第4話 突然の告白、そして別離。

「え……? あき、と……?」


 びっくりして、まじまじと晃人を見返す。

 その顔が、たちまち真っ赤に染まって行って……。


「ち――っ、違うからな!? 今のは昔の話で、今の話じゃないぞ!? おっ、俺が今でもおまえのこと好きだと思ったら、大間違いだからなっ!?」


 赤い顔のまま言い放つと、晃人はぷいっと横を向いてしまった。


「……でも……今のことじゃないにしても……。晃人って、小さい頃、私のこと好きだったんだ?」


「う――っ。……ま……まあな。昔だけどな。ホントにホントの昔だけどなっ!」


「……へぇ~……」


 顔をそむけたままの晃人を、私はぼけ~っと、しばらくの間眺め続けた。



 十秒……二十秒……三十秒くらい経った頃、


「なんだよ!? 言いたいことあるなら言えよ!!」


 無言の状態に耐えられなくなったのか、晃人が大声を上げた。


「いや……言いたいことってゆーか、訊きたいことってゆーか……」


「訊きたいこと?」


「……うん。晃人って、私のどこが好きだったの?」


「ど――っ、どこがって……」


 『そんなこと急に訊かれても』。

 一瞬、そう言いたげな顔をして……それでも晃人は、照れ臭そうに答えてくれた。


「おまえは覚えてないんだろうけど……。おまえさ、ガキの頃はすっげー大人しくて、泣き虫でさ。いっつも俺の後をついて来て……めちゃめちゃ可愛かったんだぜ?」


「……大人しい? 泣き虫?……何それ。誰の話?」


「だからおまえだよ! ガキん時のおまえ!」



 ……嘘。

 マジで私の話なの?



「私、人前で泣いた記憶なんてないんだけど?」


「だっから昔だって言ってんだろ!? 今のおまえにそんな要素ないってことくらい、嫌ってくらいわかってんだよ!」


「……なるほど。そりゃそうか――」



 ……ふむ。

 小さい頃の私は、大人しくて泣き虫だったのか。


 我がことながら信じられないけど、晃人がそうだったって言ってるんだから、間違いないんだろうな……。



「……まったく。神隠しの前と後じゃ、まるっきり別人だよ。最初は俺、マジで偽者なんじゃないかって、疑ってたくらいなんだから」


「え――」



 ……偽者?



「あ――、いやっ、今も疑ってるワケじゃねーぞ? 今はそんなこと思ってないけど――っ」



 ……なんだろう。胸がドキドキする。



 晃人が横であれこれいい訳してるけど、私の耳には全然入って来なかった。



 ――偽者? 私が…………別人?


 ……そんな……そんなことって……。



 軽いめまいがして、私はよろめいて背後の御神木に寄り掛かった。


「桜っ?」


「……だ――大丈夫。……ちょっと、めまいがしただけ……」


「けど……顔色悪いぜ? やっぱ今日はもう帰るか?」


「大丈夫だってば。晃人、心配し過――ぎ……?」


「……桜?」



 ――また、だ。

 また聞こえた。


 私を呼ぶ声――ううん、声じゃないのかも知れないけど……。


 誰かに……どこかへ呼ばれてるような、そんな感覚が――……。



「――っ!?」


「桜っ!?」


「……やだ――っ、何これ!?」


 体が埋まって――ってゆーか、めり込んでくみたいな……。

 木に、吸い込まれてくみたいな……。


「桜っ!!」


 晃人が強く、私の手をつかんだ。


「晃人っ! 何これ!? 何なのこれっ!?……体が――体が木の中にっ!」


「わかんねーよ!! わかんねーけど……っ!……桜、絶対に俺の手離すなよっ!?」


「離すなよって、でも――っ! 勝手に体がっ!!」



 左手が――左足が――左側の顔が、どんどん木の内部へと吸い込まれていって……自分じゃもう、どうすることも出来ない!



「晃人……晃人ぉッ!!」


「桜ぁあああーーーーーッ!!」


 晃人につかまれてる右手だけ残して、私の体は木の内部へと入り込んでしまった。



 ……何、ここ?

 木の中……って、真っ暗でだだっ広い空間なの!?



『桜!! 桜っ、桜ぁああーーーーーッ!!』


 晃人は私の手を離すまいと、外側から必死に踏ん張ってくれてるみたいだった。



 ……でも、ダメ――!


 凄い力で後ろに引っ張られてて、そう長くは、ここにとどまってられそうにない。まるで、が私を捕らえてて、どこかへ飛ばそうとでもしてるみたいだ。



「晃人……」



 手が……離れる……っ!



『桜ぁあああああーーーーーッ!!』



 完全に木の内部へと吸い込まれた私は、晃人の声が遠ざかるのを感じながら、真っ暗な闇の中、下へ下へと落ちて行った。



 ……何これ!? ホントに何なのこれっ!?

 木の中がこんな広い空間だなんて、あり得るワケ!?


 ――ってゆーか、私、どこまで落とされるの!? いつ下に着くの!?


 いやいやっ!

 この勢いで下まで行ったら、死んじゃうんじゃないの!?



「冗ッ談じゃないわよぉおおーーーーーッ!!」


 そんな叫びも空しく響く中。

 私は真っ暗な空洞を、重力に従って、ひたすら落下し続けた。

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