第14話 死神が呼んでいる
食堂では船員たちが襲われて、阿鼻叫喚をあげていた。
羽化する前の芋虫エイリアンことモンフォールがビショップの首を持ち上げ、左右に開いた口で頭にかぶりついていた。
周囲は酒で酔って鈍くなった船員たちが血まみれで倒れており、起き上がれた数人の船員がモンフォールに立ち向かっていた。
「この野郎!」
勇敢なエリザがモンフォールに蹴りをいれたが、モンフォールは身じろぎもしない。
モンフォールはエリザに向かってビショップだったものを投げ捨てた。二人の身体が折り重なって倒れる。
「皆、化け物から離れろ!」
俺は叫んでラコン・ブラックマンバを腰だめに構える。
撃鉄を左手で叩くように起こし、引き金を引く素早い動作で、光弾が次々とモンフォールの頭から胴体に至るまで突き刺さった。
「トドメだ!」
自在鎌の刃で頭を刈り飛ばすと、やっとモンフォールが絶命した。
白濁液を浴びた船員たちが、口々に汚言をはいて、怪我した所に手を当てている。肩や手を貸している者もいた。
「モンフォールはこいつだけか?」
「何体か逃げたみたいです。」
「最悪だな。」
俺はため息を漏らす。
「船長…?」
恐怖した船員の声に振り返ると、ノイズの入ったキドが立っていた。
俺は迷いなくキドに引き金を引いた。
キドからモンフォールに変わる。
銃を連発し、モンフォールが倒れた。
「あんた、どうして船長が化け物だと分かったんだ?」
「さっき襲われてね。それより、奴は複数いて、この船の船長の姿に化けて襲ってくるみたいだ。何か武装しないと。」
ギチギチギチギチ…
そこかしこでモンフォールの声がする。
ダクトから、通路から、隙間があるところから、キドの姿に化けたモンフォールが這い出てくる。
「何体かって、多くない?」
俺のツッコミは、襲ってくるモンフォールのギチギチ音に消えた。
ジンボーがモンフォールに回し蹴りをした。ルークが割れた酒瓶を振り、ワットが固定式の椅子を壊して武器として殴り込む。
クロコが俺に背中をあずけて9ミリを撃ち、俺はブラックマンバで指さす様に光弾を放った。
モンフォールは生命力が強い生き物だった。黄色と黒の縞模様をした硬い表皮は、簡単な武器を通さない。
俺は集中して手を振ると、召喚された自在鎌はモンフォールたちをバラバラに引き裂いた。死神の鎌、だ。
「あんた、いったい?」
キングが俺の技を恐れた。
「地獄に送ってやっただけさ。」
精神力を使ってふらつきながらも、そう言って俺は片目を閉じた。前世からの癖ってやつだ。
モンフォールはあらかた片付いたみたいだった。
俺は、眉を切って目から赤い血を流すワットに声をかけた。
「フィッシャーたちは無事なんだろうか?」
「あいつらなら、酔ってお開きになったあと、部屋に戻っていった。ヤバいかもな。」
「俺はこれから居住区に向かうよ。皆で怪我の手当てをしといてくれ。」
「頼む。スペースニート。」
俺はクロコにも声をかける。
「パニ達はどうした?」
「パニとピー助なら、ワキザシ号の中に帰りました。」
「ルビー、ドッキングハッチの開閉はどうなってる?」
「現在閉鎖状態。ロックはかけていません。」
ひとまず、安心だな。ハッチのドアを開けれるとは思えない。
「現在、無人です。キャプテン。」
全然安心じゃないじゃん。
「俺は船員たちの様子を見てくる。クロコはパニを探してくれ。」
「
薄暗い廊下を渡り、船員居住区に入る。二段ベッドが並んでいて、ベッドの足元に荷物が置かれていた。
ふと、ベッドに引きずったような血の跡がロッカールームまで続いている。
血の跡を辿ると、ケビンの死体があった。タンクトップの下の腹が見るからに凹んでいて、人間の内臓の臭いがした。
俺は軽く黙祷すると、背後に気配を感じて振り返った。
そこにケビンがいた。肉眼だったら、ノイズも入っていなかっただろう。サイバーアイが補正をかけて真実を写そうとしたのだ。それで、俺の目にはノイズがかかっていた。
「死者への冒涜ってか?幼虫野郎。」
怒りを覚えた俺は、ウェーブ銃の出力を上げて発砲した。頭部と胴体の境目に弾が当たると、光弾が頭と胴体をちぎった。
ウェーブ銃はカートリッジ式だ。
撃ち終わったカートリッジは最後のエネルギーを入れていた空間が閉じるのをきっかけに、カスケード消失というのを起こしてカートリッジ自体が消失し、そして、後部にあるローディングゲートを開けて、空になったシリンダーにカートリッジを入れて給弾するという仕組みだ。
シリンダーにはカートリッジを6個入れることが出来て、一つのカートリッジにつき20発撃てる。小さなフルパワーレバーを上げて出力を上げて撃つとカートリッジ一本を消費するという代物だ。
カートリッジを見れば電脳で残り弾数が表示される。俺はカートリッジをシリンダーに入れてリロードした。
ウェーブ銃は最大120発撃てる計算になるが、モンフォールみたいな強力なやつには6連発で戦うしかない。自在鎌は強い精神力を使うため連発するのは危険だ。
俺は深呼吸して、フィッシャー達を探した。
部屋を一つ一つ確認していく。ベッドには人がおらず、いてもモンフォールに食い荒らされていた。
