第35話 アコレード トゥ スペースニート
翌日、
トッドやカーサは初めはグランバインを調べることに難色を示していたが、メンテナンスの必要性についてナカモトからプレゼンを受け、渋々了解した。
「うわ、もしかして青いのは塗装でなく加工したブルーメタル!?」
茶髪で巨乳の技術者マヒロ・アカギが驚く。
「縁取りは白金加金だし、なんてゴージャスな機体なんだ。美しい。」
痩せた技術者の男ユイト・ヤマトが眼鏡を光らせた。
「メンテできそうですか?」
俺が恐る恐る聞くと、リーダーらしいサングラスをかけた白髪の黄色系地球人型の技術者ベン・ゴトウが腕を組んだ。
「まぁ、まず替えがきかないパーツばかりだ。完成されすぎて、俺にはこいつが美しく磨かれた刀のように、単なる破壊兵器以上の存在に見える。だから、変にバラそうとしたらそいつの頭をスパナで撲殺してやる。俺も含めてだ。やるなら、出来るだけオリジナルのまま運用して、壊れたら代替パーツと取り替えるくらいだな。」
職人肌の親父さんといった風体のゴトウはサングラスを外し、鋭くグランバインを睨んだ。
「それと、こいつを触るのは俺達とパイロットだけにして貰いたいもんだ。ナカモトにそう伝えねぇとな。」
視線の先で、ナカモトが無遠慮にグランバインに触っていた。
「何やってんですか!?あんた!」ユイトが金切り声でキレた。
「宇宙でも貴重な資源と技術の結晶だ。こいつをバラして売ってグラディアートルの量産機の軍隊をつくった方が採算が取れるし戦争に勝てる。」
「それは許されないでしょ!こういう王家専門とか御用達みたいなのは、量産機じゃなくて、しゅ・や・く・な・の!」
マヒロが腰に手を当てた。
「おい、お前ら、早くコンピュータの方を調べろ!ナカモトさん。俺達の仕事を邪魔せんで下さい!」
ゴトウが声を張り上げた。
俺は、トッドにゴトウの言葉を伝えた。
「俺の先祖の一人もサムライという戦士だったんだが、その魂であるカタナと同じで武器以上のものがあるとさ。だから、トッドの他には、ゴトウと技術者しか触らせたくないんだと。」
「そうですか。」
トッドが笑顔になる。機体を褒められて悪い気はしない。
「今日はどうするんだ?」
「カーサ団長が、僕に稽古をつけてくれるそうです。グラディアートルを操るものは、身体操作が大事だそうですから。」
トッドはやる気に満ちていた。
撃たなくて良かった。そう思う。
「俺も暇でね。ついていくとしよう。」
「殿下は打ち込みが足りない!もっと踏み込んで打ちなさい!」
トッドは剣を真横に振ると、カーサは軽く受けた。
「威力を剣に込めるのです。そして、ほれ!」
また打ち込むトッドの剣を受けるとみるや、剣を平で受けて刃をすべらせた。
あっという間にトッドの剣はあらぬ方を向き、ニの太刀でカーサの剣はトッドの頭にピタッと制止した。
「このようにうまく受け、優位にたつことも学ぶのです。もう一度。」
俺の中の侍や騎士やマサイ族の戦士の前世が騒ぎ出す。武器で人間からライオンまで、だ。
俺はトッドが練習で振っていた棒切れを拾うと、手首柔らかく左右に振り回した。そこから相手の手首を想定して打ち込む。面を打つ。半身に引いて剣を受ける構えをとり、胴をないだ。
「フフン、外星人も剣を使うか。」
トッドの稽古を見ていたカーサの取り巻きの騎士ラルゴ・ソラが練習用の棒を持ってきた。
「少しは覚えがあるようだが、どうせチャンバラ芸だろう。本物の剣を教えてやる。外星人。」
戦士は戦士の強さをはからずにはいられない。
「俺は鬼灯博。人はスペースニートと俺を呼ぶ。外星人なんて寂しい表現で味方をくくるなよ。」
俺が肩をすくめると、ラルゴが真似をした。
「腕比べといこう。スペースニート。」
「やろうか。
俺は剣士の前世の呼び声に従った。
ラルゴが上段に構える。西洋剣術だ。屋根より始めよと呼ばれる基本の型に屋根の型がある。
俺は正面に構える。切っ先をやや落とし、正対して点に見えるようにする。日本剣術の構えだ。
「ふん!」
俺は打ち込みを柔らかく受け、手首を狙った。
