第4話 三芸貞

 富士の樹海での戦闘開始から六時間前。

 京都の森に囲まれたとある和風建築の建物の前には十台の黒塗りのベンツが停まっている。

 その建物の中では、何十人もの人が着物を着て険しい表情で睨み合っている。テーブルに出されたカツ丼に誰一人手をつける者はいない。


「わかっておるのか?比較的平和だった平成初期とは打って変わってなんじゃ。これから新年号って時にドタバタしておるのう」

 上座に座る三人のうち右に座る一人、杖をそばに置いてる長い白髭おじいさんが静寂を壊す。

「たまたまでしょ。あんたが若い頃は単に暴れるやつがいなかったんだろ。

 もしかして自分が平和の一端を担ってたとでも言うんじゃないよな?」

 左に座るおじさんはおじいさんに向かって労(いたわ)ることなく言いたい放題言う。

「ちょっと、仲間割れしてる場合じゃないですよ。これを乗り越えてまた平和を取り戻せばいいじゃないですか」

 そんな険悪な二人に挟まれて真ん中に座る苦労性なお兄さんは両隣と比べると一回り若い。


 この三人が三芸貞のそれぞれの代表である。

 右に座る嫌味なおじいさんが戸津(とつ)家。

 左に座る飄々としたおじさんが應永(おうえい)家。

 真ん中に座るハンカチで汗を拭うお兄さんが間壁(まかべ)家。


 戸津(とつ)家と應永(おうえい)家は代々仲が悪く、会う度に言い争いをしている。そんな両家の間に入って場を沈めるのが間壁(まかべ)家となる。


「ふん。お主らはくれぐれも犬死にするなよ。死ぬ時くらい役に立ってもらわないと困るぞ」

「うっわー。酷い言い草。こういうこと言ってる人がまっさきに死ぬんだよ。

 てか、そろそろ引退した方がいいんじゃない?腰大丈夫?」

「ああ?儂はまだまだ現役じゃ。お主の眉間を撃ち抜くぞ」

「おお怖い怖い。さすがの俺でも眉間を撃ち抜かれると焦るかな。

 そんじゃうちはそろそろ行こうかな。端から端まで大忙しだ。回復役足りるかな」

「儂らも行くかの。目指せ千体じゃな」

 二家はこうして部屋を飛び出していった。

 残ったのは間壁家だけである。

「はぁあ、なんでいっつもうちがこんな扱いなんだよぉ。二人ともまじでさっさと引退してくれぇ」

 長方形の細ぶち眼鏡を外して汗を拭う。


「それじゃあみんな!準備はいいかな?

 結界張りに行こうか」


 誰も手をつけることが無かったカツ丼は間壁家によって美味しく頂かれました。




 午後九時。

 全国津々浦々で戦闘開始。北は北海道、南は沖縄まで大量の吸血鬼と腐鬼が同時に出現した。

 一般人の目に触れることなく迅速に倒していく。

 三芸貞はもちろん有名どころの家や今は廃れてしまった家、防衛省直下の防衛管理委員会、学生、表の世界で普通に暮らしてる元聖童師とほぼ全ての手の空いている最低限の実力を持った者達が招集されていた。

