第4話 嫉妬の神殿

「此処のはずだが。」


神殿の入り口である滝の近くまで来る。

ゲームでは本編攻略後に滝へと近づくだけで入り口が出現していたが、私が近づいても滝の様子は変わらず入り口は現れない。


「ふむ…」


周囲を見渡すが特に遺跡っぽい物などは見つからない、普通の山の中にある滝だ。


滝の裏に神殿があったとして、滝を無理矢理に通ろうとすれば大怪我をするだろう。

八方塞がり、念の為滝のすぐ近くまで近寄ってみようとは思う。


重い鎧を脱ぎ、膝まで水に濡れながら滝へと歩きていく。途中、水滴が顔に飛んで来て視界が悪くなる。


『醜いかな。』


そろそろ引き返そうかと思っていたら、突如として老人のような声が聞こえた。

その声は滝の先から聞こえている。


『其方の感情には嫉妬のカケラも感じない。

記憶は見せてもらった、あれだけの情を寄せていたのに本来手に入るべきではなかった記憶の影響でほぼ無いのと道義。何故だ。』

「何故、とは?」

『オマエはその記憶が正しいことを恐れている。

此処へと来たのも記憶が正しいかを確かめるためらしいが、何故オマエ自身の行動で変えないのだ?

全てを諦めている、婚約者も未来も、家族であるはずの妹でさえ記憶の通りになると思い込んでいる!』


声の主が何を伝えたいのかがなんとなくわかってきた。


『オマエの意思は何処にある?』


記憶を取り戻してから、私が生きているこの世界を何処か違う視点で見ている気がしていた。

声の主が私に伝えたいのは、おそらくその視点のこと。


私がただ記憶と知識に操られるだけの存在になっているのでは、ということだ。


『嫉妬を見せろ、オマエはこの神殿を継ぐのに相応しい存在であったのに!』


私の意思…


「…父から継いだ伯爵家を守りたい。」

『ほう?

時間はやる、ゆっくり考えろ。』


意思だと思っていた事は流された、声の主は他の答えを求めている。


この声に言われて気づいたが、記憶を手に入れてから私の意思が薄くなった気がする。

カリル・ディカマンと記憶の男が混ざり合い、お互いに打ち消しあって残ったのが今の私であり、どちらの記憶も持っているがどちらでも無い存在。


まぁ、カリル・ディカマンの方が私に影響を及ぼしてはいるが…


「あぁ、そうか、わかった。」

『決まったようだな。

では聞こう、オマエは嫉妬に相応しいか?』

「今を生きているのはカリル・ディカマンである私だ。

カリル・ディカマンは伯爵家を守りたい、そして私は嫉妬伯爵などとは呼ばれたくない。」

『…ふ、フハハハハハ!!』


全てを本心から語った。

嫉妬の神殿にある装備が欲しいのに、声の主の機嫌を悪くしかねないことまで言ってしまった。


だが予想外に声の主は機嫌が良さそうに言う。


『オマエは嫉妬にふさわしくは無い。

だがとても面白い、仮に嫉妬である私では無く他の罪の奴等も同じことを言うだろう。』


声の主が話していくにつれて顔に当たる水飛沫が弱まっていく。


『普段ならば絶対に開けない。

だがオマエの可能性を見たくなった、最期を見てみたい、怨むのだろうか笑うのだろうか、それとも最期には嫉妬するのだろうか。』

「イタッ!」


右手に痛みが走る。


『与えよう、嫉妬の力を。

与えよう、嫉妬を克服した者の力を。

見せてもらおう、貴殿の生き様を!』


声が止まるのと同時に、滝の流れも完全に止まった。


滝があった場所には地下へと続く階段が現れている、おそらく私は嫉妬に認められたということでいいのだろう。


「この紋章も知識通りだ。」


痛みが走った右手には嫉妬の紋章と呼ばれる物が現れていた。

この紋章は罪の象徴とされており、それぞれ罪の力を持つ者の証だ。


「行くか。」


予想外なことも起こったが早速階段を降りていく。

階段を降りるに連れて灯りがついていき、暗い階段を照らしている。


「ついた。」


階段を降り切った場所は綺麗だが殺風景な光景が広がっていた。

中心に紋章が刻まれた石の祭壇、四方に装備が入った宝箱が置かれているだけの空間、此処が神殿の最深部だ。


近くの宝箱から開けていく。

中には知識にあった装備だけでなく、様々な魔道具から魔導書、果てには古代文明のものと思われる石板まで。


装備は片っ端から着てみて、効果がすぐにわかれば良し、分からなければ取り敢えず放置といったように整理していく。


「ん?これは…」


薄汚れた拳大の四角い箱、まさかとは思うがアイテムboxではないだろうか?


使用すれば異空間に物を仕舞えるスキルを獲得するヤバイ物。

だがその特性上、一度使えば消えてしまうため、王家の秘宝として保管されている2つを除き所在が分かる物が存在しないのだ。


深く考えることなくそれを自らの胸に押し当てて使用する。脳内に使い方が送られ、やはり本物だったと安心した。


「全てを持って帰るぞ。」


何度も屋敷を抜け出せば流石に怪しまれるだろうし、此処にある道具を全て鑑定してから帰宅予定だった。

アイテムBOXを手に入れることができたのは幸運だったな。


とりあえず一つの指輪だけ装備して帰宅する。

この指輪の効果はあらゆる毒を完全に無効化し物理的な攻撃を1時間に1回防ぐ、という知識の中にも存在していた装備。

これ1つで暗殺のリスクがほぼ0になる化け物装備だ。


さて、すぐに帰宅だ。


収穫は大量にあった。

早く次に備えて動かねば。

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