ラルゴはそれを払いつつ面を狙ったが、切り替えて中国武術の歩法で回り込んで避ける。
「!?」
更に剣を片手で握ると中東剣術で身を屈んで足を打ち、腕を狙う。
棒が手足に触れた時点で負けているラルゴが、顔を真っ赤にして棒を振る。
俺は両手で剣道になると、力任せの棒を払って面を打ち込み、ピタッと止めた。
「なんだと…。」
負けてショックを受けたラルゴに俺は片目を閉じた。
「中々の腕だぜ。騎士ラルゴ。相手を舐めてかからきゃ、俺が負けてた。」
世辞を言うと、プライドを取り戻したのかラルゴが負け惜しみにフンと声を漏らした。
「ラルゴ。外星人相手になんてザマだ。」
「う、うるさい!」
顔の赤みがひかないラルゴだったが、リベンジをやらない所をみると、俺の前世の剣は余程強かったみたいだ。
「スペースニート殿。後で話がある。」
カーサの言葉に、周りの騎士の空気が変わった。
「団長。まさかサム・シャドの機体を…。」
「そのまさかだ。オンド。」
カーサがそう言うと、意味がわかったらしいオンドが顔つきを変える。
「スペースニート。今度は俺が相手だ。」
「俺もだ。」「俺も。」
意味が分かってない俺は困惑する。
カーサを含めた6人の騎士に何か思う所があるらしい。
「スペースニート殿。彼らの剣を受けてやってくれ。」
「棒で良ければ。」
怪我したくない。俺は棒を軽く振った。
「な、なんてやつだ。」
「あの体形で何故ああまで動ける。」
無敵の前世が俺についていた、らしい。
剣道8段の乱取りの動きで相手をバシバシ倒すと、今度は複数で襲いかかってきた。剣術の動きで乱れ打つ。
最後はカーサまで練習様の棒を持ってきた。
俺は息があがっていた。
カーサが雄牛の構えをとる。
俺は下段の構えをとった。
頭があいてますよと誘うように見せて、踏み込むと足を切るプレッシャーをかける。
だが、これは棒だ。プレッシャーなどかからない。
問答無用で上から切ってきた相手に、下段を八相に構え直すような動作で受ける。鍔迫りあいになるところでカーサが膝蹴りをしてきたので、膝を合わせて離れた。
なんでこんなに必死なの!?
「はぁ!」
殺意のこもった鋭い突きを棒を当てて横にかわす。なんと、カーサはそのまま肘打ちした。
俺は避けきれずに倒れ込む。
カーサが上から棒切れを叩き込んできた。
「ま、まて、ちょっと、これは、ひどい。」
俺は剣に見立てた棒を掲げて、何度も打ってくるカーサを避けようとした。
「参った。参ったってば。」
「はぁ、はぁ。」
カーサが俺を指差し、トッドに口を開いた。
「このように、強い敵にも信念をもって戦って下さい。無理が通れば道理は引っ込むのです。」
いや、多分そういう教訓をいうつもりじゃなかったろ。戦ってるうちにカッとなったろ。
「スペースニート殿。こちらへ。」
俺はカーサに促され、グラディアートルのある格納庫へ向かった。
一機のコンガーの前に立つ。深い緑に塗られているが、兜というよりミンミンゼミみたいな顔からして雑魚っぽさが抜けてない。せめてキラーマンティスを見習ってほしい。
「騎士サム・シャドの機体のコンガーだ。彼は若手の騎士で、一月前にセントールの騎士に討たれた。我が騎士団は從者でなく、志のある者を迎えるしきたりがある。スペースニート殿。このコンガーを受け取って欲しい。」
「俺に?」
「その場に片膝をついてくれ。」
俺が素直に片膝をつくと、カーサは剣を抜いた。
「礼節、忠誠、勇気。」
剣の平で両方の肩を叩く。
「立ち上がれ、騎士ホージュキヒロゥシ」
酷いなまりで俺のフルネームが呼ばれる。
俺が立ち上がると、どこかから拍手がわいた。
「え?」
「
「そんな、裏切らないよ。トッド・ヤヌス王子のこともあるし。」
「そうだ。リベルタ、ファンタジオ!(ファンタジオに自由を!)」
ファンタジオの現地語で自由を息巻くカーサ・フシを前に、前世騎士だった俺が、アコレード(騎士になること)へのデジャブを感じていた。
コンガーに乗ってみる。18メートルほどの大きさで、コクピットは広いかに見えたが、デブにはやや狭い。
なんとなくで操縦できるマニュアルにグラディアートルの操縦が載っているか?
