第14話

「おはほぉう……」


「もうお兄ちゃんったら、大きくあくびしちゃって」


「だって瑞稀、昨日僕戦ったんだよ?」


「それはそうだけど」


「2人とも朝ごはんだよ!」


 早朝から元気な沙月さん。僕は昨日の疲れが残っているのに、沙月さんは昨日の疲れは問題無しとでも言うようにハキハキしている。


「今日のご飯はなんですか? 沙月さん」


「今日は鮭とご飯としじみ汁よ。今日こそはパンバイキング行くから」


「昨日は逃しちゃったみたいだからね」


 昨日は朝からマガノに行って、マガツキと戦って、お昼にパンバイキングしようと思ったけど、沙月さんが警戒心ピリピリさせて。


 パンバイキングを逃して、お昼も食べずにマガノに行ってマガツキと戦って。汐梨さんと出会って同行することになって。


 昨日の夕食なんて何を食べたか覚えていない。全身クタクタでずっしりと重くて、夜はすんなり眠りについた。


「ふわぁーう……。なんだろう。あくびが止まらない」


「夜中いびきまでかいてたのに?」


「ちょっ、瑞稀……」


「寝言も言ってたね」


「さ、沙月さんまで……。なんか恥ずかしい……」


 っていうか、いつの間に寝顔を見られていたのか。思えば昨日見た夢はなんだったのだろうか? 悪夢のようだった気がする。


 だけど、どんな夢だったのかはあまり覚えていない。見た事のない悪魔が目の前に現れて、何かを言っていたが思い出せない。


「そういえば大翔くん。うなされてたでしょ」


「ぼ、僕が⁉︎」


「うんうん。うなされてたね。どこか苦しそうな感じがしたよ」


「そ、そう? 目覚めが悪かったのもそのせいかな?」


 僕がうなされてた、か……。なんか今日も慌ただしくなりそうだ。


 ■■■■■


 今日は部屋の清掃作業があった。どうやら月1回の大片付けらしい。僕も自分の部屋を整理してちょうどひと段落ついた。

 そこで、僕は妹の瑞稀のところへ向かっていると……。


「沙月先生! もう一度だけ。もう一度だけ見させてください!」


「もうこれで10回目よ」


「お願いします!」


「陰陽下級 一迅之太刀!」


 よくみると瑞稀は刀を持っていて、沙月さんに指導を受けてるところだった。どうやらお取り込み中のようだ。


「沙月先生。こ、こうかな?」


「その調子。その軌道で素早くやってみて」


「はいっ!」


 ここまで熱心に指導を受ける瑞稀は、見たことがない。対して僕は妹に何もしてやれてない。したことがあるのは、身代わりくらいだ。


 鳴海家での僕と瑞稀は、満足できるほど食事を与えられてなかった。毎回少ない量しかなく、僕はいつも自分の分を瑞稀にあげていた。


 それもあってか、瑞稀は食事が大好きで色んな料理を知っている。あまり味には期待してなかったようだが……。


 対して味もわからず育った僕は、雪音家に来てようやく食事というもの知ったばかりだ。雪音家の料理はどれも美味しくて、外食もしてくれる。


「全てはあの事件だったなぁ」


「もうお兄ちゃん。そこで突っ立ってないで」


「み、瑞稀⁉︎ もしかしてバレてた?」


「バレてたも何も。パンバイキング行くよ!」


「う、うん」


 ■■■■■


 パンバイキングの店へやってきた僕達は、昨日と同じ手順で入店した。今日は汐梨さんに呼ばれてないし、掃除も終わってるので暇だ。


 生まれて初めてのバイキング。食べたいものを中心に取っていくか。自分の食事量に合わせて戦略的にいくか。


 だけど、パンの種類が多すぎてどれがいいかわからなくなっていた。ここは沙月さんに聞くべきか?


「うわぁぁぁ。パンがいっぱぁーーい! まずチョココロネでしょ。ミニフランス。レーズンもある! あとはあとはー」


「ちょっ、瑞稀取りすぎ取りすぎ!」


「あ、お兄ちゃん! じゃあ、お兄ちゃんにはこれあげる」


 そう言ってトレーの上に乗せられたのは、チョココロネとレーズンパンだった。2つとも食べたことがある。


 沙月さんがよくスーパーで買ってくるパンだ。味は想像できる。想像できるけど……。


「はむっ! あれ? スーパーのチョココロネと味が違う。こっちのチョコは少し苦い……」


「でも、パンは甘い。これってチョコの風味を引き立たせるためかな? チョコも種類豊富だね」


「うん」


「最近では、“キャロブ”っていう植物を使った、カカオアレルギー向けのチョコもあるくらいだからね。はいっ、チョコパン。こっちは甘いよ」

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