


わざとらしすぎるだろ。

なんというか、悪い奴等じゃないんだが、もう少し知性を感じさせてほしい。


「なんなんお前等、俺は全部買ってきたぞ。」

「黙れお前、ちょっと耳貸せ。」


護衛達の間で情報は共有してくれるだろう、私は外へと出た。


「待たせてすまなかった。」

「いえ、問題ありませんよ。」


目の前の男に手紙を手渡しする。


「確かにお預かり致しました、それでは失礼いたします。」


貴重な物を扱うように懐にしまい、ゆっくりと歩き去っていった。


「ん?

ミナ、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です……」


ふと何も話さないミナを見たらゆっくりと歩いていく男の背中を睨み付けるように見つめていた。

大丈夫とは言っているが確実に何かあったな。


「これから伯爵領へと帰還する。」

「治療は終わったのですか?」

「いや、色々と帰らなければいけない事情ができたんだ。」

「畏まりました。」

「ではなるべく早く準備を終わらせてくれ。」


用意をさせるためにミナを小屋へと押し込むように入れる。


「始めるか。【イサレント音を遮断せよ】」


小屋を包む様に結界を張り、その流れで他の魔法も唱える。

これから公爵の密偵を気絶させ記憶を改竄する、ナーミスを連れ出す時に干渉されない様にする保険だが伯爵である私が公爵の密偵を襲ったと知る者は少ない方がいい。


「【ロー・タイム時間を遅らせよ】【セリング心を鎮めよ】」


今唱えた魔法は全て結界内に効果を及ぼすようにしてある。


その中の1つ【ロー・タイム時間を遅らせよ】は知識に存在しており、ただ相手の速度を落とすだけの魔法なのだが、現実では時間をずらす効果で魔法の範囲中と外で時間の進みが変わるという魔法だ。


効果だけなら凶悪だが、魔力の消費が激しいうえに外での1分が50秒になるぐらいの効果。


中には赤石病患者のナーミスが居るが、これから使う力はミナや護衛、つまり味方にもあまり見られたくない。

少しでも見られる可能性を下げるために使わなければならなかった。


「【嫉妬紋・起動】」


紋章のある手が熱くなる。


知識として知っていても理解はしていなかった嫉妬の力、その使い方が頭に入ってくる。

周囲の気配を感知し、公爵の密偵以外は居ないことを確認。


「さてと、【ピラルク】【ナマズ】【デンキウナギ】。」


私の背後から呼んだ魚が出てくる。

大きさは自由に調整でき、今は1メートルほどの大きさにしてある。


「【オーダー命令怪我なく気絶させ連れてこい】

行け。」


魚達へと指示を出し、我々を見張っている公爵の密偵へと向かわせる。


「なんだこれは?!」


私の呼び出した魚が驚いた様子の公爵の密偵と戦い始めた。


腰に差していた短剣を使い魚に攻撃しているが、怯む様子も無く戦っている。

これが知識でカリル・ディカマンが使っていた嫉妬の力だ。


「やはり汎用性はかなり高いな。」


この世界における大罪の力は人智を超越した力であり、魔法で再現は不可能。

そしてどの様な力が与えられるかは大罪ごとに一定の類似性があるものの、大罪に選ばれた者によって様々、知識にある嫉妬の能力者も能力は水に関連していたが全く違った。


その中でカリル・ディカマンが使う嫉妬の力は嫉妬の中でも最弱と言われている、存在する水棲生物を無限に召喚し自由に操る能力。

ちなみに存在するというのは現実、前世の世界に存在する生物だ。


もちろん自由に能力を付与でき、ただの生物では無いのだが、その能力の特性上、圧倒的に本体が貧弱で、強力な生物を召喚しても操っている者を倒せば消えてしまう。


「圧倒的な群を創り出せるというのは強いが、早急に私自身の強化が必要だな。」


だが問題はそれだけではない。




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こんにちは作者です。

今回、重大なミスを犯してしまい文章を編集させていただきました。


作中での能力の説明部分、

『海の生物』と書きましたが正しくは『水棲生物』となります。

そのため前後の文章も少し編集しています。


混乱されるかもしれません、

急な編集となり本当に申し訳ありませんでした。





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