ある部屋に入ったとき、フィッシャーだと分かる派手なオレンジの髪が後ろ姿が、肩を落としてベッドに座っていた。
「フィッシャー、大丈夫か?」
「あぁ。スペースニートか。」
フィッシャーはサングラスをかけていた。
「生来眠りが浅いもんでね。眩しいと眠れないからサングラスをかけて寝ていたんだが、アイマスクなんてつけてたら死んでたな。」
こちらを向いたフィッシャーの緑のタンクトップが真っ赤に染まっている。
「医務室に行くか?」
「いや、救急スプレーを振りかけたから、血も止まってる。」
フィッシャーはそういうと、口をへの字にした。
「海賊がいなくなったと見たら、イワンの野郎。モンフォールを放って俺達を皆殺しにするつもりだ。」
「何故そんなことを?」
「何故って?決まってるだろ。怨恨だよ。俺たちと船長やイワンとの間で確執があったんだ。企業待遇だの、くだらない身分の上下だのでな。」
フィッシャーは、パニがかつてやったような暗い笑みを浮かべた。
「俺達は船長には逆らえなかったが、虎の威をかるアイツには誰も従わなかった。偉そうにしてたから、最近船長に隠れてボコボコにしてやったこともある。こいつは推測だが、海賊を手引して、船員たちは海賊に襲われて全滅しました、てのをやりたかったのかもしれない。それができないとみるや、モンフォールが脱走して皆を殺しました、てのに切り替えたとか。」
そんなやつなら、パニたちの身も危ない。まったく、次から次だ。
「奴らしくない大胆なやり方だが、酒が3度の飯より好きでケチなイワンの野郎が、ウォッカを皆に配った時点で気づくべきだった。海賊を追い払って気が大きくなってたんだ。奴というより間抜けな俺のせいだ。」
仲間がやられたのを目にしたのだろう。フィッシャーは目が赤いのをサングラスで隠していた。
「誰も気づかなかったし、悪いのはイワンだけさ。奴は船長室かな?」
「多分そうだろう。奴は船長になりたかった奴だからな。」
「俺は行く。パニが心配だ。」
「俺も行く。イワンの馬鹿を止めないとな。」
俺とフィッシャーは船長室へ急いだ。
俺はブラックマンバを撃ち、フィッシャーが自慢の筋肉を収縮させファイアアックスでモンフォールを唐竹割りする。
フィッシャーの方が消耗が激しいはずだが、俺の方がゼイゼイいっていた。
「体力なさすぎだろ。スペースニート。ランニングした方がいいぜ。」
「前向きに検討するよ。」
「ビジネスマンみたいな宇宙語を喋るんだな。イエスなのかノーなのか。」
はぐらかすと、フィッシャーが首を振って笑った。
船長室につく。
イワン・アウロフは、ピー助を連れたパニと話をしていた。手に銃を持って、である。
「パニ!無事か!」
「ヒロシ!」
「おっと、そこから動くな。俺が船長になったからには、これ以降神聖な船長室に入ることを禁じる。船長権限でな。」
「あぁ、そうかい。」
俺とフィッシャーは廊下にいて、船長室のドアが開いている。視界は良好だ。
俺の自在鎌は肉眼で見えなくても召喚できるが、何を切るのか分からないまま盲目的に振るうことになるので、危ない。つまり、自在鎌を操作できるのは肉眼でとらえたものだけだ。
「なら、俺からも最後の警告だ。銃をすててパニとピー助をこっちに返せ。さもなければ、殺す。」
俺は余裕の態度で、ホルスターに銃を戻した。
リホルスターした俺をみて、イワンが顔を引きつらせる。
「なんのつもりだ、スペースニート。」
斧を構えたフィッシャーまで、やきもきした顔で俺を見た。
「どうする?イワン・アウロフ。」
「こうするよ!スペースニート!」
イワンが笛を吹いた。犬笛のように音の出ないそれは、モンフォールを呼んだ。
ギチギチギチギチ…
身体を揺らしてモンフォールがせまる。
「一匹しか残らなかったのか。使えない奴らだ。おっと、ウェーブ銃は使うなよ。その斧もな。お前らの踊り食いを拝見するとしよう。動くなよ。さもないと、」
「パニを殺すってんだろ。船長は船長でも、海賊の船長に成り下がってるぜ。お前。」
俺は
「イワン・アウロフ!」
人を殺す。
俺は覚悟を完了する。
「死神が呼んでるぜ!」
強い精神力のせいか青い軌道を描いて、自在鎌がイワンの腕を肘掛けごと切断した。
それと同時に、俺は身体反射でブラックマンバを抜き撃つ。
手首を切り落とされ、痛みや出血よりも唖然とした顔のイワンとモンフォールの胴に命中した。
「パニ!」
「ヒロシ!」
パニが駆け寄り、俺に抱きついた。
「最初はニコニコしてたのに、途中から銃を取り出して脅してきたんだ。僕、怖かった。怖かったんだ。」
「殺されると思ったら、皆怖がるもんだ。分かったら金輪際、死ぬとか言わないこったな。」
俺はパニにハグすると、俺のパーカーが涙で濡れた。それもすぐ乾くだろう。パニもパーカーもタフにできている。
「イワンの腕を切るなんて、あんた、一体どうやったんだ?」
恐れを抱いたフィッシャーの言葉に、俺は片目を瞑った。
そう、これは前世からの癖ってやつだ。
「ニートの企業秘密さ。」
そう言った。
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