第33話
「さて……問題は、何故。僕たちがマガノにいるのか、だよね」
落ち着いた先で考えるのはなんで自分たちがこんなマガノの中にいるのだろうか?という考えてみれば至極当然の疑問である。
「そ、そうだね。ここから、問題なく逃げることは出来そう?」
「……どうだろうか。僕は未だにマガノと現世を繋げるゲートを作る陰陽術は苦手だから、自分が通れるものならともかくとして、瑞稀が通れるほどに頑強なものを作るのは……」
マガノでマガツキで戦うのが職務とする陰陽術にとって、マガノと現世を繋ぐゲートを作る魔法は最も重要な陰陽術と言って差し支えないような代物ではあるが、その難易度は高い。
初心者どころか中級者でも難しく、ある程度陰陽術を極めた人でなければ発動出来ないのだ。
一応、僕は良家の生まれであるし、汐梨さん曰く陰陽術の才能もあるらしく、本格的に陰陽術が使えるようになってから僅かな時間で攻撃系統の陰陽術を使いこなすのにあまり時間は要らなかった。
上級の陰陽術だってお手の物である。
ここまで来れば普通はゲートの陰陽術だって問題なく使えることが出来る。
だが、僕はどうしても攻撃系統以外の陰陽術は苦手であり、特にゲートの陰陽術は苦手という話である。
「そ、そっか……なんか、ごめんね、いつも、私が足を引っ張っちゃって」
「そんなことないよ、僕は瑞稀を足手まといだなんて思ったことはないから大丈夫だよ。昔から、困ったことがあればお互いに助け合う。それが僕たちの在り方だったでしょう?これまでもずっと、一緒だよ」
「……うん、ありがとう」
それでも、いくら瑞稀を慰めようとも事態そのものが解決するわけではない……う、うーん。どうしたらいいんだろうか。
逃げるのも難しいだろうけど、そもそもとしてゲート開けないと漂流だからね。
う、うーん……一応、時間をかければゲートを開くことも出来るけどぉ、どうしても隙だらけになっちゃうんだよね。
時間もあるし……ここが安全な地帯であるかどうか、あの黒点が何だったのかなどと言った最低限の目安が出来るまでは……あまり、やりたくない。
もしも、ここに沙月さんがいればかなり事態も違うのだけど……沙月さんなら、問題なく三人を現世に戻せるゲートを開けるだろう、僕とは違って。
そもそもとして沙月さんは黒点の中に呑まれたのだろうか?
「……わからないものを頼っていても仕方ない、か」
これでも僕は幾度の戦いを経験しているベテランなのである。
どんな事態にも対応してこそのベテラン……この程度でへこたれちゃだめだ。
「ふぅー」
僕は深呼吸してから辺りを見渡す。
広がっているのは何処まで行ってもマガノの世界である。
「とりあえず瑞稀」
「う、うん。何?」
「まずはあたりを散策するよ、それで安全でありそうであれば僕が少し時間はかかるけどゲートを開いてマガノの方から戻るよ」
「う、うん。わかったよ。お兄ちゃん」
僕の言葉に瑞稀が少しだけ躊躇いながらではあるものの、素直に頷いてくれる。
「うん、それじゃあ……やろうか」
瑞稀が頷いたのを確認した僕は直ぐに行動を開始するために足を動かそうとする。
だが、その必要はなかった。
その理由は簡単であり、僕が周りを散策して見つけたかったものが向こうからやってきてくれたからである。
『おぉ、いたぜ。ったく、あれは対象の移転座標をずらすのが厄介だよな』
『えぇ、そうね。まったく嫌になる話わよね』
星熊童子と熊童子。
いつぞやの時に目にした二体の鬼が僕の前にその姿を現すのだった。
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