第30話
昨日の話があってからの動きは非常に迅速だった。
すぐさま大阪から離れ、雪音家が持っているという人気のない山の別荘へとやってきていた。
昨日、涼さんが話していた少しの苦労とは引っ越しのことだったのだ。
「ふふん、どう?なかなかにいいところでしょ?人はいないけど、その他ならいっぱいあるのよ……まぁ、ここは私が管理している古寺がないことが悲しいんだけど」
別荘の前に立つ沙月さんが意気揚々と言葉を告げる。
「そうだね!すっごく広い!こんな広い屋敷になんて始めてくる!」
そして、そんな沙月さんの言葉にうなづいて、瑞稀が完成の声を上げる。
「……家事とか、大変そう」
そんな横で僕はどうしてもつまらない事が気になってしまっていた。
この広い屋敷の中で暮らすのは僕と瑞稀と沙月さんの三人だけ、それでこの広さの屋敷を維持するのは大変そうだった……陰陽術で状態維持は行われているようであったが、それでも僕たちが暮らすとなると色々大変なことも多いだろう。
「お兄ちゃん!良いんだよ!そんな細かいことを考えなくとも!」
だが、そんな僕の言葉を瑞稀は一蹴する。
「えぇ、そうね。困ってから考えればいいのよ。そういうのは。それまで適当でも大丈夫よ……きっとね、多分、おそらく」
そして、それに沙月さんも続く。
「……えぇ」
僕はどんどん確実性を失っていく沙月さんの言葉に困惑の声を漏らす。
……。
…………まぁ、それでも時にはこういう勢いでやっていくのも面白い、よね?
「さぁ!入りましょ!」
「そうだね」
「えぇ、いらっしゃい」
僕は二人とともに屋敷の中へと入るのだった。
■■■■■
屋敷の中もしっかり外の立派な姿とともに綺麗かつ厳かな見た目を保っていた。
「ここでしばらく暮らしていくことになるのね!」
高そうな別荘の中を見て瑞稀が歓喜の声を上げる。
「……?」
そんな中で僕はどこか、屋敷の中に強烈な違和感と謎の居心地の良さを感じていた。
「ん?どうしたの、大翔」
そんな僕の様子を見て不思議そうな表情を浮かべている沙月さんがこちらと真っ直ぐに視線を合わせてきながら疑問の声を上げる。
「うっ……」
真っ直ぐとこちらの方に視線を送ってくる沙月さんに照れくさいものを感じながら、僕は口を開く。
「何ともないから大丈夫です」
「そう?それなら良かったけど」
僕の言葉に沙月さんが笑顔でうなづいた後に視線を外す。
「さっ!それじゃあ、二人の部屋に案内するから、そこに置いてある自分たちの荷物を綺麗に整理しておいて!」
既に僕と瑞稀の荷物はこっちの屋敷の方へと深夜のうちに移されている。
「はーい」
「はい」
僕と瑞稀は沙月さんの言葉に頷くのだった。
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