第35話

 地面を蹴り、真正面から星熊童子へと迫る僕は己の手に握られている金棒を力任せにた叩きつける。


『お、おぉ!?』

 

 僕の金棒の一撃は確実に星熊童子の両腕を粉砕させるが、それでも一撃で倒すつもりだった僕の目論見は外れ、その頭蓋骨を叩き潰すまでには至らなかった。

 両腕で受け止められてしまったのだ。


『はぁッ!』


 そんな僕を狙って星熊童子の隣に立っていた熊童子が僕を狙ってその剛腕を振り下ろす。


「ふん!」


 それを蹴りで叩き上げた僕はそのまま体を反転させ、もう片方の足で熊童子の腹へと回し蹴りを叩きこむ。


『ふぐっ!?』


 それと共に大きく吹き飛ばされている熊童子へと向けて僕は己の手にある金棒を投げつけ、更に追い打ちをかける。


『ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ』


 金棒をその顔に受け、ダラダラとその美麗な顔から血を流す熊童子は悲鳴を上げながら倒れ伏す。

 そんな熊童子へと僕は片手を向け、陰陽術を一つ。


「陰陽上級、神楽舞」


 焔が舞い、マガノへと差し込む。

 暗く、醜悪なマガノという世界の中で僕の陰陽術によって顕現させられた炎が煌き、その中心で熊童子が燃え盛る。


『おぉぉぉぉぉぉぉおおおおオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』


 そんな中でも熊童子は地面を転がりながらも無様に炎から逃げ、その身を焼き焦がしたまま何とか逃げおおせる。

 

『はぁ、はぁ、はぁ……』


 そして、熊童子は自分に大量の水を書けることで何とか炎を鎮静化させようと動く。


『はぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!』

 

 そんな熊童子へと止めを刺すために足を踏み出そうとした僕を狙って星熊童子がその完全に折れた腕を、それでも根性で拳を握りしめて殴り掛かってくる。


「そんなので倒せるわけがなかろうて」


 いくら根性で拳を固めていたとしても、両腕が折れている中で僕の方に向かってきて勝てるわけがない。

 大したダメージもない星熊童子の拳を顔面で受け切った僕はそのまま星熊童子の頭に向かって上段蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。


『……ぁ、うっ……』


 熊童子のすぐそばにまで吹き飛ばされていった星熊童子は完全に首が折れた状態で無様に地面へと倒れ伏す。


『クソ……悪夢さね。いくら、我らが───────だからと言っても、これは。ここまでの速度で強くなっているとは』


 僕が星熊童子を倒している間に何とか炎を消し切った熊童子が震えながら言葉を漏らす。

 だが、既に熊童子もボロボロ。

 筋肉が多くついた巨体で威圧感がありながらも、それでも端正な顔立ちを美しい体をもっていた熊童子の姿は既にそこになく、体中に皮膚が爛れるほどの火傷を負ってしまっている。

 その見た目はまさに本物の化け物のようである。


『この手だけは、この手だけは使いたくなかったが……もう、四の五の言ってられなないね』


「あん?」 

 

 既に絶体絶命であった熊童子は何をトチ狂ったのか、突然自分の隣に倒れていた死にかけの星熊童子の側に駆け寄るとそのままその体へと噛みつき、その肉を喰らい始める。


「……えっ?あ、……えっ?何、しているの……?」


 当然のカニバリズムに対して思わず戦闘の高ぶりまで冷めてしまった僕は本気で困惑の声を漏らす。

 な、なんで仲間同士で食べ合っているの?


「……ッ!?」


 そんな疑問。

 それに対する答えは目の前の熊童子から帰ってきた。


『……あぁ、───様』

 

 突如としてその身から蒸気を上げ始めた熊童子は、どんどんとその体から溢れ出させる力を増減させていく。


「……ッ、こ、これはっ!?」


 僕が驚愕の声を漏らしている間にも。


『……ふぅ』

 

 熊童子の変貌が完了する。

 その見た目は先ほどの巨体から一点、中学生くらいにまでその体が著しく縮んでいた。

 髪は肩くらい長さになっており、中性的な感じを醸し出している。


「……」


 見た目としては随分と小さくなり、その迫力は失われてしまっている。

 だが、それは外見だけで見た目を判断するなというよい見本である……その中にある実力は、先ほどまでの二人とは雲梯の差である。


「な、何があったら……そこまで上がるんだよ、星熊童子と熊童子の二人を足しても全然届かないでしょ」


 僕は明らかな強敵となった熊童子を前に小さな声でボヤく。


『……僕を、その二人と同じにしないでくれるかな?』


 だが、そんな僕の言葉を当の本人が否定する。


『僕は酒呑童子。あの子たち二人とは格が違うと言いたいね……ふぅー、こんなことになるなら最初から僕が出てくればよかった』


 そして、己のことを酒呑童子だと名乗るその鬼は辟易として様子で言葉を漏らすのだった。


 

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