第11話 改善傾向
治療開始から2日目。
大体だが魔封石の粉末を患者に飲ませ、何か異常が起きないか警戒していたが、特になにも起こることはなく、ちょうど1日ぐらいたった。
「ふむ…」
昨日と違い呼吸が安定している。
あれから何度か魔封石が普通の石になったが、着実に赤石病がよくなっているのは目に見えて明らかだ。
触診の結果もまだ曲げる事は出来ないだろうが肘のあたりまで柔らかくなり、この治療法が有効であると証明もできそうだ。
「えぇ?!?!」
患者の診断結果を書いていると小屋に少女の高い声が響き渡った。
「これも食べて良いんですか?」
「はい、カリル様がくれた予算内で買って全員分あるから自由に食べても大丈です。」
「ありがとう!いただきます!」
あそこで少女と盛り上がってる護衛は私が剣をダメにして心が折れた護衛、私のポケットマネーを剣の代金として渡したら何故か少女の餌付けを始めた。
護衛がそれで良いなら別に何も言わないが、先に剣を買うべきだと思う私は間違っているのだろうか…
「…カリル様、あの護衛は首にしましょう。」
ミナはあの護衛をゴミを見る目で見つめている。
どうやら、自分と同じぐらいの歳の少女にデレデレしてるのに身の危険を感じたらしい。
流石に考えすぎだろうと思っていたのだが、
「美味しいです!」
「それはよかったな。」
少女を気持ちの悪い笑みを浮かべながら撫でている姿を見て、ミナの言う通り解雇するべきかと本気で考えている。
小屋の中にいる他の護衛も若干引いてる。
「診察が終わったぞ。」
「お母さんは?!」
食べかけのパンを机に叩き付けるように置いて大急ぎで近寄って来た。
診察結果を書いた紙を手渡す。
「結果は、良好……このまま問題が、起きなければ…」
文字も読めるのか…
「あとどれぐらいでお話しできる?」
「そうだな。肘が自由に曲げられるぐらいになれば、意識も戻るだろう。」
「良かった…」
さて、一先ず治療はこれを継続で良いだろう。
完治するまでレポートを書いて過ごすとして、あとは問題の解決と運次第だな。
まずは治療についての問題点、魔封石の消費が激しすぎること。
ボスコに用意してもらった20個の魔封石は、治療を始めて2日で半分になった。
治癒が進んでいくにつれて消費も緩やかになったが、完全に完治したとして4つ残れば良い方だ。
まぁ、これに関しては対応の仕様がない。
この街で仕入れるのは伯爵の評判が邪魔してほぼ不可能、安定したら魔封石の在庫次第で移動する必要が出てくる。
次に公爵、外から感じる視線は練度から考えて公爵の密偵だろう。
いまだに接触してこない理由は正直わからない。
このまま接触せずに様子見なら楽だが、接触されて話したいと言われればかなり面倒な事になる。
私がわざわざ避けていたのに、公爵から誘われれば断ることは出来ない。
ぶっちゃけて言えばどちらも運次第だ。
「そういえば、字を読めるんですね。」
「「!!!」」
レポートを書きながらこれからの行動をどうするかを考えていたらミナがそこそこやばい事に触れた。
俺はもちろんだが、少女もかなり驚いている。
「私はお母さんに教えて貰ったので読めるんです、普通は読めないんですか?」
「うーん、読める人はそこそこ居ますし、私も少しなら読めますけどカリル様のレポートをスラスラ読める程ではないです。
自分の仕事に使う事ぐらいでしょうか。」
少女の言葉には一切の嘘を感じない。
心の底から読めるのが普通だと思っていたようだ。
「本当ですか?」
私に視線を向けてきた。
「本当です。
それにミナの言っていたことは平民の中でも普通の街で生活している者達の話です。
君が住んでいる地域で言えば、君を含めても手の指で数えられるぐらいしか居ないだろう。」
なるべく差別的な用語を避けて説明した。
そして、もう避けるのは無理だと思うし聞いてしまおう。
「そういえば名前を聞いていなかった、君の名前は?」
「……」
名前を聞くと少女はキョロキョロと視線を動かし挙動不審になった。
やはり母親から口止めされているのだろう、最終的に話さない結論を出したようだ。
「ごめんなさい、今は言えません。」
頭を下げてきた。
「なっ…!貴方それはーー」
「わかった。
君にも何か事情があるのだろう、深く聞くつもりはない。」
怒りそうになったミナを止めながら話を終わらせ、レポート作業に戻った。
何か言いたげだったミナだが、私が深く聞くつもりはないと明言したおかげで特に聞き出すような行動もとっていない。
やや不満そうな顔ではあるが…
「さてと…」
赤石病の症状から治療法、粉末を飲む時の用量など丁寧にひとつひとつ書いていかないといけない。
そうして書いたレポートは伯爵家で保管したり公爵へ渡す、だが私の本命はそちらではない。
早速今日の分までのレポートが完成した。
【赤石病の原因と治療法
カリル・ディカマン】
あとは宛先として、
【カリウス・ギヨーム・ヴェンガルテン】
と追加しておく。
ちなみにこの名前はこの国、ヴェンガルデンの国王。
他にも力を持つ貴族家にこのレポートは送る予定だ。
貴族の中でもトップクラスの影響力と力を持つ公爵領で流行る病、それを警戒する国王はもちろん公爵領周辺の貴族達へと治療法を共有する事で後々の利益に繋がる。
今回をきっかけに貴族家との繋がりを持つ事で伯爵家は更に強化されるだろう。
まだまだ油断はできないがここまで来れば一先ずは安心だ。
公爵を抑えるパーツとしては心許ないが、本格的に伯爵への動きを封じる策は屋敷に帰らねば実行できない。
「私は少し休む、何かあれば起こしてくれ。」
椅子に座ったまま目を閉じる。
このまま私の行動がうまくいく事を祈って…
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