第12話 親切ではない仲間
ドンッ!
部屋のドアが乱暴に開かれる。
(くそっ! 偶然でもあんなやり取りを聞きたくなかった。アリバイ作りなど考えるべきではなかった!)
足をドスドス鳴らしながら部屋に入ってきたのは少し前に建物を出たアルフレドである。怒ってるようで怒っているわけではなく、失望しているようにも見えるがそんな訳でもない。強いて言いうなら諦めがついたという表現が当てはまる。
「あれ? もう帰ったの?」
アルフレドの姿を見て、間の抜けた声で質問を投げかけるマリアナ。アルフレドは固く結んだ口を開くと質問には答えずにマリアナに椅子に座るよう促す。
「改めて言う。私はやりたいことをやりたいようにやる。デモゴルゴの使者として、この村に人間の身体を届ける。ただし、私は人間だ。人間の倫理感を捨て、悪魔に魂を売るような仕事をしたいわけではない。私の基準で私のやりたいことをする。それでもマリアナは協力してくれるのか?」
「当たり前じゃない。私はアルフレドのやりたい事を手伝う、そう言ったはずよ。それがデモゴルゴ様の為になる」
「……もし、私がデモゴルゴ様を裏切ったら?」
「何がデモゴルゴ様を裏切ることになるかは分からない。でも、もし裏切ったら……私、許さない。無理やりにでも言うことを聞いてもらう」
マリアナが顔を下げると、アルフレドの視界に虚ろな目をしたグルが目に入る。グルは何を考えているのか分からない表情をしており、直立不動でマリアナの背後に立っている。
(もし、裏切れば私があのようになるという事か)
背中に冷たいのものが流れ落ち、数瞬の沈黙が流れる。
「――でもアルフレドはそんなことしないでしょ?」
マリアナが勢いよく顔を上げると、満面の笑みを浮かべ、再びアルフレドに歯を見せる。
「あ、ああ。もちろんだ。……作戦を考えようと思う。ぼんやりと方向性は見えているが、綿密な作戦を立てたい。できれば残ったモアの戦力も当てにしたい。モアの知っていることを教えてくれないか?」
「もちろん!」
アルフレドは粗末な紙と筆をとり、マリアナへの質問の答えをまとめ始めた。
※※※
「人が足りない。できればファーが戻ってきてから行動を起こしたいが……それでは遅いし」
ぼそっと口に出したつもりなのだろうが声は思いのほか大きい、アルフレドが深く悩んでいる様子が窺える。しかし、椅子に座る者はアルフレドただ一人。マリアナは何やら用意するものがあると出かけ、モアとグルは雑事に終われ、小屋内を慌ただしく動いている。
マリアナに聞いた情報とアルフレドの集落で仕入れていた情報を元に、蛮行を犯すことなく人体を手に入れる方法は見つけ出した。
しかし、この身体を手に入れるという方法が意外に難しく、人に見られるのは非常にまずい。ピートモスのギルドでフヨッド討伐隊でも組まれれば、目も当てらない結果がまっているのは想像に難くない。
アルフレドは意を決したようで椅子から力強く立ち会がると、お供にグルを連れ、部屋の扉を後にする。グルをすぐ横に歩かせるとアルフレドは声ひそめ、いくつかの質問を投げかけた。
「確認するぞ。この集落に私たちに協力してくれそうな人物はいないか?」
「そのような存在はいないと存じます。アルフレド様は集落の者には信用されておりませんし、天啓を受ける前の私も人望などはありませんでした」
あまりにもはっきりとした物言い、自分に人望がないと言い切ってしまうグルにアルフレドは色々と突っ込みたかったが、その気持ちをぐっと抑え、次の質問へと移る。
「でもさぁ。この集落のインプは人間の身体が欲しいんだろう? その可能性が目の前にあれば普通に考えれば何人かはその可能性に飛びつくんじゃないのか?」
「この村の住人は死んでいるのです」
「はっ?」
グルのはっきりとしない答えに消化不良を起こす。しかし、グルの様子から、これ以上は自分の目で確認しろというニュアンスが伝わってくる。頭をいじられている割にはアルフレドに対し親切でない気がする。
「アルフレド様着きました」
向かっていたのは長のドールが住む小屋である。特に当てのないアルフレドは集落の長のドールに協力の話し持ち掛けることにしたのだ。ノックを二度するとしばらくしてゆっくりドアが開かれる。ドアから顔を覗かせたのはドールの妻レゼントであった。
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