第12話

「ふん!」


 どこからか、聞き覚えのある声が聞こえる。誰なのかはわからない。僕はキョロキョロ見渡すけど、声の主はどこへやら。


「大翔くん。彼女ならあそこにいるよ」


「え?」


 僕は沙月さんが指差す方向を見る。そこには、高級ブティックで買い物をしていた女性が、斧を振り回していた。


「こんなものチョロいですの! ふん!」


「沙月さん。彼女は?」


「陰陽師家の名家【水の家】の末裔、禍火汐梨さんね。ああ見えて結構お嬢様なのよ」


「あ、あれがお嬢様……」


「どうやら、こっそり着いて来たみたいね」


 【水の家】のお嬢様……。にしては、鼻息が荒い気がする。話し方もいちいち……。


「陰陽超級! 水切刃!」


 汐梨さんが技名発声をする。彼女の周りには数十体の中級マガツキ。すると、その周辺が水の壁で見えなくなった。

 水の壁は渦を巻き、ブオンという音がどんどん大きくなっていく。僕は立ち止まり眺めるだけ。汐梨さんが見えない。状況がわからない。


「あの技は?」


「禍火家に伝わる技ね。名家にはその家ならではの陰陽術があるの。雪音家の場合は火属性。確か鳴海家も同じだったはず」


「なるほど……」


「【火の家】が鳴海家だからね」


 僕は火属性なのか……。

 知らなかったことがわかり、少し頭を捻らせる僕。瑞稀と言えば興味津々で沙月さんと汐梨さんを交互に見ている。


 そういえば、汐梨さん。水の壁の内側にいたけど、大丈夫なのだろうか? その答えはすぐに出てきた。


 汐梨さんの周りを囲っていた水の壁は、いつの間にか飛散しており、そこにいたマガツキは全滅。さすがは名家の人間だ。


「あら、貴公達見てた? わたくしの華麗な斧を」


「いや、斧を見ていたわけじゃないんですけど……」


 汐梨さんに声掛けられた……それに対して僕は若干動揺しながら答える。

 たしかに汐梨さんの技は凄かった。いつまでも見ていたいくらい凄かった。どこからともなく現れた大量の水。それを自在に操っている姿は、水の精でもいるかのような感覚。


『おやおや。これまた悲惨なことを』


『ですわね……』


 誰かの声が聞こえる。誰だろう? 僕らは全体を見回す。そこには筋肉ゴリゴリの、威厳のある2人組のマガツキがいた。


「星熊童子と熊童子じゃないの」


「汐梨さん知ってるんですか?」


「ええ、もちろんよ。けど、ここで話してる暇はないの。もう夕食の時間」


『そうか。なら仕方ないな。そこの男と手合わせ願いたいところだったが』


 そこの少年って僕のこと? 無理無理無理。


『彼を見ていると、どこか懐かしい……。昔お世話になっていた人物によく似ている』


『たしかに、星熊童子の言う通りね』


 僕が誰かに似ている? わけわからないよ。

 すると突然、ポンと背中を叩かれた。そこには、沙月さんと瑞稀が『帰るよ』と言ってる様子で僕を見ていた。

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