第39話
酒呑童子を前にして情けなく吹き飛ばされ、地面を転がりかけた僕を受け止めたのは陰陽術も使えないはずの瑞稀であった。
「……少し、お兄ちゃんの力を借りるよ」
「いや、良いけど……えっ?ど、どういう───」
困惑しながらの僕の言葉はその途中で自分の内側から這い上がったきた悪寒と熱を前にして中断される。
熱い、熱い、熱い……なん、で……何がぁ?
「良くも、妾のお兄ちゃんを……」
その間に、瑞稀が酒呑童子を睨みつけながら口を開く。
「貴様……貴様のような木っ端マガツキ如きが妾と相対し、唯で済むと思っていないだろうな?あの時のように、産まれてきたことすらも後悔させてやるぞ……!」
熱い、熱い、熱い。
体が燃えるような熱をもち、視界がぼやけてくる。
『……クソ、早いだろ。なんでお前がッ、もう!ずっと眠っていればいいものを』
それでも僕の耳は何とか機能してくれており、瑞稀と酒呑童子の会話を聞くことが出来る……はぁ、はぁ、はぁ……ど、どうなっているの?なんで、瑞稀と酒呑童子がまるで既知の仲であるかのような会話を。
「陰陽神級、極桜」
そして、何故……陰陽術を使えないはずの瑞稀と酒呑童子がまともに戦えているのだろうか。
『クソ……忌々しいぃ。だが、そうだ。今はまだ本調子には程遠い、陰陽術の発生にはそこの餓鬼が必要であるな?今ならば、この僕であっても!』
轟音と共に酒呑童子の焦ったような声が僕の耳元へと届いてくる。
何の音だ、何が起きているのだろうか?
『やはり貴様こそが我らの怨敵である───』
熱で揺らぐ。
『───』
「───」
『───』
視界どころか、とうとう耳までバグってしまったのか、とうとう瑞稀と酒呑童子の声まで聞こえなくなってしまう。
「あぁ……」
それでも、何故だろうか。
体が溶けて消えてなくなってしまうような熱を感じながらも。
瑞稀に体を支えられて、二人の体を共に同じ暖かいものに囲まれる中で、まるで僕が生まれてくる前。
己が覚えているはずのない、母親のお腹にいた頃の安らぎを感じてしまう。
「……っ」
そんな複雑なものを感じながら、それでも抗いがたい熱によって足掻き、藻掻き、落ちていく───僕は熱にうなされる形でそっと意識を闇の底へと落とすのであった。
■■■■■
王級という実質的に最高位のマガツキの鬼である酒呑童子、完全に意識を失ってしまっているボロボロの大翔、雰囲気を一変させて酒呑童子と向かい合っている瑞稀。
「……これは、どういう状況だい?」
遅れて、これまで幾度も大翔からSOSが出されていた場所へとようやくたどり着いた汐梨は想定外の光景を前に困惑の声を漏らすのだった。
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