第34話 起動する恒星の勇者
チタンを通常便で届け、報酬を貰うと補給してファンタジオを目指す。
ファンタジオ付近はマスコミの観測用衛星などが宙を飛んでいる。地表では人が搭乗する人型兵器グラディアートルが近接武器でルールに則って戦い合う。剣闘士戦争とはよくいったもので、企業や惑星がスポンサーについての派手なショーとなっていた。
誰も衛星のグリーンムーンには見向きもしない。
俺達は緑の月の地表に降り立った。
「そうか。緑なのは銅が少し含まれているからなのか。」
安いが取り柄のムラシマ宇宙服を着たトッドが、月の砂に手を触れた。
終始不機嫌なクロコはブスッとした表情で俺を見ていた。
「王家に伝わる歌によると、この辺りのはずだな。」
「はい。スペースニートさん。」
月といっても広い。ヤヌス王家はグランバインの在り処の緯度経度を王家の秘密歌にして残していた。
問題は歌詞と実際とのズレだったが、これは殆ど無かった。
ザイオンの塔は尖塔を砂に埋め、頭だけ出していた。これは普通に探しても見つからない。
俺達は塔の中に入った。扉がある。
「王家の者なら扉は開くと聞いてます。」
トッドが扉の前に立つ。
「DNAデータ照合。適合範囲内。ヤヌスの血統を認める。」
DNAで子孫をはかる。よくあることだ。
扉が開いた。
中に入ると扉が閉まり、エレベーターになっていて、下へと動く。
次に扉が開くと、奥に巨大な人型ロボットが立っていた。
ニュースで見たグランディアートルよりもずんぐりして見える人体を模した金属の青い体は、全身鎧を着た神話の巨人のようだった。
「これがグランバインか。」
俺は息を呑んだ。グラディアートルや巨大な人型兵器を見るのは初めてだ。18から20メートルはある。
「よし。起動してみます。」
トッドが端末を操作するが、作動するように見えない。
「俺が見てみるか。」
俺の脳のチップにある『なんとなく操作法』を試す。当て勘で操作すると、電源が入った。
真空中により保存の効いたグランバインの両目が光った。
トッドを認識したのか、グランバインが動き出し、手を差し伸べて膝をついた。胸にコックピットがある。
「乗ってみろ。」
「はい。」
トッドがグランバインに乗った。
「これは。」
マイクごしにトッドの戸惑いの声がする。
「中のヘッドセットから意思が伝わってくる。操縦できます。」
「しかし、こんなデカブツ運ぶのは無理だな。」
「それなら、大丈夫そうです。ザイオンの塔が宇宙船になり、ファンタジオに降りるようになっています。」
クロコはグランバインを見て一言つぶやく。
「なら、私達はここまでですね。」
「クロコさん、それは冷たすぎない?」
「僕ならもう大丈夫。後は何とかします。」
「ほら、トッド君もそう言ってます。」
「グランバインを手に入れて気が大きくなってるだけだって。」
俺はトッドに危うさを感じた。巨大ロボット一つで何とかなるわけがない。
仕方ない。何とか見届けるか。
俺はため息をついた。
ザイオンの塔がファンタジオに降臨した時、人々は驚きマスコミは新たな話題に狂喜した。
着陸付近で殺し合いを演じていたグラディアートル達が手を止める。
「おのれ、どこの企業だ。」
人馬姿のグラディアートルが槍を構える。
「いや、この塔は伝説のザイオンの塔ではないか!」
赤い逆足が盾をおろした。
中から青い巨神グランバインが現れる。
思わぬ登場にカメラドローンが殺到した。
「僕の名はトッド・ヤヌス!ヤヌス王家の血を引く最後の王子だ!僕はアンブロ・ジャンを倒し、この戦争を終わらせファンタジオの独立を取り戻す!続かんものは僕に続け!」
俺があらかじめ用意した芝居がかったセリフをトッドが朗々と叫んだ。
グランバインが両手剣を真っ直ぐ天に掲げる。
「ヤヌス王子だと!信じられるか!」
茶色い人型が片手剣を手に襲いかかった。
「うわぁーーー!」
