第2話 病の原因
記憶の整理をしよう。
1人の男の記憶が入り込んだせいか、私の意識は元の性格が8、記憶の性格が2程で混ざり合った。
それ以外は特に変わった部分は無さそうだが、後々不調が出るかもしれない。
(私が嫉妬伯爵と呼ばれるようになるとは…)
そうなった原因を記憶の中から必死に探す。
男の記憶は全てが興味深いが、今はゲームの知識が最優先。
私が出ているゲームは、
【君達と共に 憤怒】
というファンタジーRPG。
元が小説と言うこともあり、重厚なストーリーが売りだった。
内容は至ってシンプルだが、ハーレムルートから個別ヒロインルートが用意してあり恋愛要素も豊富で、男女関係無くかなりの人気を誇っていた。
(私が大罪シリーズのファンで良かった。)
シリーズ名からもわかる通り、憤怒以外にも嫉妬、傲慢、怠惰、色欲、強欲、暴食と七つの大罪をモチーフにシリーズ物であった。
幸い記憶の男は大罪シリーズの大ファンで、知らないことは無いと言っていい。
記憶の男は便宜上、前世の私と判断する。
(はは…
赤石病の原因は感染する病などではなく、ダンジョンだったのか。)
父の代から長く苦しんでいた病の正体はこんなにも呆気なくわかってしまって、表には出さないが笑ってしまった。
「………」
「………」
それから知識の確認をしていて、まともに思考が回せるようになるまで時間が掛かった。
この時だけは彼女との冷え切った関係に感謝した、今の状態で話しかけられてもまともに返答などできなかっただろう。
(だが…)
この感謝の気持ちも急速に冷めていくのがわかる。
「申し訳ありません、少し急用が出来てしまいまして。
屋敷でご自由にお過ごしください。」
「…帰ってもいいの?」
「…えぇ。
構いませんよ。」
「そう、じゃあ帰るわ。」
彼女は帰れるとわかった瞬間、綻ぶように微笑んだ。
(これも知らなければ見惚れてしまったのだろうな。)
その笑顔は全て1人の男、英雄の末裔へと向けられている。その男は主人公で、悪政を敷く貴族が多い王国で仲間を集め正義を実行する者。
そして彼女ノラ・イーウェルはヒロインの1人、望まぬ婚約を結ばされた悲劇の令嬢、真実の愛とやらに目覚めて主人公と共に悪となった私を殺す。
悪から姫を取り戻す、物語としては王道と言える。
「ほ、本当に宜しいので?」
「伯爵の許可はもらってるわ、はやく帰りましょう。」
控えていた公爵家のメイドに声を掛け、困惑するメイドを急かし部屋から出て行った。
部屋から出る直前、メイドだけが申し訳なさそうに頭を下げた。
この返答になるのは予想していた。
正直、私は湧いてきた記憶を全ては信用していなかった。
私が嫌いなだけなら微笑む必要などない、最後に見せた微笑みは主人公に会える喜びによる物と考えれば納得がいく。
(情報は正しそうだな。)
さて、一応確認だけ。
「やっぱり、か。」
「!」
「なぁ、私と彼女の関係はどう見える?」
伯爵家のメイド、ミナへと問う。
「えっと、その…」
「ここで話した事は外部に決して漏らさないと約束しよう、正直に答えて欲しい。」
「それではーー」
やっぱり、と言うべきか関係は冷えているどころか歩み寄ろうとするのも私からの一方通行にしか見えなかった様だ。
ミナは時々声を荒らげながら全てを正直に答えてくれた。
伯爵様が治せていないとはいえ、病を治そうと日々努力しているのにそれを知ろうともしない、一方的な感情で歩み寄ろうともしないなんて公爵令嬢として終わってる。と。
最後の言葉だけは流石に軽く諌めた。
「答えてくれて感謝する。」
「こんな物で良いのでしたらいつでも。
ただ、当主様があんまりな対応をされているのを見て少しイラついてしまい、汚い言葉を多用してしまいました。申し訳ありません。」
「気にするな、正直に答えろと言ったのは私なのだから。」
その言葉を最後まで言ってから部屋の外へ出る。
向かう場所は書斎、今すぐやらねばいけない事ができた。
「ボスコ!至急話さねばならぬ事がある、人払いを。」
「かしこまりました。」
背後に控えていたメイドを部屋の前に立たせ、扉を施錠しカーテンを閉め、盗聴対策に手持ちのランタンに似た魔道具を取り出し起動する。
「盗聴対策が完了しました。」
「よし。」
準備は完了したが何から話すべきか…
この記憶の事を全て話すのは信頼しているボスコとはいえリスクが大きい。
それにこの知識が間違っていた場合、伯爵家は大きく傾いてしまうだろう。
とりあえずやるべき事は知識の正確さを確かめる。
ボスコに伝えるのは赤石病の治療法と、私が伯爵領にあるダンジョンに潜る、この2つだ。
「赤石病の治療が可能になるかもしれない。」
「なんと!」
ボスコにとって悲願でもある赤石病の治療法、普段は冷静な彼も興奮を抑えきれないようだ。
机から1枚の金貨を取り出す。
「この金貨と同じぐらいの大きさの魔封石を50個ほど買ってきてくれ。」
「魔封石でございますか?」
「あぁ、我が伯爵家のどのような薬を使用しても延命にならないという事は、赤石病は感染する風邪などでは無い可能性が高い。
あのような不思議な症状を引き起こすのは魔力ぐらいだ。」
知識で知った赤石病の原因は公爵領に出現したダンジョンの魔力、普通のダンジョンなら問題はなかったが死霊系のダンジョンであった事が不幸の始まり。
死霊系のダンジョンから放たれる魔力は生あるもの、特に人間との相性が悪く心身に異常を発生させる。それが赤石病になったのだ。
治療方法は体内に入った魔力を取ること、そこで使うのが魔封石、魔封石は名前の通り魔力を封じる石だ。
「魔封石…
申し訳ありません、50個をすぐに用意するのは難しいかと思います。」
「わかっている、取り敢えず10個手に入れたら患者の近くに置くのだ。」
「かしこまりました。」
だが魔封石が効くかは正直わからない。
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