公爵領へ

第6話 道中

「ーーーーでは?」

「ですがーーーー。」


人の話し声が近くから聞こえる。

喧嘩してるようにも聞こえる2つの声に目が覚めた。


「何事だ…」

「「伯爵様!」」


言い合いをしていた2つの声は、メイドのミナと使用人の男ライオだ。


「五月蝿い、頭に響く…」


2人の声が小さく謝罪してくる。

私は馬車の中で横にされていた、かなり長い間眠っていたのか外からの光が入ってこないところを見ると夜になっているのだろう。


「申し訳ありません…

伯爵様がお休みになられてから食事もされず声を掛けても起きる気配がなかった為、ライオと共に引き返すべきか話し合っておりました。」

「そうか、心配かけた」


2人はホッと安心した様子を見せ、食事を用意すると伝えてくる。


「俺も外で食べよう。」


ゆっくりと体を起こし、馬車の外へと出る。

長い間横になっていたせいで体が硬い、それに気分に転換に綺麗な空気も吸いたかった。


「伯爵様!

お目覚めになられたのですね!」


公爵領へと向かう伯爵家の馬車は全部で3台、護衛達が少し離れた場所で焚き火をしていた。

馬車から降りた私の姿を確認すると駆け寄ってくる。


「もう大丈夫なのですか?」

「あぁ、心配かけた。」


護衛達が本心から心配しているのが伝わってくる。

自分で言うのも変な感じだが、私は予想以上に慕われているみたいだ。


ひとしきり良かったと騒がれた後、何故私が外に出て来たのかという話になった。


「休んでいなくて大丈夫なんですか?」

「あぁ、それより食事だ。」

「お待たせしました。」


いつの間にか背後に控えていたミナが食事を手渡してくる。

プレートにパン、スープ、肉、野菜が乗っている、外で食べる食事にしてはかなり豪華なメニュー。


「伯爵様はこれから公爵領に行くんですし沢山食べて体力をつけてください。」

「私が病に侵される事が心配なんだろうがそれは無駄な心配だぞ。」

「そうは言いますが、前当主様は…」

「濁さなくていい。

そもそもあの病は魔力を沢山持っている者は掛からん、父上が掛かったのも魔力を消費しすぎたせいだ。」


外から入ってくる魔力より、自分自身が保持している魔力が高ければ問題は無い。

そんな事は知らず治療のために患者の免疫を強化する魔力を掛け続け、魔力を大量に消費したのがいけなかったのだから…


治療法が確立していない時、治療は本人の治癒力に頼るしかなく、大勢の医者が父上と同じ方法で治療にあたり魔力を消費、病に侵された。


「「「……」」」


私が黙って空を見上げたせいで気まずい空気が流れる。


「…そうだお前達、魔封石を1つ心臓に近い場所で身につけていろ。赤石病を予防する事ができる。

だが、完全に掛からない訳では無いから公爵領からは治療が有効だと確認でき次第離脱する、あまり長居しないつもりだ。」

「公爵様にご挨拶は?」

「私はやる事が沢山あるからここに居る誰かに報告書を持っていってもらいはするが、私自身は会わない予定だ。」

「わ、わかりました…」


不敬だと咎められてもおかしくない行動だが、正直に言って英雄の末裔に少しでも会う可能性があり公爵邸には行きたくない。

それに公爵家が伯爵家に苦情を入れても傷すら付かないよう対策も思いついてる。


「皆、ゆっくり休め。

ミナとライオも此処でゆっくりしていて良い。」


食事を終え焚火から離れ、馬車に乗る。

アイテムBOXから魔道具であるランプを取り出し起動、効果は一定範囲内の魔物避けと回復力の上昇。

嫉妬の神殿産の魔道具だが殆ど換金用のアイテムとなっていた物、まぁ御守りみたいなものだ。


寝転がり右手に現れた紋章を見る。


「嫉妬、か…」


私の行動の中で最大の不安要素。

これから行動する上で嫉妬の能力は外せない物であり、強敵と遭遇し戦闘になった場合、力を使えるのと使えないのとでは勝率、つまりは死に直結しかねない。


滝で聞こえた声の主が言うには今の私は嫉妬に相応しくは無い。

一時的に認められ力は与えられているが、私以上に嫉妬の可能性を感じる者が現れれば急に剥奪される可能性も0では無いのだ。


「他の大罪…」


物語の本編が始まる頃には全て埋まっている大罪の持ち主。

傲慢、強欲、怠惰、そして嫉妬、少なくともこの4つは埋まっているのは間違いないだろうが、憤怒、色欲、暴食は残っている可能性が少しだがある。


あの声を信じるならば、嫉妬のように気に入られることさえ出来れば他の罪も力を与えてくれるかもしれない。


「行って、みるか?」


1番近い罪の神殿は暴食なのだが問題がある。

今回の暴食を獲得するのが人間ではなく魔物である事と、そいつが裏ボスの1体でクッソ強い事だ。


「はぁ、知識があっても上手くは行かないものだな…」


他の神殿は国外だったり、そもそもの場所が通常の手段で辿り着けなかったりで、やはり他の神殿に行くことは断念しなければならないだろう。


「1つ鑑定して寝るか…」


今の今まで眠っていて、今晩は眠れる気がしない。

気絶、とまでは行かないが疲れて寝落ちするのが1番だ。




そうしてアクセサリーを鑑定しながら移動し続けること2日、公爵領の街へと辿り着いた。

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