なんと載っている。化石みたいな戦車や戦闘機からグラディアートルまで動かせるのだ。なんとなく。
「電脳のマニュアルで少しは動かせそうだ。」
「ペダルとコントローラーを使うのだ。最初は立ち上がって歩く。次に両手を動かす。短い間だが空も飛べる。鍛錬だぞ。」
俺の操縦訓練が始まった。
人を模したグラディアートルは、人に馴染むのか動かしやすい。セントールやラミア、アシュラやヘカトンなどは操縦が独特なのだという。
足回りをしっかり確かめる。量産機は汎用機だ。操縦は簡略化されパターン化されていた。複雑な動きは細かいマニュアル操作があるが、複雑だけあって難しかった。
ブエイの中にカーサが乗り込む。
「操縦は格闘で覚えた方が早い。」
そ、そんな。歩く走る殴る蹴るの次は対戦ですか。
問答無用でブエイが拳を構えて突っ込んできた。
…
「オエエぇ。」
訓練が終わって、俺は吐いた。胃の中に何も入ってないので胃液が出た。酸っぱい。
「まだまだ動きが固いな。昼食を食ったら作戦会議をしよう。」
「飯。入るかな。」
入らないと思っていたが、デブの食欲は旺盛だった。
レーションでなく、茹でたジャガイモや根菜のスープがでた。
「アカサカには武器やパーツの他に、食料の調達をお願いするよ。」
「ええ。これは必要経費ですね。」
腹は膨れるが味がいいわけではない。
ぴっちり中分けした黒髪のナカモトが目をぐりぐり動かしてメモする。
ナカモトを気味悪げに見ていたトッドの元に、村人を連れて老婆がやってきた。
「これを王子様に。」
袋に詰められたジャガイモやカブが並び、卵がいくつか机の上を転がる。思わぬプレゼントにトッドがスマイルを浮かべる。
「私等の願いは戦のない世の中でふ。どうか、平和を叶えてくだしゃりまふぇ。」
歯の少ない老婆がもぐもぐと口を動かしながら礼をした。
「はい。ファンタジオを平和な星にするように頑張ります!パクス、ファンタジオ!(ファンタジオに平和を!)」
快活に喋るトッドに老婆が何度も頷いた。
老婆は村長の妻であり、村長亡きあと村の実質の権力者だった。
村人の善意を前に、ナカモトは目を動かした。メモを消したのかもしれない。
俺は肉がない味の薄い献立にガッカリする自分が恥ずかしくなった。塩とか胡椒とか調味料を何とかしてもらおう。
午後からの作戦会議は夜まで続いた。
騎士たちは城にいるアンブロ・ジャンをどうやったら倒せるかを考えたが、この戦争にはルールがある。奇襲や卑怯な手が使えない。まして、大義名分の元に正々堂々と『綺麗な』殺し合いをしなくてはならなかった。
ナカモトは採算性や効率を口にした。
戦いでは一つの戦場に参加する最大数が決められているが、騎士団とグランバインと俺で8名では逆に少なすぎた。人が足りないとナカモトが言うと、カーサ騎士団は少数精鋭だと返した。
「数を増やす当てはあるのか?ナカモト。」
「我が社の開発したブシンを何機か追加投入しましょう。戦いはやはり数ですから。」
「問題は、操縦者だ。騎士として戦える人材が足りない。ケントゥーリオを雇うにも奴らは不遜な上、金額で足元を見てくるだろう。」
「我が社のブシンは素人でも操縦することは可能です。村の方々を民兵として訓練し、戦場に投入しては如何でしょう?」
「駄目だ。たとえ操縦できたとしても、戦えるのとはまた話が別だ。初陣で殺られてしまうだろう。それに、守るべき民に剣をもたせるのは騎士のすることではない。」
議論が平行線をたどる。
結局決めたのは、最大数の少ない小規模の戦闘をこなして、トッドの名声をあげ軍門に下るものを部下にしていくことだった。無難だね。
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