魔法少女、初めてのダンジョン攻略
「だぁ! おりゃ! こなくそー! 当たれー! 当たるんだー! なぜ当たらないんだー!」
トモは薄暗い洞窟の広間の中、大剣片手にひらひらと舞う蝙蝠型の魔物と10分ほど戯れていた。当ると確信した一撃は何度も空を切りむきになっている。
隙だらけの攻撃を避けられるたびに、影から襲い来る別の魔物に擦り傷を付けられ怒り心頭といった様子だった。
「こういうのをいちいち相手しても埒があかんのじゃがのう……」
トモが熱くなっている横で、メテオラは小さな火球をいくつも作り出し蝙蝠たちを殲滅していた。
台地の横穴――ひびわれの断崖窟に二人が入って凡そ1時間が経とうとしていた。
事前のギルドとの打ち合わせで地図を渡され最短距離を走り続けた二人だが、とうとう狭い通路で魔物たちに捕まり、戦闘を開始する羽目になってしまったのだった。
蝙蝠型のモンスターの他には、四つ足の小型の肉食獣のような魔物に鉄の様に硬いボール型の魔物そういった物が同時に現れており、対処に追われ時間だけが刻一刻と削られていた。
「さっきからなんで当たらないのあれ!」
「
「え? 魔物にも恩寵ってあるの!?」
「地上で自然発生した魔物にはないんじゃがなぁ。 ダンジョン生まれの魔物は、ヘルモルト以外にもいくつかの神の思惑が絡んでいるらしくてな。割と余計な神技を持って生まれてくるんじゃ」
「解ったもうめんどくさい!
メテオラとの会話で大剣で戦うのを諦めたトモは、クーリガーの全開駆動の解除を行う。
赤と黒の帯の混じった光がクーリガーから迸る。
その光は折り重なり、トモを包むと数秒の後に弾けるのだ。そして現れるのは禍々しく歪に生えた角が成長した中にどこか可愛さの残るトモの姿だった。
魔法少女の姿のまま固定されていたトモだったが、この世界で変身の鍵となる言葉をつぶやくと多少見た目が変わっていた。
赤いゴシックドレス風のワンピースの腰には大きな赤いリボンが付き蝙蝠の羽は大きくなっている。どうやら短時間なら羽搏くことで飛べそうだ。
尻尾を勢いよくぶんぶんと振り回して意気軒昂といった様子でトモは大剣を掲げて、そのまま上空に大きく羽搏く。
可視化したマナがトモの周囲に集まる。その光はショッキングピンクの直視に耐えない光であった。その光を見守るメテオラは嫌な予感が背筋に走るのを感じた。
そしてその予感はクーリガーも感じていたようだ。
「本気でやる気ですか? マイスター? この場所のマナが薄いからといっても――」
だがその声は、トモの声に遮られる。
「魔力よ集まれ! 流星よマナの愛し子たる我が願う! 道行を照らし掃い給え! スターライズ!メテオブリッツ!」
その詠唱が終わると光は地上から一条の白い光の柱を作り出しトモの周囲で色を変えると、無数にはじけていくつものピンクの球体が洞窟内を覆った。
その様子を見守っていたメテオラが見上げた上空は禍々しい色をした星空に変わっている。ぽりぽりとメテオラが頬を描くと、上空から声が響く。
「星よ。 墜ちろ!」
その一言の後、星空は地に墜ちた。
間一髪メテオラは絶叫を上げながら、広間から脱出する。
元来た洞窟の支道へ何とか星が降り注ぐ前に滑り込むと、後方では機関銃のように断続的に轟音が響いていた。その衝撃はすさまじく、土煙が支道まで入り込んでくる。
メテオラは自分自身が大雑把なことはそれなりに自覚していたが、トモも大概やることが豪快を過度に超過していることを理解した瞬間であった。
――同刻、ひび割れの断崖窟最深部。
上階から無数の衝撃音が響き、天井からパラパラと砂粒が落ちる中、紫電の
「うっわ……、これやっぱあの二人かしら?」
レーネは帽子に降り落ちる砂粒を払いながら、先ほどから起こる洞窟ごと揺らす振動について一人ごとの様に呟いた。
「まぁ上層の魔物がこんな派手な攻撃するとは思えんわな。 無茶苦茶しやがる」
レーネの言葉に振り向きもせずバークレーは忌々し気に返す。
どうやら後先考えないトモの行動はバークレーの琴線に触れているようだ。
最初から不機嫌そうだったバークレーの表情は更に眉間のしわを深くするのであった。その態度にレーネとカークは顔を見合わせ、ため息を吐きお手上げといったジェスチャーを取るのみだ。
紫電の
8階層ほどトモたちに先んじて進んでいる。
ここまで大きな戦闘はなく、消耗もなく進んでいた。
しかし斥候のカークはこの階層に来てから、違和感を感じていた。
いくら裏道を使って来たとは言え静かすぎるのだ。
ダンジョンとは魔物達が産まれ独自の生態系を作るビオトーブであると同時に深層は外敵を拒む要塞としても機能しているのだ。
そしてこのひび割れの断崖窟も例外ではない。
上層、中層の10階程度までなら魔物が好き勝手産まれて暮らしているが、下層、そしてこの15階層以降の最深部に踏み入れれば、どんなに隠れ潜んだとしても熱烈な魔物の歓迎はあって然るべきなのだ。
しかし今はまったくもってそんなことは起こりはしない。
そんな言い知れもしない不安にカークは、進軍を中止するようにバークレーに進言するがそれが受け入れられることはなかった。
付き合いきれるかと逃げ出したい気持ちはあるが信頼した仲間だ。
「速度を落とすぞ? 謎のばけもんに不意遭遇戦なんかまっぴらごめんだ」
そういって不安を押し殺し、索敵を続けながら進むのだった。
レーネも同じ不安を抱えながらも、つき合いの長さと信頼が判断を鈍らせていた。
この信頼に裏打ちされた愚かな判断が彼らの命を脅かすこととなったのだった。
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やっと体調回復してきたので少しづつ書き始めたいと思います。
ご心配おかけしました
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