悲鳴のようにトッドが叫ぶと、両手剣グランソードが走り、剣は片手剣の峰を砕いた。
「なんだと!」
驚く周囲を無視してソードが茶色い人型量産機コンガーの胴を切り裂いた。
初首を飾ったグランバインは、傍目から見ても勇者のそれだった。
「アンブロ・ジャン様に報告だ。」
赤い逆関節の脚ラソーを駆る騎士シモン・リミが戦場から立ち去る。
足が蹄の牛人型ブエイの中にいたカーサ・フシは斧をグランバインに向けた。
「貴公!その青い機体はどこの企業か。」
「これは王家につたわるグランバインだ。仲間になるか、ここで切られるか選べ。」
「声を聞くに青二才と見える。この惑星はグラディアートルを操る騎士や貴族や雇われたケントゥーリオのための戦争星よ!企業のため、母星のために戦うこの星が最早独立するなど不可能だ。」
「それでも、僕はヤヌス王国のためにやらねばならない。」
下半身が馬の人馬セントールが投げ槍を構えた。
「ヤヌス家など、とうに異物。騎士クルゾ・ドットが相手してやる。」
「こい。」
グランバインが剣を八相に構えた。
剣は人馬の槍を折り、頭を切り飛ばした。
「あの子。頑張るなぁ。」
宇宙船でついてきた俺は、地上に降りてトッドの活躍を見ていた。
「ん?」
戦場から丘へと遠くに人影があった。
人影は複数になり、こちらにひざまずく動作を見せる。
サイバーアイで拡大した。手を合わせてザイオンの塔に祈っている。
派手に着陸して喧伝するイメージ戦略はうまくいったようだ。ニュースでもトップに出るだろう。
問題は四面楚歌になっていることだ。だが、物語は動き出した。
俺はブレーンは出来ないが、サポートくらいはしてやりたい。乗りかかった船からおりるほど、俺は枯れてはいないのだ。
クロコが空中で算盤を弾くような指の動きをした。
「クロコさん?」
「あの子に肩入れする以上、剣闘士戦争に加担するのですから準備は必要です。ヒロシさんはトッドの後方支援がしたいのでしょう?」
「金のかかる話かな?」
「当たり前です!」
「侵略惑星以外のスポンサーを探さないとな。ツテがないのが問題だ。」
「ツテならあります。」
クロコは確信があるようだ。
「それはどこだい?」
「アカサカコーポです。あそこは元はアカサカ重工だったのですよ?軍事部門があったのは有名です。」
「マジなの?それ。」
「ヒロシさんはビジネスニュースを読むべきです。」
クロコは珍しくニヤッと笑った。
「お話はおうかがいしました。」
アカサカコーポに商談のアポをとった。連絡は早い方がいい。
「あ、お宅の社長と娘様には大変お世話になったので、宜しくとお伝え下さい。」
「あ、え?社長にですか?承知しました。」
あなた誰だっけ条例を思い切り破ることにした。パニクる受付を後に連絡を終える。
他の星がスポンサーにつけば、自主独立など不可能だ。かといって、後ろ盾がないと戦はできない。
今回のことは大々的に取り上げられる。スポンサーをかってでる企業も殺到するかもしれない。
マイコの父親は、娘のことに無沈着でもビジネスチャンスに食いつくかな。
グランバインとトッドは付近の村で歓迎を受けた。ヤヌス王家の帰還。嘘でも万年戦争状態を打破してくれる人かもしれないということにすがっての行為だろう。
俺はトッドの周辺を見張った。あるとすれば、暗殺だ。
剣を腰に帯びた戦士たちがトッドの所にやってきた。もしもに備え、俺はトッドの後ろにつく。
「グランバインを操るケントゥーリオは貴公か。」
カーサ・フシと名乗る男や騎士を名乗る者たちだった。
「そうだ。僕がトッド・ヤヌスだ。」
あどけない顔にカーサ達が困惑する。
「まだほんの子供ではないか。」
「成長するのを待つだけの猶予は、この星にはない。そうだろう。」
俺が顔を見せると、カーサは鼻を鳴らした。
「やはり背後に後ろ盾がついていたか。教えろ、外星人。貴様はどこの星の者だ。」
