魔法少女、仄暗い地の底から

「けほっ!けほっ! やり過ぎじゃこんなの!」


 洞窟内に降り注いだ星の奔流は、大量の土煙となり大広間に繋がる狭い道一つ一つを覆いつくし、いくつかの道は脆くなった岩盤が崩れ落ち、パラパラと砂埃が落ちていた。


 土煙が晴れ始めた広間の中心を横道からメテオラがのぞき込むと、得意気な顔で佇むトモがそこにはいた。この惨状の原因たる少女には悪びれた様子はない。

 トモは辺りを見回す。件の蝙蝠が跡形もなく消し去ったことに満足すると、彼女は誇らしげに口角を上げるのだった。

 その笑顔は普段の気弱な様子と違い、見た目相応に活発な印象をメテオラに与えたのだった。


「はー! げっほ! げっほ! すっきりした! ああいうちっちゃいのを叩いて落とすなんて、ずずー! やっぱ非効率だね!」


 土煙で咳と鼻水に塗れながらトモは地獄絵図と化した洞窟の中で暢気に言葉を発する。その言葉には一切の反省の色は見えない。

 クーリガーはその様子にはぁとため息のような一言を発して呆れるのみで、いつもの小言は鳴りを潜ませていた。どうやらいつもの事なのだろう。言っても無駄といったことなのだろう。


 メテオラは横道からそのまま口元をハンカチで抑えながら、トモに近付いていく。


「この周辺の魔物はもう一切感じられんのう。 みな怯えて巣穴に帰っていったようじゃ。 まぁこの有様じゃさもありなんか」


 そういうとメテオラは薄目で辺りを見回す。

 視線の端々には抉れた地面に飛び散った血液の後、メテオラはトモが強いことは承知していたが制限なしでの戦闘は見たことはない。

 ダンジョンは地上と違いマナが魔物を作る土壌やダンジョン自体の修復に使われる。

 その為、マナ自体が薄く神技スキルやこの世界独自の魔術を使用せずとも暴走の危険性が薄い。

 その光景は大剣に依る近接戦闘が本職とメテオラはトモに対して評価していたが、枷が外れればこれほどの広範囲攻撃を鼻唄混じりに行うのかと、戦慄の感情が湧き起こるのを感じるのだった。


「ねぇメテオラこのまま先に進む?」


 大剣を携えたトモが笑顔を向けながらメテオラに声を掛けた。


「せっかく魔物の気配が消えたことだしのう。急いで下に向かうとすることにするかのう。 さっさと解決するが吉じゃろうしのう」


 その言葉と共にその場を足早に二人は去っていく。

 無意味な破壊を行っていた時間は紫電のエクレールとの距離を更に開かせることになったことなど二人は露とも知らぬことであったのだった。


 あなぼこがいくつも空いた大道を奥へ奥へ進んでいくと、次第に道が細くなっていた。侵入者を迷わせるように伸びた支道は奥に進むつれ間隔が広くなっていく。

 その道を横目で見つつ地図を片手にメテオラはどこが階段なのか頭を悩ませていた。


「ねぇメテオラ? 道大丈夫?」


「こう同じような道が続くとどうもわかりづらいのぅ……。 クーリガーはわからんのか?」


 メテオラは地図から目線を外し、トモの胸元の球体へ目線を移す。

 それに釣られトモは右手で球体を摘み「クーリガー? どう?」と声を掛けるのと淡い光が漏れ出し反応があった。


「マイスター、メテオラ。地図をこちらへ」


 無機質なその声はギルドから渡された地図を見せる様に促す。

 地図をメテオラがクーリガーの前に差し出すと、光で地図をなぞり道順を示すのだった。しかしその光をしげしげと覗いていた二人だが、途中で頭に疑問符を浮かべることになる。理由としたは下層への階段の印からその光は徐々に離れていったからだ。


「ちょっとクーリガー。どこに連れてくつもりよ?」


「マイスター。 階段を一つずつ進んでいくと埒があきません。 ここは縦穴を垂直に下ることを提案します」


 そういうと確かに地図の階段とは逆の西側の端に最下層まで続く縦穴がある。

 現在居るのは地下7階。この階層からであれば最下層21階へは14階層分の大幅なショートカットが可能だろう。トモの心情を映した苦い表情を無視すればのことではあるが……。

 トモはこの断崖窟に入る時の紐なしバンジーのフリーフォールを思い出していた。

 ダンジョン内のマナが薄く干渉が少ないとは言え、未だにトモは単独で飛行魔法の行使はできないのだ。

 パラシュートの様に膜状の魔力で速度を減衰することは出来るかもしれないが、生憎自分自身の魔力のコントロールにはそれほど自信がある方ではない。

 途中で膜が破れ地面に激突する可能性の方が高い。なんなら、パラシュートにした魔力が爆発して更に下へ加速して地上への激突も考えられる。


 相変わらず頑丈な魔法少女の肉体ではあるものの、好き好んで地面と熱烈な抱擁をしたいとは思いはしないのだ。

 それではと、メテオラの背に乗ればいいとも思うが先ほどのフリーフォールを見る限りこの龍は地面に向かってのチキンレースを楽しんでいる節がある。

 理解の出来ない奇行に巻き込まれるのは勘弁願いたいのだ。


 実際メテオラの顔を見ると目が爛々と輝いているのだ。

 確認するまでもない。この龍は間違いなくやる。トモにそう確信させただけの説得力がその顔には浮かんでいた。


 メテオラは鼻唄混じりに地図を見遣り、光の筋を人差し指でなぞる。

 そしてそのままうきうきとした様子でなぞられた道を進み始めるのだった。

 トモはその後ろを下を向きながら、とぼとぼとついていくのだった。

 その足取りは酷く重いものになっていることにメテオラが気づくことはないのであった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 やっと体調復調したと言ってからやく一月、ようやっと描けるようになりましたがとりあえずあと二日でなんとか5万字かかないと間に合わない状況とは……。

 プロット自体はあるので何とか締め切りまで頑張ります……

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