中ボスの悪役貴族が前世の記憶を思い出しゲームの知識を手に入れた場合〜私は嫉妬伯爵などと呼ばれる未来を絶対に認めない〜

ノツノノ

我が伯爵家

嫉妬の能力

第1話 伯爵家当主

ディカマン伯爵家。

代々とても強力な魔法薬を作り王国を支え、貴族家の中でも上位に位置する。


現当主には10歳の息子と9歳の娘がいる。

日々勉学に励みどちらも優秀、なかでも跡取りである息子は天才と呼ばれ将来は安泰だとも言われていた。

その息子もいつかはこの広大な領地を継ぎ、更に発展させて行くのだと考え、日々努力し続けていた。

魔法薬を作る腕前は現当主に迫るほど。


だが平和で幸せな時間は長くは続かなかった。


「は?

いま、なんと言った。」

「旦那様が公爵領の流行り病を解決するための研究中、自らも病にかかり亡くなりました。」


伯爵家当主の父が亡くなったと、父が最も信頼し祖父の代から仕えている執事ボスコが報告してきた。

父は公爵領で長い間流行っている病を解決するため、患者と接触し治療方法を探しているのは知っていた。


だが、


「何故だ。

あの病は罹ってもすぐに死ぬ様な病ではなかったはずだ。」

「…旦那様が病に罹ったのは、2ヶ月前です。」

「何故その時に言わなかった!」


自分でもわかるほど激昂している。

その怒りを辺りに撒き散らそうになった時、ボスコが大きな声で遮ってきた。


「旦那様の御命令でした!」

「…父上の?」

「はい。

全てこちらに書かれております。」

「寄越せ!」


ボスコの手に握られていた手紙を乱暴に奪い、中身を読む。


ーーー

この手紙は私が死んでから渡す様、ボスコに言ってある。


公爵領の病の原因も治療方法も見つけられず、先に逝く事を許してくれ。この病は治らない、それどころか神官達の回復魔法では治るどころか悪化する事がわかったが。

っと、詳しい事は別の資料にまとめてあるから省くとしよう。


それよりも、私が死ぬ事を話さなかったのは、それを知ったとしても会えないからだ。

お前達は大事な跡取り、病に罹り血筋が途絶える事を考えれば言わない方がいいと判断した。


ディカマン伯爵家の当主変更は既に済ませている、


カリル、我が息子に託そう。


領地と民を頼むぞ。

ーーー


優しい父の言葉だが事務的だ。

それだけの覚悟をしてこの手紙を書いたのだろう、当主になる私に対する最後の教育として。


「これだけか?」

「カリル様宛の手紙はそれだけです。

そして当主の証である指輪です。」


渡された指輪は家紋が描かれそこまで目立たない指輪、貴族家の当主を示す由緒正しき品。


「ボスコ…」

「なんでしょうか。」

「お前は、俺が当主になったとして最後まで仕えてくれるか?」


自分の中で当主になる事は決まっている。だが周りがどう思うかが怖かった。


「もちろんです。

カリル様はディカマン伯爵家の当主となったお方、この身が滅ぶまで共にあります。」


そう言ったボスコの目は、今年70歳を超えたとは思えないほど力強かった。

それと同時にとても心強い。


「ボスコ、私はやるぞ。

父を殺した病を治療する方法を見つけ、我等の伯爵家を更に繁栄させる。」


私は覚悟を決めた。



ー2年後ー


当主になってから2年が経った。

幸いな事に使用人達は皆が協力的だったのもあり、伯爵家は安定している。


もちろん他の貴族家から年齢が若い事で侮られたり、魔法薬の情報を盗もうとスパイも出現した。

流石に私が信頼しかけた者が裏切り者と判明した時は堪えたが、ボスコが支えてくれたのもあって直ぐに切り替える事ができた。


「赤石病についてご報告があります。」

「資料はそこに置いて、概要だけ説明してくれ。」


現在は公爵領で流行っている病の治療法を探している。

この病にかかると体が1 ヶ月から2ヶ月程掛けながら徐々に石の様に動かなくなり、最終的に心臓が赤い宝石の様になる事から赤石病と呼ばれている。


「今回試された治療方法の2つはどちらも失敗致しました。

2つに共通して患者の体力面での負担が大きく、延命にすらなりませんでした。

それと…」


報告をしていた部下が申し訳なさそうに言い淀んだ。

きっと私に気を遣っているのだろう、その後の言葉は想像が付く。


「それと、なんだ?」

「公爵領にて、伯爵様への不信感が増しております…」


やはりそうなっていたか。

ディカマン伯爵家は魔法薬の名家として有名、その名家が長い期間、治療法を探しているのにも関わらず未だに解決に至っていないからだろう。


それにきっとそれだけでは無い。

現当主の私が公爵領に出向かない事も理由だ、民の間では前当主は病と最期まで戦ったのに来ないなんて現当主は怖がっている、などと噂が流れている。


言い訳になるが、現段階で伯爵家を離れるわけには行かなかった。

安定はしているが常にギリギリの状態、私が病に罹れば伯爵家に隙が出来る、ボスコが入れば耐えはするだろうが伯爵家の衰退には繋がるのは間違いない。


「そうか、早く治療法が見つかればいいのだが…」

「そうでございますね。」


コンコン


「失礼致します。

イーウェル公爵令嬢が到着致しました。」

「…!すぐに行こう。」


婚約者ノラ・イーウェル、

イーウェル公爵の娘で前当主と公爵閣下との間で交わされた契約によって婚約者となった。


条件は赤石病の治療。


「ボスコ、これから挨拶へ行く。

ここは頼んだ。」

「…畏まりました。」


私は彼女と初めて会った時に一目惚れした。

初めて会った時は緊張で何も考えられない程、好きになった。

別れてから冷静になり、ふと自分と彼女の関係を考えて好かれる訳ないとわかった。


そう、彼女は私に良い印象がない事に気づいたのだ。これだけの時間を掛けても病を治せない私に良い印象がある方がおかしい。


実際に会うのは今回で4回目だが、今回も会話らしい会話など無いだろう。


「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。」

「……」


彼女は窓から外を見て、長く美しい金髪を揺らしながら陰鬱そうな顔で椅子に座っていた。


「今日は伯爵家に来ていただきありがとうございます。」

「えぇ…」


いつも通りの冷たい対応、それに対して背後に控えているメイドが殺意にも似た視線を彼女へと送っている。


視線でメイドを諌めて向き合うように椅子に座る、が彼女は窓から外を眺めて見向きもしなかった。

好いている女性に無視されるのは苦しいが、私はそれを受け入れなければならない。


(私はあの病を必ず治す。

それまでの我慢dーー)


再び覚悟を決めようとした瞬間、頭に大量の情報が入り込んできた。

それを処理し切るまでかなりの時間が経った気がしたが、実際には殆ど掛かっていなかった。


(なんだ、この記憶は…!)


その情報は、ここでは無い世界で暮らしていた1人の男の記憶と、


(嫉妬、伯爵…)


嫉妬伯爵と呼ばれた悪役が出てくるゲームの記憶だった。

そして嫉妬伯爵と呼ばれた男の名は


カリル・ディカマン


私だった。

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