第13話 レゼントの想い
「これはデモゴルゴ教の使者さん。ドールなら出かけておりますよ。しばらくすれば戻ると思いますが……待たれますか?」
愛想よく接する姿を見て、一瞬、人間ではないかと錯覚を起こす。グルとアルフレドは礼を言うとドールの家でしばらく待たせてもらうことにする。
「何もありませんが良ければ」
盆に載せられてきたのは湯気が立つ飲み物。色合いから野草を煎じて作られたお茶のようだ。先ほどの愛想のよさもそうだが、この集落のインプとは思えないほど人間のアルフレドを歓迎してくれる。レゼントは自身も椅子に座ると笑顔を絶やさずに質問を投げかけてくる。
「それでドールにどのような用件で?」
「先日、私が皆さんに話した内容は聞いていますか?」
「もちろん聞いていますよ。まさか私が生きている間にデモゴルゴ様の使者に会えると思っていませんでした」
「はい。まずは先日もお話した通りこの集落に人間の身体を用意しようと考えております。デモゴルゴ様の天啓の元、私たちで準備をしたのですが、どうにもこうにも人手が足りない。そこで、身体を優先的に渡す代わりに、何人か私たちに協力していただけないかと考えました。その仲介として集落の長ドールさんに話しを着けて頂けないかとお願いに来ました」
「準備に?」
「はい。多少の危険はありますが矢面には私たちが立ちます。主にバックアップをお願いしたいと考えております」
リゼントは表情を変えずにお茶のお代わりを進めてくる。アルフレドが丁寧に断ると、リゼントは申し訳そうな声を出しながらぽつぽつと話を始める。
「私が生まれたのは人族と魔族の戦いが終わった後です。しかし、それでも人族に対する魔族の感情は想像を絶するものでした。そんな中、出会ったのが主人のドールです。ドールは他のインプに比べ、身体こそ恵まれませんでしたが、頭はとにかく切れました。人族の迫害が続く中、何とか死地を乗り越え、たどり着いたのがこのフヨッドです。しかし、人族の追手からは逃げられましたが、この場所は魔族領からほど遠く、瘴気が全くない。苦肉の策で編み出したのが人族に憑依するというインプの能力を活かした今の生活です」
「グルから聞いております。私が言うのもなんですが辛かったのでしょうね」
リゼントは遠くを見つめ目を細める。顔に刻まれた皺が強調され、品の良い老婆の表情を作り上げる。
「そう思うでしょ? 確かに最初は屈辱的な日々でした。本来の姿を隠し、自分の姿を出すことができませんからね。しかし、ドールと年齢を重ねるたびに、質素だけれど、この穏やかな生活に満足感を憶えるようになりました。もしかしたら、この元の肉体の持ち主がこのような気質だったのかもしれません」
「…………」
「アルフレドさん、私は新しい刺激はいりません。ただ、穏やかにこの肉体の寿命が尽きるまでドールと過ごせればよいと考えています。どうかドールを危ない目に合わせないで頂きたい、アルフレドさんがお願いすればきっとドールは貴方に協力してしまう。申し訳ないのですがお引き取り頂けませんか?」
レゼントは両手を机に置くと、弱々しく頭を下げる。アルフレドにとって魔族とはグルのような者しかいないと考えていた。しかし、目の前にいる老婆は家族と穏やかな時間を過ごしたいだけの女性である。しばらくの沈黙の後、レゼントに頭を下げると椅子から立ち会がり、無言のままその場を後にする。
「アルフレド様、宜しいのですか?」
「人手を頼めば必ずドールの耳に入る。作戦は私たちだけでもできる。何よりも私たちだけで体を確保することができればより奇跡を演出できるだろ」
「左様でございますか」
脳裏に寅之助時代が記憶が甦る。【家族】アルフレドは歩みを止めるとその場に立ち止まる。そんな行動を見てグルは不思議そうな表情をしている。
(人生において、レゼントのような者に愛されるものはどれだけいるだろうか? 私がやろうとしてることによってあの老婆の願いを踏みにじるかもしれない。しかし、私はやりたいことをやりたいようにやる。私の美学に反することは例えこの人生が終わっても決してやらないと決めたのだ)
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