 その地域ごとの仕切り役の指示の元、普段は見ることがない団結力だが、さすがの窮地ということで素晴らしい連携となっている。


「よーし!このままいくぞ!」

「「「「「「「おお!!」」」」」」」


 観光地など人の多いところには特段気をつけて人選をしている。万が一が怒らないように細心の注意を行って動いている。


 東京。

 オフィスビルが立ち並ぶ街中で金属音と銃声が鳴り響く。

 戸津家の面々が担当で、東京を歩き片っ端から吸血鬼と腐鬼を狩っていく。

 聖童師でも吸血鬼でも腐鬼でも無い普通の人々は音に驚き逃げ惑う。ほとんどの人間が建物の中に逃げ込む。

 しかし一般人は何が起きてるのか把握することはない。


 そして戸津家は気にも止めずに狩りを続ける。普段よりも好戦的な吸血鬼達をいとも容易く狩っていく。

 戸津家代表。戸津(とつ) 弾十郎(だんじゅうろう)。

 重厚で銀色に輝く太いグリップの二丁拳銃を持ち、路地裏から吸血鬼が顔を出した瞬間、その吸血鬼目掛けて一発の弾丸が放たれる。超重低音で大音量の発砲音。

 およそ拳銃が出していい音では無い。


 音に反応して即座に路地裏に身を引いた吸血鬼に対して、放たれた弾丸が直角に曲がると背中を向けた吸血鬼の後頭部から眉間を貫いた。

 血を吹き出して倒れると体はポロポロと崩れだし、砂のように風に飛ばされて消えていった。


 他にも戸津家の者は刀だったり、大剣、双剣、斧、槍、など様々な武器を使い吸血鬼達を狩っていった。


 戸津家総勢およそ六十名がいくつかの班に分かれて街を歩いて狩りを行っている。





 京都。

 古風な建物が立ち並ぶ京都では静かに狩りが行われていた。

 いつも通りの夜の姿と変わらず、人々の喧騒に包まれて穏やかに過ごしている。

 そんな中、着物姿の者達が建物の屋根を伝い走っていた。

 間壁家の者達は音も無く、吸血鬼を狩っていく。


 間壁家代表。間壁(まかべ) 清成(きよなり)。

 正二十面体の透明な結界に覆われた清成は他の者達と違い空中を走っている。空中を飛んでる訳ではなく、透明な結界の上を走っている。

 一見目立つような行動だが、正二十面体の結界の効果の一つで他の人からは認識されることが無い。

 よって自由に動くことが出来る。そして吸血鬼達を見つけ次第、吸血鬼を新たに作り出した正四面体の結界で覆うと、途端に結界が縮みだして、中にいる吸血鬼を潰した。

 これが間壁家の戦い方である。


 他の者達も次々と吸血鬼達を正四面体の結界に閉じ込めて潰していく。清成と違って一回一回止まりながら、ゆっくりと結界を縮めていってるのを見ると力量差が伺える。

 ポンポンと狩っていく清成に対して、神経を使いながらゆっくりと狩っているように見える。




 北海道。

 広大な自然、田畑、農場、農園、牧場の担当を任されたのは聖童師界屈指の無頼漢。

 柘榴(ざくろ) 天摘(あまつみ)。

 一度、経験したいと言って数ヶ月間、刑務所で生活していた男。

 とにかく乱暴でみんなから嫌われている。

 それでもついて行く者は少なくなく、出所後、都内に個人事務所を設立。

 アットホームで和気藹々とした雰囲気の職場で週に二回、自由に休みが取れる。

 長期休暇もあってもちろん育児休暇も気にせず取れる、十分な住宅手当もあって福利厚生がしっかりとしている。

 表向きは建築会社となっている。


 社長同様、社員のガラもすこぶる悪いが仕事には忠実な大工兼聖童師。他にもデザインや土木、塗装など、全てを賄っている。

 以貌取人をモットーに風貌、言動はアレだが約束事は違わない。

 気まぐれで依頼を貰って家を建て、いつも最高の評価を貰っている。聖童師の家を担当する。

 ちなみに一級建築士である。


 そんな柘榴はとある理由から蓮華桜を慕っており、今回も蓮華桜の命令により社員全員、北海道まで来ている。



 広大な自然の中から吸血鬼や腐鬼が大量に現れてくる。

 そんな状況の中、集団の先頭に立つ柘榴。

 坊主で至る所にアクセサリーをジャラジャラと付けてスーツに身を包んだ夜の世界で働いてそうな雰囲気を持つ男。柘榴は自分の後ろに控えてる三十人程の部下に激励を飛ばす。

「おらぁ!てめぇら負けんじゃねぇぞ!」

「ズドオォォォオン!!」

 激励と同時に巨大な氷塊が吸血鬼達を襲う。凍った吸血鬼達は粉々に砕け散り、姿を消していく。

 夜の月に届きうる程に立ち上がった氷塊は砕け散り煙のように消えていった。


「こんな奴らに負けてみろ!今後姉さんに顔向けできねぇぞ!」

「「「「「「おぉ!!」」」」」」

 この言葉を合図に部下達も戦闘を始める。



「おらおら吸血鬼ども!人間を支配?舐めんじゃねぇ!人間側にはこの俺より強いやつがいっぱいいんぞ!」

 止まることなく押し進む柘榴達は田畑を超えて川を超えて農場を超えて数え切れないほどの吸血鬼を倒していった。


「よぉし!お前らこの戦い、森林破壊には気をつけろ!それと一人もこっちの死者は出すなよ!わかってんな!死んだら俺が墓掘り返して無理やり連れ戻すからな!安心して死んでこいや!!」

