第49話 南部対策

 アルフレドの布教が終わって間もなく、神殿前はデモゴル教への入信者が列をなしていた。蛍とナグモが手続きを行い、数日後に行われる礼拝の日時を伝える。


 入信希望者はこの礼拝を受け、初めてデモゴルゴ教の信者となるのだ。アルフレドが神殿の奥から姿を現すと列を作る入信希望者から歓声が上がる。


「アルフレド様!」

「教祖様!」


 アルフレドはその者達に近づき、目を見ながら手を取る。入信者に感謝の意を伝え、一人一人に丁寧に話しかける。


 「また神に祈りを捧げることができます」


 涙を流した老婆は感激のあまり膝をついてアルフレドの手を取る。


「感謝をしなくてはならないのは私です。皆さんの祈りはいつか世界中の人に伝わる日がくるはずです」


 アルフレドは入信希望者の列にもう一度頭を下げると待機するコテツの元へと向かう。


「お待たせしました。礼拝の案内と入信の準備は蛍とナグモに任せておけば大丈夫でしょう。我々は今後の話を」


 アルフレド、コテツ、護衛のファーは森へと進む。道は最低限の舗装がされており、しばらく歩くと使い込まれた狩猟小屋へと到着する。


 小屋の横にはヴァシジ。どうやらアルフレドとコテツを待っていたようだ。


「アルフレド殿、民衆への働きかけは上手くいきましたな。あの入信者の数を見れば大成功だといえるでしょう」


「ありがとうございます。これもコテツさんや蛍さんナグモさん達のお陰です。そして、誰よりも存在感をアピールしていたのはヴァシジです! 改めてデモゴルゴ教になくてはならない存在だと実感しました」


 アルフレドが感謝の意味を込めヴァシジに顔を向けるとヴァシジは小さく唸り歯をむき出しにする。アルフレドは苦笑いを浮かべ、コテツが申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「ヴァシジここは任せる。私達はしばらく中で話をする。くれぐれも人を近づけないように頼む。もし、何かあるようなら声を上げてくれ」


 ヴァシジはフンッ! と鼻息を荒げるとそのまま扉に背を向け警戒状態へと移る。コテツとアルフレド、ファーは狩猟小屋の中に入ると椅子に腰を掛ける。


「さて、今後の話ですが南部のデモゴル教を支持しない者を取り入れつつ、セントの妨害に備えたいと考えています。その後、本格的に北部の布教活動に移りたいですね。ちなみに南部のデモゴルゴ教を支持しない者達に対しては実利を与えて取り込もうと考えています」


「実利ですか? 具体的にはどのようなことをされるつもりですか?」


「この街の南部は貧しい。かつて瑞穂に長く住んでいた方は精神的に成熟した方や、感情のコントロールができる方が多い。しかし、ピートモスで人生のほとんどを過ごしている者達。


 特に神教の教えを信じず生活していた若者たちは心がすさんでいる者達が多い、その者達の支持を得る、あるいは非難を躱す。


 彼らには週に一度の炊き出しと、神殿の建て替え工事を斡旋し、信者と分け隔てなく接することにより、デモゴル教が有益である。少なくとも害の無いものだと理解してもらいましょう」


「それは良い考えです。我らも全力でデモゴルゴ教を支えるつもりですが、資金という面では協力できない。アルフレド殿は何か当てがございますかな?」


「その点でしたら問題ありません。神殿の炊き出しと神殿建て替え費用、工事に伴う人足分の資金程度は貯えがあります」


「おおっ! 何から何までかたじけない。これで南部の者はおおよそデモゴルゴ教に引き入れることができましょうぞ」


「そうですね。それより私は今後のセントの行動が気になります」


「うむ。それに関してですが一つ確認しておきたい。本当にセント殿は人さらいなどの裏稼業に手を染めていたのですかな?」


「それは間違いないですよ。実はその内の一人を拘束し、デモゴル教に改宗させています。彼の罪は重いですが、情報や資金を提供し、デモゴル教に全てを捧げると誓っております。彼の言うことによると、数年前から町人を行方不明に見せかけ、裏で奴隷商に売りさばいていたようです」


「な、なんと!」


 コテツは刀の鞘を強く握ると、今にもセントの元へ切り込みに向かいそうな険しい表情を浮かべる。アルフレドはコテツの気持ちもくみつつ、昂った心を何とかなだめると、この場にいるようにと思いとどませる。

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