第8話 伯爵の評判

護衛と使用人達を引き連れて街を歩く。

その時、首からディカマン伯爵家の紋章が刻まれたペンダントを見せるようにする。


「伯爵家だ…」「やっと来たと思ったら何してるんだ。」「治療院にはいかないのか?」「噂は本当だな。」


ディカマン伯爵と気づいた町民達は悪感情をぶつけてくる。


「お前達、胸を張れ。

伯爵家に仕える者達が下を向いてどうする、その行為は我が家の品格を下げる行為だ。」

「「「!」」」


悪意に晒されて平気な者など居ない。

だが我々が改悪された情報に踊らされている恩を忘れた民に罪悪感を感じているような姿を見せる必要はあるのか?


それは否、絶対に無い。


騙された民達は被害者と言えなくも無い、それに偽の情報の大元であろう公爵にもそれなりの理由がある。


公爵家では無く伯爵家にヘイトが溜まれば、反乱の心配は少なくなり、不満から犯罪に走る者達も格段に減る。


公爵領で民達が暴れなくなる理由だが、それはわかりやすい形で公爵が支援をしているから。

公爵家は変えようと頑張っている、だが伯爵家は長年研究しているのにも関わらず解決できていない無能。


民達はそう考えてしまうのだ。


「伯爵様…」


そのまま街を歩いていると護衛の1人が話しかけてきた。


「外では伯爵では無くカリルと呼べ、他に伯爵が居たらややこしいだろう。」

「はっ、カリル様。」


何故か伯爵様と呼ばれることの多い私だが正直に言って伯爵と呼ばれるのはあまり好きでは無い。

ボスコは名前呼びだったし、これから外に出る機会も増えるだろう、呼び名を変えるように伝えた。


「それでどうした。」

「これからの御予定をお聞きしたく。」

「このまま歩いて患者を探す。」

「教えてくださり、感謝致します。」


私の求める患者は、伯爵家に悪感情を抱いておらず治療院に入る事が出来なかった存在だ。

かなり大きな規模の治療院とはいえ、この街に住む人々は多く患者は溢れてしまっている。


「……」チラッ


だがそろそろ患者を見つけたい。

街中に伯爵が来たという噂が周り、人の眼が増えてたきた。

その中には動きが明らかに市民では無い、諜報員の類であろう人物が数人混ざり始めた。


「【ニイエート意思を聴かせよ】」


私自身は暗殺の心配は無いが念のため魔法を使って探れるか試してみる。

魔力をある程度、私の総量の半分を持っていれば簡単に弾かれ、3分の1程度でも全ては聞き取れない。

成功するかは運試しだ。


(あの人を見捨てて!)(俺が殺してやる。)(ーをーーもりだ。) (金にも困った事がねぇ貴族が!)


魔力を殆ど持たない市民の声が多すぎる、頭に鈍い痛みが走るが表情に出さないように耐える。

途中に聞こえた途切れ途切れの意思が諜報員の物だろう、流石に聞き取ることは無理だったみたいだ。


(伯爵か…あの人なら、お母さんを助けてくれるのかな…

でもお金ないし…)


魔法を切ろうとした瞬間、諦めの感情が強く込められた少女の声が聞こえた。

言葉から察するに母親が何かしらの病にかかっている、赤石病じゃない可能性もあるが伯爵に悪感情をそこまで持っていない、確かめる価値はあるな。


わざとらしく周囲を見渡すと、集まっていた平民達が目を逸らし距離を取り始めた。

その中で裏路地に入る通路から我々を見ている少女と眼があった。


「居た。」


声の感じからしてもっと幼いかと思っていたが、ミナと同じぐらいの身長で年齢的には私とほぼ同じだろう。


「ミナと護衛の中でも移動が速い2名はついて来い。

それ以外は馬車に戻り待機。」

「「「カリル様?!」」」


私と眼があった少女は何故か走って何処かへと去っていく、急いで追わねば見失うだろう。

人混みを擦り抜けて裏路地へと入る。


「迷路のようだな。」


裏路地は複雑に入り組み、壊れかけの建物も道とかしている部分も多く、走っていく少女の姿は直ぐに見えなくなる。

姿が確認できていたとき、魔力の糸をギリギリ付けることに成功しており、離れすぎない限り居場所は直ぐにわかる。


「お、お待ちを…!」


後ろから鎧の擦れる音が聞こえる。


メイドであるミナはともかく、鍛えているはずの護衛達すら追いつけない速度で私が走れるのは恐らく嫉妬の力。

大罪の力を持つ者は人から1つ上の存在となる、簡単に言えば自分の身体能力が倍になるのだ。


「よし、止まったな。」


少女が止まった場所は所謂スラム街と呼ばれる所だった。


「はぁ…はぁ……

カリル、様ぁ…」

「よく付いてきたな。」

「い、いえ…それより、急にどうされたので、すか?」


騎士2人は激しく息切れし、ミナは意外と息切れしていなかった。

大の男2人が疲れてるのに凄いな。


「患者がいたかもしれないぞ。」


頭の上に疑問を浮かべる3人から目を逸らし、少女のいる場所に向かって歩く。

そこにあったのは1つのボロ小屋だ。


コンコン


「だ、誰ですか…」


怯えている声が聞こえた。

背後に立っている騎士に手で少し離れろと合図する。


「カリル・ディカマンだ。」

「えっと…

カリル・ディ…そのカリルさんが何の御用でしょうか…?」


伯爵の噂は知っていても名前までは知らなかったみたいだ。


「貴方の母親の病を見にきた。」

「お金はもうありません!帰ってください!」


だが私の言葉は少女の怒りに触れてしまったようで、説得が長くなる事を覚悟した。





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