第2話 世界滅亡委員会
幽見さんは言う。
「私達には三つの権能が与えられている。まず一つはセカイを視認出来る眼、そして人ならざる者を殺せる異能『亜種殺人技巧』そして三つ目は――」
待って、なんかかっこ悪い。
とは言えなかった。
というか展開についていけなかった。
セカイを視認? 亜種殺人技巧? そんなもの誰が?
疑問は尽きない。
しかし目の前の幽見さんを質問攻めにする気力も無かった。
その一撃を避けるので精一杯だったから。
「きゃっ!?」
俺と幽見さんの横を通り過ぎて床に突き刺さったのは短剣だった。柄にロープが付いている。投げる事を前提にしており、なおかつ外れた時に回収する事を前提にしている。つまり――
「二撃目が来る!」
「せいかぁい」
甘ったるい声。
マントを羽織った少女。
そのマントの裏地には大量の紐付きナイフ。
「世界滅亡委員会……!」
幽見さんの口からまたなんかダサい名前が出てきた。
「なに……味方なのあいつ?」
「違う、新谷世界を生かして夏休みの終わりと共にセカイを終わらせようとしている連中、私達の敵! 人ですらない『亜種』よ!」
どっからどう見ても仮装した人間にしか見えなかったが。
こっちに短剣を放ってきたという事はそういう事なのだろう。
不承不承ながら納得する。
するのはいいが攻勢に移る事も出来ない。
何せこちらには武器が無い。
そこに。
「困ってるみたいだねー」
青い声が聞こえた。
青い青い、透き通るような声。
「新谷……?」
「武器、欲しいんでしょ?」
こちらに語りかける青の少女。
するとマント少女が顔をほころばせる。
「総主様!」
「だから違うってばー。君達は私の敵、それよりランハ、武器いるよね?」
いる。
けれど。
どうしたものかと幽見さんの方を見る。
すると苦虫を噛み潰したよう顔をしながら彼女は。
「これが三つ目の権能、私達はセカイから武器を一つ借りられる。亜種を殺す為の武器を」
そう言って、彼女は新谷からどこからともなく現れた大鎌を受け取った。
いや、今どこから?
そしてそのままマント少女の方へと向かって駆け出す。
「
俺が扱える武器。
俺でも誰かを殺せる武器。
それはきっと簡単で。
誰でも扱えるような代物がいい。
そう言って手を伸ばした。
手の内には黒い拳銃。
「それが君の力だよ」
セカイを名乗る少女は語る。
これで殺せとけしかける。
引き金をひくだけで人を殺せる。
俺の明確な殺意のイメージ。
その具現化だった。
まだ、透明な殺意は渦巻いている。
しかし目の前の少女を殺す事は選ばずに。
幽見さんの方を向く。
どちらを選ぶとか。
そういう話じゃなくて。
今はただ知り合いを助けたかった。
「ありがとう」
「気にしないで」
手が震える。
しかし、それとは裏腹に。
マント少女の眉間に照準が向く。
これが亜種殺人技巧。
言葉でなく、身体で実感できた。
後は引き金をひくだけであいつを殺せる。
短剣と大鎌の乱舞の中を。
一発の弾丸が通りすぎていった。
それは血の花を咲かせて。
勝負に終止符を打った。
傷だらけの幽見さんがこちらを向く。
硝煙が煙る俺の銃口を見て。
少し悲し気に微笑んだ。
マント少女は額から血を流し絶命していた。
しかし。
「なるほど、次の選定者が現れたか。あと二ヶ月にも満たないで世界は終わるというのに、
「勝手に祭り上げないでよね。私は死にたいの」
そこには数人の人影がマント少女の遺体を囲んでいた。
「我々は世界滅亡委員会。お前達の敵だ」
そう宣言して視界から忽然と消える。
俺は思わず床に膝をつく。
震えが止まらない。
俺が一つの命を奪った事実が今になって精神に直接突きつけられる。
「こんなこと、続けろっていうのかよ」
「今すぐ終わらせる事も出来るよ?」
透明な青が語る。
言外に今、自分を殺せと諭して来る。
耳を貸すな。
俺は。
俺は。
俺は。
「俺はまだ、お前を殺さない」
「ふぅん、どうして?」
「お前だって最期の思い出くらい欲しいだろ。高校一年の夏休みは、一回だけなんだから」
透明な殺意を押し殺して噛み殺して黙殺して。
「お前に思い出を作ってやる。それから殺す」
すると新谷は破顔して。
「あははっ君って存外残酷なんだね」
と言った。
セカイ系カノジョ 亜未田久志 @abky-6102
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