第2話 人語を解する鳥

 鳥(のような生き物)は、また首を傾け、しばらく何か考えているようだった。そして突然、ハッとしたように翼を大きく広げると。


「姫様、その御髪おぐしは!? 御髪が短くおなりあそばしておりますぞ!?」


「……は? おぐし……?」



 おぐし……って?



「あぁあぁっ、あのお美しかった御髪がっ! ツヤツヤと輝き、サラサラと風になびき……目にする者全てが、うっとりと見惚れずにはいられないとうたわれた、お美しい御髪が~~~っ!!」


 バッサバッサと翼をバタつかせ、ぐるぐると小さい円を描くように飛び回る鳥(のような生き物)をぽかんと眺めつつ……私は改めて思った。



 超低空飛行ではあるけど、飛び回ったりしてるし……。

 やっぱこの鳥(のような生き物)、本当に鳥だったんだ。



 ――でもまあ、その問題はひとまず置いといて。



 何だか一人(一羽?)で大騒ぎしてる鳥さんを横目にしつつ、私は『おぐし』について考えていた。



 おぐし……どっかで聞いたことあるような……。

 おぐし……おぐしが短い……って言ってたっけ? あと、ツヤツヤとかサラサラとか……って――……んん?



「あっ、そっか! 髪のことか!」


 ぽん、と右手で左のてのひらを叩くと、私は納得してうなずいた。



 そっかそっか、髪の毛ね。

 私の髪が短いって騒いでる――ってことは、その『姫様』は、私より髪が長かったんだ?



 ちなみに、私の髪は肩よりちょい長め。

 昔で言うところの『おかっぱ』、今時なら『ボブ』に近いかな?


 ……ああ、そうそう。『ミディアムボブ』ってゆーんだっけ? まあ、そんな感じ。



「姫様ッ!! その御髪はいかがなされました!?……もしや……もしや野盗めらに……!? あ~~~っ!! だとしましたら、私はどうすればよいのでしょう~~~っ? 国王様に、何とご報告したら……。あぁ~~~っ、それにしてもおいたわしや姫様ーーーっ!! そのようなみすぼらしいお姿にされた上、御自慢の御髪まで切られてしまうとはーーーっ!!」


 鳥さんは飛び回るのをやめると、翼で顔を覆い、しきりになげき始めた。



 ……どうしよう。

 なんか、めっちゃ誤解されてるみたいだけど……。


 それにさっき、『みすぼらしいお姿』とかって言ってなかった?



 私は顔を下に向け、自分の服装を改めて確認してみた。

 ――いつもと変わらない、高校の制服。


 ……ってことは、この世界の人達から見たら、この格好は『みすぼらしい』って思っちゃうような服装なんだ?



 むぅぅ……。失礼しちゃうなー。

 セーラーとブレザーを合わせたようなデザインで、結構可愛いと思うんだけど……。



 ――っと、いや。そんなことより。

 今は、この鳥さんの誤解を解かなきゃだった。



「あのね、鳥さん。この服は『制服』って言って、みすぼらしい格好でも何でもないの。ただの学校指定の制服。えっと、勉強するための服……って言ったらいいのかな? とにかく、めちゃめちゃまともな服装だから、安心して? で、私の髪は最初からこの長さだし、誰に切られたワケでもな――」



 ……ん?

 そー言えば私、最初から普通に鳥さんに話しかけてるけど……鳥ってそもそも、話せるんだっけ?


 ………あれ? 


 えっと、つまり……どーゆーこと……?



「……っえぇえーーーーーッ!? 鳥が人の言葉を話してるーーーーーッ!?」


 我ながら『今更?』って思うけど。

 鳥が人の言葉を理解し、ちゃんと会話出来るってことに心底驚いて、私は大声を上げた。


「ピッ!?……ひ、姫様……? 『とり』とは、何のことでございますかな?」


 ギョッとしたように翼を広げた後、またしても小首をかしげるようなしぐさで、鳥さんが私を見つめて……。



 最初は、大きさにひたすらびっくりして、じっくり観察する余裕もなかったけど……。

 こうして改めて、鳥さんのこと見てみると、めっちゃめちゃ可愛いんだよなぁ。


 口調がお爺さんっぽいからギャップもあるけど、慣れて来ると、それも含めて可愛い♪ なーんて思えちゃうんだから、不思議よねぇ……。



 それにこの鳥さん、私の世界のあの……え~っと……う~んと…………何だっけ?


 ……ほら。ほっぺにまーるくオレンジ色のチーク入れたみたいな、模様……なのかな? とにかくそんなのがついてて、頭の羽がぴょんって立ってて。


 う~ん……何だったかなぁ? 何て名前だったっけ?

 小さい頃、友達が飼ってたのを、見せてもらったことあったんだけどなぁ……。


 ……う~んと、確か……え~っと……え~っと……。


 ――あっ、そうだ!

 オカメインコ!!



「そうそう! オカメちゃんだよ、オカメちゃん!」



 うわ~~~っ、似てる~~~っ!!

 大きさと、丸々した着ぐるみっぽい体つきさえ除いたら、オカメインコそのものだよ!!



「ピ…? オカメ……ちゃん?」


 くりくりな瞳で、更に首を横にかたむける鳥さん。



 きゃーーーっ、めっちゃ可愛いっ!! 可愛過ぎるっ!!


 ……あーもー、どーしよー……。

 抱き締めたくて堪んないっ!!



「ひ……姫様……?」


 両手を上げながらじりじりと距離をちぢめる私に、鳥さんは得体えたいの知れない危険を察知したのかも知れない。

 途端とたんにキョロキョロと辺りを見回し、逃れる場所を探し始めたようだった。

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