第23話

 はるかかつて、黎明の時。

 未だ陰陽師と人々の生活が密接に結びついていた頃、平安時代初期の話。


 当時の陰陽世界には規格外とでもいうべき一人の陰陽師が存在していた。

 その人物は世にもまれな美人であり、空玉子色に好天気のずいはあらはれた唯の一目見るだけでめでだい吉報をもたらすしるしとされていたような人物であった。

 

 そんな幾つもの伝説を女子であるが、その一番は何よりもその実力であろう。他の追随を許さぬ絶対の力をその子は有していたのだ。

 そんな存在が生まれ、陰陽世界へと産声を上げるのと連動するかのようにマガノのおいても一つの特異点が生まれていた。


 大獄丸。

 マガノの一角に突如として姿を現した一柱の鬼であり、それが齎した災厄はあまりにも大きかった。

 鬼を率いて進む大獄丸は山を打ち破って突き進み、街を飲み込み、陰陽師の全てを喰らって日本を蝕んでいた。

 その力も、その勢いも、過去類はないものであった。


 同時代に現れた二つの特異点。

 最強の陰陽師たる女子と最強のマガツキたる大獄丸。

 それらがぶつかるのは自然とも言えるあろう。


 最強と最強。


 そのぶつかりは三日三晩続いたとされている。

 天は裂け、山は降り、海は荒れた。

 暗き世界における果て無き激闘、その果てに女子は己では倒し切ることの出来なかった大獄丸を、暫定的な処置として封印という手段を取った。

 己の身を人柱として発動させた封印術はあの強力かつ無慈悲な暴君を完全に過去のものとし、完璧に封じ込めてみせた。

 

 大獄丸という統領を失って統制を失った鬼の性質を持ったマガツキたちの多くを陰陽師は討つことにも成功している。

 非常に厳しい戦いであった。

 だが、その最終的な勝者は人類側でいると言えたのだから。

 多くの街に被害が溢れ、政府も混乱状態に陥ったが、それでも当時マガツキの中で最も強い勢力であった鬼どもをほぼ壊滅させたのだ。

 その意味は大きく、世界の壁を曖昧にするという魔がマガツキ全体の大望は大いに後進したと言って良い。

 既に鬼は一歩引いたのだ。


 そして、それよりは鬼の脅威は収まると共に狐と狸の性質を持ったマガツキたちの最盛期が訪れるようになった。

 長くの間、鬼は眠ることとなるのだ。



 そんな時代の中で、留意しなければならないのはその封印は永遠ではないことだ。


 

 さて、それでは語らねばならないのは女子が発動させた封印術についてであろう。

 その封印術は己の精神力を柱としており、その精神が摩耗していく可能性は十二分にあり得る。

 万人の味方として常に立っていたその高潔な精神も汚染され、そのまま崩壊していく可能性も大いにあるであろう。

 再度告げ、幾度も後世へと私は念押そう。



 留意しなければならないのはその封印は永遠ではない。



 留意せよ、大獄丸は終わらぬ。

 その───。

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