魔法少女、地の裂け目へ

体調ぶっ壊してました。

申し訳ないです。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 強風が音を立て、切り立った崖を走り抜ける。

 全長40kmを超える断崖、その深さは地面の奥底を超え地獄の底まで続くかのように暗い裂け目を地面に作っていた。


「……、メテオラ? ここ降りるの?」


 トモはその深い地の底を見下ろしながら、龍のメテオラに質問した。


「そうじゃのう。 そこらへんにロープがあるじゃろ? その下に入り口があるはずじゃの」


「へぇ……、なんでこんなとこわざわざ降りてくの」


 トモは嫌そうな顔を隠そうともしない。

 高いところは別に苦手ではないが、本能的に使い古されほつれの見えるロープに身体を委ねるのには抵抗があるのだ。


「ダンジョンはほっとくと魔物が溢れかえって大暴走スタンピードが発生するからのぉ。定期的に冒険者が入らんといかんのじゃ。 ちなみにこれもヘルモルトの仕込みじゃの」


「はぁ? あいつどこでも名前出てくるね……」


「神界とこの世に分ける時にのう。色々こねくり回したようじゃの。 恩寵を高めるための試練をいくつかこの世に置いていったようじゃ。 さて、行くかの?」


「はぁ……、解ったよ。行くよ。とりあえずロープに身体繋ぐから待ってて」


「? 何悠長なことを言っておる? 飛び降りるぞ?」


「え?」


 そういうと準備にまごついたトモを小脇に抱え、メテオラは大地の裂け目に飛び出したのだ。トモはジタバタともがき涙目になっている。メテオラの深く濃いワインレッドの髪は逆立ち身体は重力に引かれていく。

 そしてトモの絶叫と共に、二人は暗い大地の底への飲まれていった。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 ――同時刻、トモたちの後方の岩場にて


「おい? あいつら命綱なしで落ちてったぞ? バークレー?」


 バルド唯一の白銀等級の冒険者パーティー、紫電のエクレールその斥候カークはメテオラが崖に飛び込んだ姿を凝視していた。皮鎧を着た中肉中背の凡庸そうな見た目だが、白銀等級として認められている。その腕は街では十分に認められており、堅実な仕事はリーダーのバークレーよりもギルドからは信頼されていた。


「まさか自殺しに来たってわけじゃねーだろ? あのギルマスが手でゴマ擦るような相手だ」


 その言葉に、向こう傷の男バークレーは興味なさそうに答える。

 先ほど白銀等級の自分が何をされたかもわからず床に沈められた相手だ。埒外の化け物なのは想像に難くない。

 彼女たちが何者かは知らないが、一時間ほどでギルマスと話が終わった後、そのままひびわれの断崖窟向かった事を踏まえると今回の異変解決に呼ばれた戦力なのは疑いようもなかったのだ。


「バークレー? マジで潜るつもり? 絶対ペナルティあるよ?」


20歳そこそこといった印象のとんがり帽と大きな杖を持った魔術師、レーネは今回もバークレーの暴走に嫌々ながらついてきたのだった。

回復も攻撃もこなせる万能型魔術師。 それが彼女のパーティでの役割。

そして、暴走しがちなバークレーの歯止め役といった感じだ。


この三人がダンジョン都市バルド最強の冒険者パーティ、紫電の槍のメンバーであった。

しかしこの三人ですら現在ひびわれの断崖窟への進入は禁止されている。

それなのになぜこの三人がここにいるかといえば、先ほどのギルドのやり取りでバークレーがメテオラにのされたことに腹を立てたという簡単なことであった。

地の利は流石に拠点としているバークレー達に大きく傾く。ギルドに報告していないダンジョン内の抜け道も大量に知っているのだ。

バークレーは出し抜ける――そう判断し、同時に潜りダンジョン内の異変を先んじて解決してしまおうと考えたのだった。


「いいからいくぞ? 地元をこれ以上荒らされるのは我慢ならん」


「のされたのが気に食わないだけでしょー? まぁたしかにバークレーがいう事も一理あるか……」


「冒険者ってのは舐められたら終わりのやくざな商売だしな。 しゃあないいくか」


バークレーが崖へと歩みだすと、二人は嫌々ながら後をついていくのだった。




――崖下


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「うるっさいのう。あ! やばいのぅ」


相変わらずトモは重力に引かれる不快感に大声で叫んでいた。

しかし、メテオラの不吉な一言にやっとその絶叫は止まることとなる。

トモはメテオラの顔を見上げる。


「今 あ! って言ったよね?」


「飛び過ぎたのう」


どうやら勢いよく飛び出し過ぎたらしい。

トモが気づいた時には崖横にある出っ張った台地は遥か上空に過ぎ去っていた。


「仕方ない飛ぶかのぅ」


そういうとメテオラは上を見上げ背中から大きな龍の翼を生やして、勢いよく舞い上がった。

しかしその動きによって重力に従って落ちていた身体を強引な上空への推進力で引き上げられたトモは内臓が引っ張られるような強烈な衝撃をあびることになったのだった。


「はぁーはぁーはぁー!」


台地の上でトモは四つん這いになり、息を荒げていた。その顔は真っ青だ。


「まったく。情けないのぅ……、お主あれだけ強くてなんでそんなに脆弱なんじゃ?」


その言葉にはクーリガーの声が返ってくる。トモは未だに立ち上がることもできずにいる。


「マイスターはなんというか、普段は魔力を上手く使えていないのですよ。何かきっかけがないと、常時展開のバリアすら一人で維持できません」


「ほぉ、じゃあお主がサポートしてやればいいんじゃないのかの?」


「命の危険がなければ、無駄でしょう? 命の危険があれば勝手にスイッチ入りますし」


「お主なかなか主人に対して辛辣じゃの」


そして好き勝手やってから笑いだすメテオラ。それと特に悪びれた様子の無いクーリガー。二人に囲まれたトモは四つん這いのまま静かに涙を流す。

まだそこは肝心のダンジョンに入る前の出来事であった。

完全に満身創痍のトモは早くも帰りたい気持ちでいっぱいになったのであった。


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