第3話 治療法

私が手にした知識の中では赤石病の治療法までは無かった。


赤石病は主人公が偶然ダンジョンを見つけてイーウェル公爵令嬢と共にダンジョンを攻略、公爵領を脅かしていた赤石病は解決するという流れだ。


ダンジョンの場所は森の中だけで詳しい位置までは不明。

ダンジョンがあるのが私の領地なら探すのだが、残念ながら伯爵の私が公爵の領地で好き勝手する訳にはいかない。


公爵にダンジョンの件を伝えても証拠が無く、仮に徒労に終われば伯爵家と公爵家の仲が悪化し立場が悪くなってしまう。


ひとまず原因がダンジョンの魔力と仮定して、なんとか魔力を取り出す方法を考え、思いついたのが魔封石だったのだ。

これは獲得した知識の中には無かった情報、私が生きてきた中で自ら得た知識だ。


「カリル様?」

「あぁ、すまない。

少し考えごとをしていた。」


これから知識で得た事を沢山確かめないといけない、さっそく次の話だ。


「もう1つ話がある。」

「なんでしょうか。」

「これから暫くの間、私は伯爵領を視察することにした。」

「視察でございますか?」


急な視察に不満を抱いている感じはしないが、何故と疑問には思っているようだ。

本当は視察という名目で伯爵領にある嫉妬の神殿という場所に向かう予定であり、それは私1人で向かわなければいけない。


信頼しているボスコに真実を言えないのが少し悔しい。


「では護衛の手配をーー」

「いや、護衛は必要ない。私1人でお忍びのような形での視察にする。」

「それは危険です。」


止められるのはわかりきっていた。


「ボスコ、頼む…」


事情を話さず自らのやりたい事を無理矢理押し通す、我ながら狡いやり方だ。


ボスコは眼を瞑り息を吐いた。


「かしこまりました。

ただ2日間だけです、3日経っても連絡が取れず所在がわからなかった場合、直ちに捜索を始めますがよろしいですか?」

「感謝する。」


魔道具を停止し、ボスコとの会話は終了。


「それでは、さっそく取り掛かります。

カリル様はいつ頃出られる御予定なのでしょうか?」

「今から出る。」

「かしこまりました。」


嫉妬の神殿はここから歩いて1時間ほどで着く滝の裏にある。

私が生きるこの時代が大罪シリーズの最初期であるからか、重要な施設やダンジョンの場所はストーリー上でかなり都合の良い場所にあるのだ。


シリーズが進んでいくにつれて、神殿が破壊されたり、新しく美徳系が出てきたり、大陸が割れたりもするが、今は関係のないこと。


道中の身を守れる程度の装備を着ていかねば。


神殿には別に守ってる存在が居るなどは無いから重装備の必要はない。

ただ【嫉妬】の特殊スキルを持つ者のみが入れて、強力な装備が大量に置かれているだけだ。


「そのスキルを俺が持っていればいいんだが…」


嫉妬伯爵と呼ばれるようになってから獲得したのか、それとも元から持っていたのか…

私が討伐されたあと主人公陣営が【嫉妬】を獲得するのだが、ゲームではトドメを刺した存在に引き継がれるため、私がどう獲得したのかは不明なのだ。


「よし…」

「そんな重装備でどこに行かれるのですか?」


屋敷の裏口でコソコソ装備を整えていると少女の声が聞こえてきた。

声を掛けてきたのは妹のマリア、よりによって1番バレたく無い存在にバレた。


「少し行かないといけない場所があってね。」

「危険なんですか…?」

「全然危険じゃない、明日には帰ってくるよ。」


研究に没頭していたせいで、唯一の肉親である妹や支えてくれている者達の優しさや気持ちに気づけなかったが今ならわかる。

上手に説得しなければ一緒に行くと言いかねないと。


「私も付いてっていい?」

「ダメだ。」


もう言われてしまった。

目元が潤み泣きそうになっている。


「すまないが今回は絶対に連れて行けない、お土産を持ってくるから、な?」

「う、うん…」


納得はいってなさそうだが、まぁいいか。

予想以上にあっさりと引き下がってくれたおかげで、無理して連れていく必要がなくなった。


神殿のある場所は少し遠いだけで危険は少なく装備を固めればほぼ安全、仮に妹を連れた状態でも時間が掛かるだけで問題なく辿り着ける。


何故連れて行かないのか、


それは妹であるマリア・ディカマンは攻略対象の1人だったからだ。


主人公と敵対すると決まった訳ではない、だが…


いや、今考えることではないな。


「あの、兄様…なにか変わりましたか?」

「どうだろうな。」


立ち上がった私を不思議そうに見上げてくる。

私の中で優先順位が公爵令嬢が1番だったとはいえ、妹のことは気にかけてはいた。

だけど手に入れた知識によって人の見方が変わった影響か、対応も本人からしたら少し違うんだろう。


「あの…

いや、なんでもありません。気をつけて行ってきてください。」


何か言いたそうにしていたのだが、結局言うことなく早歩きで去っていった。


「まぁいいか。」


そんな妹の姿に疑問を感じたがなるべく早く神殿に向かわなければいけない、ゲームでは強力な装備があるだけだったが、もしかしたらそれ以外にも何かある可能性がある。


早く神殿に行きたい理由はいくつかあるが、1番はこの記憶と知識が本当に正しいのかを確かめるためだ。


「複雑だ、間違いなく正しいとわかっているのに違うことを望むなんて…」




私が知識が間違っていることを望むのは、この知識が正しければこの国に未来は無いからだろう。

救いのない世界だと、認めたくないのだ。






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