第32話
星がきらりと光る夜空の下。
巨大なキャンプファイヤーが明るく照らす庭の中で僕たちはバーベキューを行っていた。
「はぁー、食べた食べた!美味しかったわ!」
「えぇ、そうね。お肉も海老もお野菜も、全部美味しかったわね」
既に沙月さんが持っていた大量の食材をすべて焼き終え、腹いっぱいに食べた二人は僕が設置したハンモックにぶら下がって満足そうに星が綺麗な夜空を見上げている。
「それなら良かった」
基本的に焼く係に回り、あまり食べていなかった予めはけていた自分の分を食べながら満足そうな二人を見て声を漏らす。
「……ごちそうさまでした」
「良いですよ?自分がやります……こういうの、嫌いじゃないんです」
手伝うと話してくれた沙月さんの申し出を丁重にお断りして作業を進めようとした───その瞬間。
「……ッ!?」
何か、このままじゃいけないというあまりにも強烈すぎる悪寒が僕の中に走る、しかも……これは、あの時の。
僕が死にかけた人鬼が現れたとき以上の!
「ッ、おせぇだろっ!?」
その悪寒、それが来たその次の瞬間には何かが膨れ上がっていた。
僕の目の前に、世界へと穴が空いてしまったかのような黒点が浮かび上がり、そこから強烈な力の奔流が流されてくる。
「これは、マガノか!」
その力の奔流、雰囲気はまさにマガノのそれであった。
「く、クソったれがっ!?」
次に黒点より起こったのは吸引。
僕はほぼ反射的に陰陽術を発動させて、その場に留まり、吸引から抗っていく。
「お兄ちゃんッ!?」
だが、そんな無理やりにでも個人だけで留まってしまった僕の横を宙に浮かんだ瑞稀が通り過ぎ、そのまま黒点へと吞み込まれて行ってしまう。
「瑞稀!?」
慌てて伸ばした僕の手は宙を切る。
陰陽術を発動させていた僕の反応はあまりにも遅く、掠るなどというレべルにはなかった。
「……ッ、クソがぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!」
ここで瑞稀を見捨てて自分だけ黒点の吸引に抗うなんてありえない。
僕はすぐさま発動した陰陽術をキャンセルし、そのまま瑞稀を吸い込んでもなお変わらず吸引し続ける黒点の中に身を投げ出していく。
「……ッ」
僕は黒点の中にあっさりと呑み込まれ、そのまま視界が暗転していくのだった。
先ほどまで楽しいバーベキューが行われていたはずの庭の中。
そこから大翔も瑞稀も黒点の中へと飲まれてその場から姿を消し、この場から誰もいなくなってしまうのだった───確かに、瑞稀の隣のハンモックに寝ていたはずの沙月すら。
■■■■■
強力な力の奔流と吸引に流れを任せ……どれほどの時であっただろうか?
非常に長い時間が流れたような気もするが、おそらくは一瞬だっただろう。
「……ここは、マガノ?」
黒点に飲み込まれてただひとりとなった僕は辺りを見渡して言葉を漏らす。
「……な、なんで……いや、こんなことマガツキ関連くらいしかないか!」
疑問に思いながらもすぐさま飲み込んだ僕はそうそうに自分の中で折り合いをつける。
まずはそう、僕の前に吞み込まれて行ってしまった瑞稀と合流することである。
「キャー!」
そう考えた僕が瑞稀を探すために人探しの陰陽師を発動しようとしたタイミングでちょうどよく遠くから叫び声か、瑞稀の悲鳴が聞こえてくる。
「瑞稀!?」
僕は発動しようしていた陰陽術をキャンセルして、声がした方へと向かうべくマガノの地面を蹴る。
「陰陽上級、神楽舞!」
そして、マガツキの多数に囲まれている瑞稀の元へとたどり着いた僕は迷うことなく陰陽術を発動させて殲滅する。
「ふぅー」
何とか無事に瑞稀の救出に間に合った僕は深々と息を吐く……あぁ、良かった。あの時の、人鬼と戦った時のように、瑞稀に命を捨てることを覚悟させてしまうような事態にしないで済んで。
「お、お兄ちゃん!!!」
「大丈夫だっ?」
そして、瑞稀の隣へと降りた僕は彼女へと疑問の声をあげる。
「うん!大丈夫!ありがとぉー!助けてくれて!」
「無事なら良かったよ」
そんな、元気そうな瑞稀を見て僕はほっと一息をつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます