第7話

『あたしバカは嫌いなんや。しばらく、顔も見とうないわ』

この言葉を最後に、うちらは別々で、行動している。うちと聖那は、二人で怪異を、退治している。やけど思うように、進んでいない。原因は分かりきっていた。炎羅の言っていたことを、あの後二人で、考えた。だけどその真意は未だに、分からずじまいだ。お風呂を済ませたうちは、髪も乾かさへんと。ベッドの上に寝転がり(そもそもうちらはちょっと視ることができたり、浄化ができたりするだけの、普通の学生やねん!そんなことまで、一々考えてられるか!)と胸の中で不満を爆発させる。ひとしきり発散した後で、枕を抱えて、仰向けになる

「でも、間違ったことは言ってへんかったよな」

横向きになり、口を尖らせる。目に涙が溜まっていくのがよく分かった。(分かってるよ。うちらの考えの浅さがあかんかったって。でも、でも…!)またごろごろとベッドの上を転げ回る。うちは

「はぁぁ」

と深いため息をついて。窓を見やる。暗い外では、雨がザーザー降ってる。(雨、か。もう六月やねんなぁ。やんなるなぁ)また、ため息をついて、そのまま寝落ちした。


翌朝、ママの作ったあつあつの、トーストを食べて、ジュースを飲んでいると

ピンポーン

とチャイムが鳴った。ママが

「はい」

と出ると

「神崎です。時華ちゃんはいますか?」

「居るわよ。毎度毎度、ごめんねぇ」

聖那が来た。ママが応対しているうちに、うちは急いで、残りのトーストを口に入れて、ジュースで流し込み、リュックを背負って

「ふぃってきます」

そう言って、運動靴を履き、ドアを開けて、外に出る。それから、鍵をかけて

「お待たせ!」

「行こう」

「うん」

聖那と学校に着いて、クラスに入ると、今日も炎羅は休みだった。(またか)あの後から、炎羅はずっと学校を休んでいる。これやったら、話すタイミングも、言いたいことも言われへん。と微かにストレスと溜めていた。お昼休みになって、屋上に向かう。四月最初は、クラスで食べていたけど、うちらが話す内容が、もっぱら怪異関係やからっていうことで屋上に移動しよと、炎羅が言い出したんやった。あんなことになるまで、炎羅といい思い出が少しずつあったことを、改めて思った。(いつまでも、このままやったらあかん。どないかして、炎羅に会わへんと。でも、会ってなんて言ったらええんや)悶々とした思いを抱えつつ、聖那と屋上に着く。すると

「やぁ!時華。聖那。待ってたよ」

と珍しくX Xが出迎えた。うちらは

「どーしたん。珍しいなぁ」

「X Xちゃん。わざわざ出迎えてどうしたの」

そう聞くと

「二人とも、急いでこっちにきて!」

X Xが焦った様子で、うちらを急かし、校舎の方へ向かっていく。何が何だか分からへんが、とりあえず、X Xの後を追いかけることにしたうちら。追いかけている最中(もしかして、炎羅に何かあったんか?それやったら、無事でいてや)わずかに胸の中をよぎった嫌な予感を振り払うように、走るスピードを上げた。しばらく走った後、X Xが三階の空き教室の前まで来た。この時、校舎の雰囲気が異様なものになっていることに気がついた。(今?!マジで言ってるん。今までは必ず放課後やったやん)と思っていると

「二人とも!こっち!」

そう言って、空き教室の中へ入っていった。うちらは顔を見合わせて、恐る恐る教室に入ると、そこはまるで、異界と化していた。中にあるはずの、あまりの机や黒板は消え失せ、まるで教室から廊下に出たのではないかと錯覚してまう、光景が広がっていた

唯一違うんは、校舎が夕方とも夜とも区別つかんことぐらいやった。いつまに術を発動させたのか、X Xの声が耳元に届く

「二人とも、ぼさっとしてないで、こっちの柱の影に隠れて」

焦ったような苛立った声でそう言われ、そそくさとX Xがいる柱へ行くと、そこに

「えっ?!炎羅!」

大きい声を出しそうになった瞬間、炎羅に口を塞がれて、強制的に小声でそう言った。炎羅の体には、あの時とは比べ物にならへんほどの、怪我を負っていた。顔にはいくつかの擦過傷ができており、腕や脚には、深そうな傷がいくつもできていた。幸いなのか分からないが、見たところ、手当ては済ませてあるようやけど、うちは

「なぁ、一ヶ月間、ずっとここにおったん?」

と言うと、炎羅は少し目を丸くして

「時間も狂ってるんか、この空間」

そう吐き捨てた。XXが

「どうやら、そうみたいだね」

そう言ったのに対して、聖那が

「X Xちゃんは知らなかったの」

と問うと

「私がここを探知できたのは、本当についさっきだからね」

前を見据えたままそう言った。うちは、こっそり、柱から前の様子を視ると

「なんや、あれ」

今までの怪異とは比べ物にならへんほどの、ドス黒さ。それに加えて何やら呪符みたいなのが全身を覆っている

「時華、あいつの姿はどう?」

「やばい。今までの怪異よりも、ドス黒くて呪符みたいなんが巻き付いてる」

X Xの問いかけにさっき視たことをそのまま伝える。炎羅の様子をチラリと見ると、かなり苛立っているようだ。貧乏ゆすりが激しいし、舌打ちを何度も繰り返してる。うちは

「炎羅…?」

と声をかけると、眦を上げてこちらを見る炎羅。そして

「なんのつもりで来はったん?お遊びのつもりやったら、帰ってもろって」

ドアを指差しながらそう言った。聖那は、普段の穏やかな口調をかなぐり捨てて

「なっ?!人がどう言う気持ちで、あんたがおらん一ヶ月を過ごしてたか、ちったあ考えや!」

と怒鳴った。すかさず炎羅も

「はん!あんさんらの同情なんか、最初から求めてないんやわ。せやからどうぞ、お帰りください」

つっけんどんに言い返す。それにカチンと来たのか

「ええ加減にしろや!あんたはもうちょい、言われる側の立場になって、考えやって言ってんねん」

「あんさんにそんな気遣い、してもらう義理ないわ。たかが一ヶ月の仲。あんさん、うちのことが気に入らへんかったのやろ?ちょうどええですやん」

「なんやと………」

うちは、あの怪異にいつ、気づかれやしないか、ヒヤヒヤしながら会話を見ていた。口を挟む隙が一切あらへんかった。お互いに、買い言葉に売り言葉で、言い合いがヒートアップしていく。X Xちゃんが

「ねぇ、時華。二人を止めてよ」

「これを?マジで言ってる?」

「大マジ」

うちは、はぁとため息をついて

「しゃーないなぁ」

未だに言い合いをしている二人を見て、どーしようかと悩んでいると、二人が取っ組み合いを始めていた。うちは(炎羅に会ったら、あの時のことを謝ろうとか、色々考えてたけど、もう、どーでもええか)うちは、二人の方に、歩いて、お互いを殴る一歩前。うちは、二人の頭に拳骨を落とした

「痛っ!」

「何するんや!」

うちは、腕組みをして二人を睨みつける

「あなたたち、いったい何をしてるんですか?」

思ったよりも低い声が出てびっくりした。聖那たちは、普段のうちと全く違う様子に驚いたのか、固まっていた。うちは、一周回って、冷静になった頭ん中で(おっ、静かになった。二人はお互いに言いたいこと言ってたし、うちも言わせてもらおうか)

スゥと息を吸って

「まず、炎羅。あの時のことは、ほんまに申し訳ないと思ってる。確かに、うちらには、覚悟も何もなかった。問題を目の前にして、炎羅に言われるまでそれについて、考えなかった」

一旦言葉を区切って、さらに続ける

「だけど、『ズっこい』『甘い戯言』?ふざけないで。うちは視えるだけの、ただの一般人です。それで?ズルいのとか、甘いこととか、そんなに責められることですか?」

そう畳み掛けると

「えっ、いや。その、はい。ない、です………」

徐々に語尾が小さくなっていく炎羅。うちは聖那の方を向いて

「説得しようとしてくれたのはありがとう。でも。これとそれは別。今、目の前に怪異がいるの分かっててやったの?」

と言うと

「ごめんなさい」

子犬のように項垂れてそう言った聖那。うちは、言いたいことを言い切ったので、心の中が、すっと晴れ渡るのを感じた。そして

「もう、怒ってへんから。二人とも、そんなに縮まらんで」

そう言うと

「はい」

「うん」

と返事をして、小声で

「もう、時華はんを、怒らせへんようにせな」

「本当にね」

と言っていた。ちなみにX Xの術がかかっているのを忘れているのだろうなと思いながら、見張をしてくれていた、X Xに確認を取る

「向こうの様子はどうや」

「目眩しの術をかけてるから、まだ見つかってないけど、時間の問題だと思うよ」

そう言った。うちは、あの怪異を倒す術を考え始める。(よりにもよって、今の人らと、前の人らの念の集合体かいな。うちは、もう迷わへん)とあの怪異を倒すことに、覚悟を決めた。うちは、炎羅たちに向き直って

「二人とも、あの怪異さ、どうやって倒す」

と聞くと

「そら、一刻も早く、倒すことしかないやん。まさか、あんさん」

炎羅は、何かに思い当たったのか、うちの方を見て

「あれを倒さへんつもりなんやろうか」

「違うよ」

うちは首を横にふり、炎羅をまっすぐ見つめ返す

「倒すのは、同意。やけど、ただ倒すだけやなくて、うちはあれを生み出さした人らを、助けたい。なんせ、甘い考えを持ってる人らしいからな」

と言うと、炎羅はうっと言葉につまり

「ものすごく根に持ってるやろ、あんさん。………まぁええわ。あたしも賛成」

そう言った。正直、一番反対しそうやったらから、めちゃくちゃびっくりした

「えっ?いいん」

と聞くと

「あたしかって、好きで怪異を退治してるわけやないんで。より苦しまん方法があるんやったら、それをするよ」

そう言った。うちは(なんか、誰かに似ているよな)と思っていると、聖那は、何かを考えているのか、首を捻っている。すると、ひらめいたのか

「そういや、一回だけ、私の術と炎羅ちゃんの術をサンドウィッチみたいな感じで、やった時、怪異から鈴みたいな音が、したんだよね」

と言った。うちは、その時のことを必死に思い出す

「あっ!確かにあったねぇ」

「その方法やったら、確かにいけるかもな」

うちらは、互いに頷いて

「X Xちゃん!聞いてたよね。これでいくよ」

「りょーかい!それじゃあ、あと五秒で目眩しの術を外すね」

「おっけ!」

うちらは、臨戦体制になる。その時

「あたしは、あんたらのことを完全に、信用しとるわけやあらへん。やけど、もういっぺん、信じさせてな」

と炎羅が言った。うちは

「行動で、勝ち取るよ。絶対」

そう言って、炎羅の、手を握った

「いくよ!五・四・三・二・一!」

X Xちゃんの合図で、聖那と炎羅が左右に分かれて、飛び出た。うちは

「聖那!そのまま十一時の方向に、矢を!」

聖那に、この一ヶ月の間に習得した、新しい技を指示する

「プリフェケーション・アロー!」

天色に輝く矢を放った

「炎羅、二時の方向に!」

炎羅は、さっと印を組んで

「臨兵闘皆陣破!」

真珠色の霊気が怪異に向かって放たれる

「聖那!範囲の方を」

「了解!エリア・プリフェケーション」

サンドウィッチ戦法で、怪異にどんどん畳み掛けていく。怪異の体を覆っていた、呪符みたいなのが、取れていき、残り一枚になった途端、怪異が、液体状の矢を放ってきた

「二人とも、自分の周りを結界で!」

二人は即座に

「禁」

「シールド」

うちとX Xも柱の影に身を寄せる。攻撃が止んだ、ほんの一瞬の隙を(逃すか!)

「二人とも、そのまま前方に!」

炎羅と聖那は、ほぼ同時に、詠唱をする

「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・センダンマカロシャダ・ソハタヤ・ウン・タラタ・カンマン!」

「プリフェケーション!」

二人の術の気が重なって、大きな霊気の塊が、怪異に命中した。そして、ほわほわと光の玉を発しながら、怪異の姿が消失した。教室の風景が元に戻った。恐ろしいことに、、外を見るともう、真っ暗だった。うちらは、ほっとして、肩の力を抜いた

「終わった」

「やった!倒したよ!!!」

「やったんか、あたしら」

と三者三様に喜びの声をあげていると

「お疲れ様。三人とも」

X Xが声をかけた。うちらは、X Xの方を見ると

「えっ?」

「XXちゃん」

「あんさん、なんか気配、強なってない」

と言った。二人にも、X Xの姿が見えていることに、気がついたうち。X Xは、うちらに向かって

「なんか、さっき倒したやつに、私の魂の一部が紛れ込んでいたみたい」

ニコッと笑ってそう説明した。その時、また

カチャン

と何かが開く音がした。うちは、不思議に思って辺りを見回すけど、やっぱり何もない

「時華?」

X Xが尋ねると、うちは

「なんでもあらへんよ」

そう言って、誤魔化した。(霊とかの声が聞こえる、聖那やったらまだしも、うちなんかがなぁ)

と思って、頭をかく

「とりあえず、今日のところは、帰らない?」

と聖那が提案した。その提案に、うちらは乗った

「そうやね。それじゃ、炎羅。X Xまた明日」

「ほななぁ、時華はん。聖那はん。X X」

うちらがそう言うと

「バイバイー!」

XXが大きく手を振って見送ってくれた。帰り道

「時華ちゃん」

「なぁに?」

「ううん。なんでもないよ。ほら、早く帰ろ!時華ちゃんのお母さん。心配してるよ」

「聖那ん家もね」

聖那が何かを言いかけたが、別のことにすり替えられた。暗い夜道。街灯に照らされた彼女の横顔が一瞬、翳りを帯びた気がした。うちは、嫌な予感がした。不安に感じたことない、彼女との帰り道。やけに、胸騒ぎがしていた。

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