「「「「「おぉ!!」」」」」

「兄貴…矛盾してまっせ」

「ああ?いいんだよ。死んでも俺が死なせねぇからな」

「さすが兄貴っ」


 満月に照らされる美しい氷の世界。


 順調に見えたが部下の一人が吸血鬼に腕を切られた。

 その吸血鬼を即座に凍らせてから、部下の切られた腕と傷口を凍らして後ろに下げていく。


「馬鹿野郎!どんだけ力の差があっても気を抜くんじゃねぇ!戦いの基本だぞ!」

「す、すいやせん!」

「下がって治療してもらえ!触ったら溶けるようにしたから気ぃつけろよ!」

「はい!」

「お前ら覚悟持って戦えや!俺が死なせねぇからよぉ!」

「「「「「「おぉ!!」」」」」」

 士気はどんどん高まっていく。

 深手を負った部下はちょうど巡回に来ていた應永家の者に治療してもらった。

 切られた瞬間凍らされて、ほぼゼロの出血だったため直ぐに戦闘に復帰することが出来た。




 東京。

 戸津家代表、戸津 弾十郎の足が止まる。

 連絡を聞きつけて、その現場に向かうと既に何人も戸津家の者達がやられていた。

 横たわる者達の中心に立つ上下白服の若い一体の吸血鬼。


「ほう、纏ってる聖気が他のカス共とは違うな。儂が相手になる。お前らはどっか行ってろ」

「「「「「「はっ!!」」」」」」



「さて、静かになったところで、名前を聞いてやってもいいぜ」

「随分と生意気だな。そんなに強いか?お前。たかが戸津家の長だろ?」

「ほう、儂と知っててなお、その態度か。余程の頓馬と見た。せっかくだ、先攻はくれてやる。存分に力を込めろよ、それが貴様の最後の足掻きになるんだからな」

「ほざけ、老いぼれじじい」

 ふむ。まあまあだな。今のやり取りで聖気に乱れが出とる。若い、やはり儂の敵では無いな。


 んー。聖気の質はいいとこまでいってんだよなぁ。そんであと五十年鍛えればいい勝負ができそうだ。

「俺はさざなみの相原(あいはら)だあ!!くたばれ老いぼれ!」

 若さとはこんなにも脆いものだったか?儂の時代はもっと疑り深かったけどなぁ。


 正面からとは芸が無い。浅はか。

 せっかくだ。地獄に落ちる手土産として見せてやろう。強者と言われる者の力を。



 相原は真っ直ぐ弾十郎に走り迫る。宣言通り一撃を受けるのか、未だ弾十郎は構えもせず腕を組んで立っている。


 突如爆発的に立ち上がる弾十郎の聖気。相原は臆せず右拳を顔面に叩きつけた。

「ドゴッ」

 右拳は弾十郎の顔面に当たったがビクともしない。依然弾十郎は腕を組んで仁王立ちしている。

「所詮はこの程度か?小僧」

 静かなる怒気に相原は反射的に後ろに飛んで距離をとる。

「お前が強いのはわかった。それでも勝つのは俺だ」

「羨ましいの。自分よりも強い者がいるってのは。はてさて、久しく自分よりも強い相手と戦ってねぇのよ。

 善戦を期待してるぞ」

 歳の割に、場を凍りつかせるような低い声を発する弾十郎は構えをとる。

 二丁拳銃を出して、銃口を相原に向ける。

「パアァンッ!」

 銃声が戦闘開始の合図となった。


 相原は銃声と同時に己の童質を発動する。相原の手には大きなシンバルが握られていた。

 放たれた弾丸をシンバルの内側を使い表面を滑らせて、地面に落とした。地面にめり込んだ弾丸はすぐに消えた。

 そして相原はシンバルを鳴らした。

「パァ〜〜〜〜ン!!」

 鳴り響くシンバルの音は当然、弾十郎の耳にも届いた。これで相原の童質の効果は発動条件を満たした。


 直後、弾十郎はたたらを踏み、膝を着く。

「ふむ。これが小僧の童質の能力か」

「そうさ。これが俺の童質、鳴響止酔(めいきょうしすい)。

