第38話

 最悪だ。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 酒呑童子は僕よりも強く、このままじゃ勝てない。

 だが、それでも人鬼と戦った時とは違う……僕は人に頼ることを覚え、沙月さんや汐梨さんを呼ぶための陰陽術だって覚えた。

 孤独に戦い、足掻くだけではない───時間を、時間を稼ぐのだ。

 どちらか二人が僕の元に駆けつけてくれるまでの時間を。


「すぅ……」


 大穴を挟んだ向こう側に立つ酒呑童子から視線を外さないまま僕は構えを取る。


『いい加減、終わらせるぞ』


 かなりの距離があった。

 僕と酒呑童子の間には、本当に長い長い距離があったはずなのだ。


「は、はや──っ!?」

 

 それでも、まばたきした瞬間には僕のすぐ目の前へと酒呑童子が迫ってきており、地面を蹴ってこちらへと一直線に伸びてきた勢いそのままに僕へと突進してくる。


「ぐっ!?」


 突進による一撃を喰らって後ろへとのけぞる僕だが、それでも足を地面から離さずその場に留まる。

 そして、力強く拳を握って酒呑童子を狙ってアッパーを放つ。

 

『……』


 それを酒呑童子は余裕の表情で回避し、そのまま僕に向かって蹴りを叩き込んでくる。


「がふっ」

 

 僕に酒呑童子の攻撃を回避する余力などまるでなく、そのままクリーンヒットして吹き飛ばされてしまう。


「……ッ!」

 

 それでも、僕は着地の際に自分の両の手の平を地面へとつけてバク転の容量で後方へと下がり、追撃として僕の方へと迫ってきていた酒呑童子の拳を回避する。


「はぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!」


 そして、後ろに下がる共に地面へと足をつけて再び地を蹴った僕は酒呑童子に向かていく。

 攻撃は最大の防御───!に、逃げてばかりじゃ!稼げる時間も稼げない!


『ふんっ!』


 決死の思いで放った僕の拳であったとしても酒呑童子に掴まれ、そのまま腕ごと捕らえられてしまう。


『でやぁーっ!!!』


「あぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!」


 僕の腕を掴んだ酒呑童子はその場で回転し、僕を振り回す。

 体が宙に浮いたまま回転し、平衡感覚が潰れると共に強烈な吐き気と圧迫感を与えられる。


「ぶぶっ」


 そして、その途中で僕の目と鼻から血が溢れ出す。


『だりゃぁ!』

 

 そんな中で僕の身体は酒呑童子に全力で投げられる。


「あぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」


 血をまき散らしながら宙を飛び、世界を舞う。


「お兄ちゃん……大丈夫だから」


 そんな僕の耳に、瑞稀の声が。


「……、瑞稀?」


 大きく吹き飛ばされた僕。

 それが地面に落ちるよりも前に受け止めたのは非力であったはずの瑞稀であった。

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