第13話


「みんなおつかれーー」


「お、お疲れ様です……。また身体がずっしりとしてる……」


「わ、私も……。沙月先生と汐梨さんはすごいですね。マガノとこっちじゃ感覚が違うよぉー」


「瑞稀……、それ同感」


 星熊童子と熊童子に出会い、話もせずに現実世界に戻ってきた僕達。また会うと思うけど、なぜ彼らが現れたのかはわからない。


 外は夕焼けのオレンジに見えるが、日の入りが始まったばかりで、さほど時間が過ぎてなかった。


「夕食にはまだ時間あるね」


 瑞稀が自分のスマホを見て呟く。時刻は午後3時で、日の傾き具合にも納得できた。じゃあ、汐梨さんが言ってたのって?


「冗談に決まってるじゃないの。ああいう時はハッタリでも言っとけば逃げるなんて朝飯前。いえ、晩飯前ですの」


「は、ハッタリって……」


「貴公達には関係ないですの。わたくしはわたくしのしたかったことをしたまで。それよりもそこの男の子」


「ぼ、僕ですか⁉︎」


「貴公に少しお話がありますの」


 今度は何? 汐梨さんに名指しされたんだけど……。

 僕は少し困惑した。僕が何をしたのだと言うのか? さっぱりわからない。予想はしているが、僕自身も全く理解できてない。


「大翔くん行っておいで」


「沙月さんまで⁉︎」


「っていうことで、決まりましたの。ちょっと時間くださるかしら?」


「わ、わかりました……」


 こうして僕は、汐梨さんに連れられて雪音家を出たのだった。何を聞かれるのか知らないけど、ちょっと緊張していたのは内緒にしておこう。


 ■■■■■


 汐梨に連れられる形でやってきたのはオシャレな喫茶店であった。


「それで、汐梨さん。僕に話って?」


「それよりも、お飲み物頼んでくださる?」


「は、はい……」


 そう言われ僕はメニュー表を開く。ケーキやパフェと並び、ちょっとした小鉢まであるなんでもありの店だった。


 飲み物もとても豊富で、目移りしてしまう。ここは大人っぽくコーヒーを頼むべきか? それとも子供っぽくジュースを選ぶべきか?


「はいっ。時間切れ」


「し、汐梨さん僕まだ選んで……⁉︎」


「オーダーお願いしますの」


 選んでいたのにメニュー表を奪われた僕。暗記すらできてないのに、スパルタ過ぎて泣けてくる。何があったか忘れてしまった。


 そうこうしているうちに、喫茶店の店員がやってきた。どうやら汐梨さんは決まってるらしい。


「わたくしはいつものブラックコーヒーをお願いしますの。そちらの男の子はオレンジジュースでいいかしら? それともラズベリージュース? ブルーベリーを筆頭にしたベリベリミックスもありますの」


「じゃ、じゃあ、オレンジジュースで……」


「かしこまりました。ブレンドコーヒーと、オレンジジュースですね。お間違いないでしょうか?」


「ええ」


 『いつもの』って言うだけで伝わるんだ。汐梨さんはここの常連なのだろうか? 僕には初めてすぎてわからない。


 それよりも、僕に何の用があるのだろうか? それがまず知りたい。しかし、汐梨さんは何も切り出そうとはしなかった。


「あの汐梨さん?」


「何かしら? それよりも名前聞いてませんでしたの」


「あ、はい、な……。じゃなくて、雪音大翔です」


 僕は汐梨さんに自己紹介をする。雪音家にやってきてから自己紹介をしたのは、これが初めてなので、思わず“鳴海”と言ってしまいそうだった。


「大翔ね。承知しましたの。先程の貴公の戦いぶり。お見事でしたわ」


「あ、ありがとうございます……」


「そこでなんだけど。少しの間わたくしと行動してもらえる?」


 こ、声色が変わった……。


「貴公には興味がありますの。あんな見た事もない技でマガ……。熊を怯ませるなんて、面白いものを見させてもらえましたの」


「熊? さっき倒したのはマガ……うぐっ⁉︎」


「ここではその呼び方はダメですの。陰陽師にも企業秘密のようなことが定められてますの」


 そう聞いて僕は周囲を確認する。そこには他の客も居合わせており、今置かれている状況がわかった。

 それにしても熊……熊を殴るとかおかしいでしょ。


「お待たせしました。ブレンドコーヒーとオレンジジュースです」


「ありがとう。いつも助かりますの」


「いえいえ、ごゆっくりどうぞ」


 そう言って店員はお辞儀をすると、そそくさとカウンターの裏側に戻って行った。とても忙しそうだ。なんとなくわかる。


「それで、僕が汐梨さんに着いていくってことでしたよね?」


「その通り。ですの。よろしくて?」


「べ、別にいいですけど……」


「決まりですの」


 こうして僕は、雪音家で暮らしながらも、汐梨さんのマガツキ討伐に付き添うことになった。これがどのような意味を指しているのかもわからないまま……。


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