第37話
僕が舌打ちを一つ、吐いている間にも酒呑童子はこちらの方へと戻ってきている。
『さぁ、やろうか?人間……そろそろ、ウォーミングアップは終わりだ』
先ほどの、焼き直しであるかのように僕の前に立った酒呑童子は再びこちらへと隙を見せる。
「……ふっ」
それに対して、罠であるとわかっていながらも僕は地面を蹴って酒呑童子の方へと迫っていく。
だが、そのあとからは先ほどとはまるで違っていた。
「かはっ!?」
僕が酒呑童子の前へとたどりつくよりも前に、地を蹴った酒呑童子が動く共に出された肘打ちが僕の顎へと突き刺さってそのまま後方へと無理やり下げさせられる。
「くっ」
それでも強引に態勢を立て直す僕へと酒呑童子はそのまま追撃の手を加えてくる。
何とか態勢を立て直したばかりの僕に対して、酒呑童子は足払い一つで再び態勢を崩させる。
「ぐふっ!?」
そして、流れるような動きで酒呑童子が再び繰り出した肘打ちがあまりにも重く、僕の腹へと突き刺さる。
思わず蹲くまってしまった酒呑童子へと更に追撃を加えるべくこちらの顔面へと拳を向けてくる。
「だらぁ!」
それに対して僕は己の上半身を縮めるという力技で強引に回避し、無様な格好から足蹴りを繰り出す。
「せいっ!」
それを上に飛ぶことで回避した酒呑童子に対して僕は酒呑童子へと燃え盛る刀を投げつける。
それを酒呑童子は空中で少しばかり態勢を崩しながらも腕で弾いてみせる。
「陰陽上級、一柳」
刀の予備ならいくらでもある。
再び展開した刀を握って僕は柳のように緩やかな半円の軌道を描く一振りで酒呑童子へと斬りかかる。
「ぐっ!」
『……ッ』
僕の一振りを酒呑童子は刀を素手で掴んで強引に止める。
刀は酒呑童子の素手の皮膚を切り裂き、流血を強いるが、それ以上のダメージは与えられない。
「ふっ」
ここで、僕はあえて刀を陰陽術をかける前の小さな状態へと戻す。
『……おっ?』
いきなり掴んでいたものが消えた酒呑童子は前のめりにして態勢を完全に崩す。
「はぁ!」
そんな酒呑童子の腹へと全力の蹴りを叩き込み、地面へと吹き飛ばす。
「……ッ!」
僕は刀を再展開する時間すら惜しみながら酒呑童子を追って、拳を握る。
「あがっ!?」
それに対して空中で姿勢を整え、地面に足で着くと共に地を蹴っていた酒呑童子がこちらの方へと迫り、そのまま完全に攻撃の為に動いていた僕の頭へと素早い蹴りが叩き込まれる。
「……くっ」
素早い蹴りを受けながらもなんとか受け身を取って地面へと転がった僕はそのまま少しふらつきながらも立ち上がる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
不味い……不味いな、思ったよりも、酒呑童子が強い。
『まだまだ行くよ』
息を切らす僕に対して素早く踏み込んできた酒呑童子は拳と共にこちらへと迫ってくる。
「いっつ」
酒呑童子の振るう拳に何とか合わせた僕の腕は鋭い痛みと共に痺れ始める。
続く酒呑童子の前蹴りに対しても僕は何とか膝を上げてガードして見せる。
それでも、全然完璧ではない……この、たった二撃で僕の身体は全身を走る衝撃と痛みによる痺れでうまく動かなくなる。
『ほら』
そんな僕の顔面を酒呑童子の拳が捉え、そのまま僕の身体は宙を舞う。
「ぐっ……!」
それでも何とか空中で視線を整えた僕は地面に足をつけ、追撃のためにこちらへと迫っていた酒呑童子の上を飛び越えて距離を取る。
『ほら、避けろよ』
視線を酒呑童子の方へと向けると、いつ手にしたのか瓢箪を握っており、その中身をすべて胃の中へと収めているところだった。
『すぅ……大獄天』
そして、酒呑童子は深々と息を吐くと口から大量の煙が噴き出される。
「……!?」
そのまま天へと昇った煙は一つとなり、燃え盛る一つの巨大な隕石へとその姿を変えていた。
「……クソがッ!」
慌てて僕が自分の立っていた場所から逃げる。
「あぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!」
何とか直撃は避けた。
それでもその爆風だけで僕の身体は吹き飛ばされて地面を転がっていく。
「クソったれが!」
そして、地面へとぶつかったその隕石はそのままマガノの地面を大きく破壊し、巨大な穴を作り、広げていく。
ひび割れ、徐々に大きくしていくその大穴へと呑み込まれそうになった僕はそれでも何とか逃れ、崩壊していく地面を無様に駆けて何とか逃げることに成功する。
「……嘘だろ?」
何とか落ちずに済んだ僕は自分の隣に広がっている巨大な穴を前に声を震わせる。
底を見せないその大穴を覗き込めば、自分を保っていられなくなるほどの恐怖を感じらせられる……これに、直撃を喰らっていたら僕は確実に死んでしまっていただろう。
こんなのを、相手に勝てと言うのか?
「……どうしようかな、これ。勝てそうにない」
ふざけるなよ、クソったれが。
僕は想像以上の酒呑童子の強さに声を震わせながら声を漏らし、それでも諦めずに陰陽術でもって沙月さん並びに汐梨さんへとSOSを送り続けるのだった。
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