 音を聞いた者を酩酊(めいてい)状態にする。ただし時間制限付きだけどな」

「これは効くのぉ、久しく忘れておったぞ。酔ったのは数十年ぶりだ。これはちょっと面白いかもしれないのぉ」

「気持ちよくなったまま死ねや!」

 シンバルを離して素早く近づき攻撃を仕掛ける。さっきよりも洗練された動きで。

「ジジイも正面戦闘は苦手か?その拳銃じゃあこうも近づかれたらただのおもちゃだろ」

 相原の連打は拳銃を持ったままの弾十郎に軽くいなされてしまう。

「ドッ!バッ!ゴッ!」

 トリガーにかかった指が動く。

「パアァーン!!」

 明後日の方向に飛んでいき、夜の空に消えていく。

(ミスショット?こんな状況でわざわざそんなことをするか?別に無理やり撃つ場面でもなかった。気にしなくてもいいやつか?

 てか、酔ってんのになんで全部捌いてんだよ!)


 相原に焦りが出るが、手が休まることは無い。間髪入れずに連打の応酬。拳銃を持ちながらも、互角以上の殴り合い。むしろ押されてるのは相原だ。

(大したことないのぉ。ただ、防御は中々だ。

 弾をシンバルで滑らせた時もそうだったが、上手く流されてる)

 だが、次第に相原の防御が間に合わなくなり、数回に一回、パンチが入るようになった。銃口で脇腹、左頬、右腕を殴りつける。

 一方的に傷が増えていく。そんな中、弾十郎が言葉を発する。


「見せてやろう。才ある者が努力してその果てに掴む境地を」

 ゆらゆらと体を覆ってる聖気は静かに消えていった。

「セカンドストリーム。

 いわゆるゾーンと呼ばれるものだ。体が温まり始めた時、肉体の上限を引き出しあらゆる能力の底上げをする。筋力、体力、集中力、動体視力、そして聖気さえも。もうお主は儂について来れんぞ」

 今まで以上に剥き出しの闘志。


 数倍の速度を持って、弾十郎の連打が始まる。セカンドストリームの前では酔いなど無力。一切の妨害の役割も果たせていない。

 体表に纏った超極薄の聖気は圧縮され0.01mmにも満たない程で、通常人間が意識してコントロール出来るものでは無い。動きながらの変化にさえも纏う聖気に乱れなく、淀みは無い。

 聖気の流れからの予測はもはや不可能、全ての一撃が必殺の一撃に等しい。圧縮された聖気の破壊力は触れただけで岩をも砕く。

(これはやばい!!)

 その怖さを直に感じ、即座にシンバルを盾にして受け流す。

 だが、まるで時間の進みが違うかのように毎度的確に死角を突いてくる。

(ダメだ!手が足りなグァ!あ…)

「怒りのクレッシェンドォ!!」

 連打の合間に気力でシンバルを鳴らそうとする。

 が、手に力が入らず音を鳴らすことは叶わなかった。

 内蔵の破裂を感じ、目から光が消える相原。

完全に腰が落ちて心が折れた。

(もう…おわりだ…)

 両手からこぼれ落ちるシンバル。

 一歩深く踏み込み、トドメの一撃を刺しに行く弾十郎。

「「バカァン!ガカァン!カァン!ジャラララァン!」」

 地面に落ちたシンバルが一度跳ね上がり、再び地面に落ちて、暴れながら音を鳴らす。


 奇跡的に起きた勝機の福音。



 深く沈み込む弾十郎。予想外の事態に頭は混乱と吐き気に襲われ、体から力が抜ける。

「フガッ」

 相原も知らない童質の真の能力。

 酩酊デバフの重ね掛け。両方のシンバル合わせて八つの音が弾十郎を襲った。


 心は既に折れていたが、頭で理解するよりも早く、体は反射的に動いた。生まれてから戦い続けた体は一瞬の勝機を見逃さなかった。


 覆い被さるように倒れ込む弾十郎を相原は屈んだ状態から後ろに倒れ込み、足で弾十郎を持ち上げ上に蹴飛ばした。

「グホッ!」

(勝機!ここで決める!!)