「よその星が後ろ盾をやれば、この惑星の独立は勝ち取れないだろ。今、企業にコンタクトをとって飯の世話くらいはやってもらおうとしてる。」
「たわけたことを。この星が独立など不可能だ。それに、本当にヤヌス王家のものなのか?王子は名付けられる前に殺されたと聞くぞ。」
「それについては僕が。マルスおじさん、ヤヌス王国の騎士マルスが僕を逃がして育ててくれたんだ。」
「マルス騎士団長だと。敵を前に逃げた男か。」
騎士の一人が声をあげる。
「グランバインはヤヌス王家の血を引くものしか手に
「ぬう。」
カーサはうめいた。
「私の後ろ盾に惑星ゴモラがついている。この星はアンブロ・ジャンに蹂躙されてもう駄目だと囁かれた。そして、採掘されていないレアメタルや地下資源と引き換えに、アンブロ・ジャンと戦う機会をやると言われ、悪魔の星にサインしてしまった。」
カーサはトッドに膝をついた。騎士たちもそれにならう。おっとこの流れは…。
「この星の運命は貴方の双肩にかかっているようだ。我らカーサ騎士団は、どこかでヤヌスのお帰りを切望していたのかも知れぬ。我ら、スポンサーを切って貴方にお仕えしたく存じます。この星の自主独立とヤヌス王国の再建に力を注がせて下さい。」
「僕はそのために帰ってきた。立ってください。共にアンブロ・ジャンを倒し、ファンタジオに平和を取り戻しましょう。」
感動の仲間入りのシーンだが、俺の所に手紙通信がきた。アカサカからだ。社長直々に通信したいと言う。
俺はこの場をクロコにまかせ、離れた場所で通信を送った。
「こんにちは。」
「ファンタジオの剣闘士戦争について商談があると聞いて通信した。」
通信相手のツバサ・アカサカは髪を濃い茶に染めた壮年のスペビジだった。遺伝子操作された娘と違って自然に生まれてきたようだ。
「強引な手段をとってしまい、申し訳ない。」
「構わんよ。もっと強引な手を使うものもいるからな。それより本題に入ってくれ。」
「分かりました。実は…。」
俺はトッドの密航のことまで包み隠さずアカサカに話した。そして、ヤヌス王家のグランバインの話をした時、アカサカは明らかに興味をもったようだった。
俺はここぞとばかりに、ヤヌス王家による統一ほど外聞のいい支援はない。トッド・ヤヌスに投資すべきだと切り出した。
「成る程。我が社も剣闘士戦争へ出資しているが、それで企業イメージがダウンしている所がある。そのトッド・ヤヌスは歳はいくつなのかね?」
「まだ子供だ。宇宙船できいたら13くらいと答えていた。」
「ふむ。会議にあげて前向きに検討したい。」
「出来れば、トップダウンでの早い決断を望む。トッドに他の企業や星が群がる前に。何かの陰謀が起きる前に即決して貰いたい。」
「…そうか。成る程。では、私の権限で君たちの支援を保障しよう。運営については社員を派遣する。」
「大義名分のある剣闘士戦争なんて珍しいはずだ。戦いに口を出さなくてもうまくいくと思うんだが。」
「そうはいかない、スペースニート君。ビジネスが絡んで長期化した戦争は、たとえ大義名分があって終わらせようとしても中々終わらないものだ。こういうのは未来を見据える必要がある。」
「分かった。」
「ああ。それと、グランバインを調べさせてほしいのだが。」
「唯一の兵器を工場に運ぶ真似はできない。こちらに来て調べる分には構わないと思う。トッドに知らせてみる。」
「勿論、我が社の技術者を現地に送るつもりだとも。戦争契約は戦場でのグランバインの破壊並びにトッド君の死亡を確認したら打ち切るものとする。」
「分かった。俺も付き合うならそのつもりにしている。」
「面倒見がいいのだな。スペースニート君。娘が随分君をかっていたぞ。」
アカサカはフッと笑みを浮かべた。
「どうも性分みたいでね。」
俺は片目を閉じて苦笑いすると、型通りの挨拶で通信を切った。
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