 相原の目に光が灯った。全身を覆った聖気を拳に集めて落ちてくる弾十郎目掛けて力いっぱい振り上げる。

(ドンピシャ!!勝った!!)

 相原はこの後を予想して頭の中で勝利のガッツポーズを決める。

 それが振り上げた拳と重なる。


「驕るなよ、愚物が…」

「パポッ…」

「まさか自分のポリシーに救われるとはの」

 倒れた相原の眉間は弾丸に貫かれていた。


「最後の一撃は弾丸で決める。それが儂のポリシー」

 相原は空に散っていった。



 老骨、ここに埋まらず。




 戸津 弾十郎の童質 ロマン溢れる二丁拳銃スペシャルツインマグナム

 デザートイーグルを模して顕現させた二丁の拳銃の能力の一つ。一発ずつしか撃ち込むことができず、再度撃つ場合は前回撃った弾丸が消えてなければならない。

 つまり一度に二発しか撃つことが出来ない。

 しかしその弾丸の能力は破格で、オートで相手の急所に撃ち込まれる。どんな軌道も可能だが、一度止められたら終わりである。

 さらに、弾丸の飛行中は拳銃を消すことが出来ない。拳銃を消せば連動して弾丸も消えてしまう仕組みになってる。

 今回は撃ち出した後、マニュアル操作で上空を旋回させ、トドメの一撃を放つタイミングでオートに切り替えた。

 直後意識を失ったが、相原を仕留めたと同時に意識がはっきりした。

 他の能力はまたの機会に。


「ふっ、最後のはさすがの儂も焦ったぞ。礼を言う。恐らく自分の能力に気づいてなかったのぉ。あれを最初にやられてたら儂の負けも考えられたかの。ふっふ」




 北海道。

 月明かりに照らされた緑が一面に広がる丘で一体の吸血鬼が待ち構えている。

 その迸る聖気に気づき、一人近づく男がいる。


 待ち構える吸血鬼は金髪で前髪をかき揚げ、シャツを第四ボタンまでガッツリ開いて胸を晒してるガラの悪い男。

 それに近づく人間は坊主頭で至る所にアクセサリーをジャラジャラとつけてビシッと紫のスーツを着てるガラの悪い男。


 そして近づく男の足が止まる。両者顎をしゃくらせ最大限に舐め腐った顔で相手を睨みつける。


「俺ァ、北海道を牛耳ってる海堂っちゅうもんだがよ?」

「俺ァ、関東全域を根城にしてる柘榴だ」

「おうおう!勝手にうちを荒らしてくれちゃってよぉ!おお!」

「ああ?なんか文句あんのか?」

「俺の部下が世話になった分、きっちりお返ししないとなぁ!」

「こいや、おらぁ!」

「函館までとんでけぇ!夕張パンチ!!」

「そんなもん俺に効くかぁ!気合いの腹筋固め!!」

「ドフッ!」

 海堂の拳が柘榴の腹にめり込み、柘榴の顔が少し下を向く。


「ジンギスカンチョップゥ!!」

 柘榴の首裏に鋭いチョップが叩きつけられた。

「グッ、効かねえなぁ」

 耐えた柘榴は背筋を伸ばして十分に海堂を見下ろす。

「全然効いてねぇよ。魂入れてんのか?」

「まだまだ俺の本気はこっからだぁ!」

 両者ノーガードの殴り合いが続く。

「どりゃ!時計台タックル!」

「グッ、効かねぇよぉ!」

「海鮮丼ラッシュ!!」

「毛ガニダッシュ!」

「この野郎!頑固頭突き止めぇ!!」


「はぁ、はぁ、こんなもんか!俺のパンチは世界一ィ!!」

「グハッ。お前もやるなぁ」

「部下達が待ってんだ。負けてられるかぁ!」



「俺に人間の時の記憶はほとんど無えけどよぉ。北海道から出ようとしても体が動かねぇんだ。きっと俺にはここから離れられない理由がある。

 俺は北海道で生まれ!北海道で死ぬ!これだけは譲れねぇ!かかってこいやぁ!北海道で育った俺様の力を見せてやる!」



 なぜ、お互い童質を使わなかったのか。

 真実は誰にもわからない。




 一時間後、海堂は星になった。

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