セカイ系カノジョ
亜未田久志
第1話 透き通るような青
初手で夢だと分かった。
青い青い渋谷交差点の真ん中に立っていた。
な? 意味わかんないだろ。
俺は辺りを見回す。
すると、綺麗な青い髪の少女が俺の前を横切った。
「あ、ちょっと」
夢の中なんだからスルーしとけばいいものを、俺は思わず声をかけてしまった。
すると少女は立ち止まり、こちらを向く。
その瞳の色まで透き通るような青。
青い、青い少女。
「君、
なんか今、声がダブって聞こえたような。
「ああ? うん、見える」
「やった! やっと来てくれたね! 君、名前は?」
「俺? 俺は
「アカネ、ランハ? ランハ!」
いきなり下の名前呼びかよ。
とは口には出さなかったが。
「ねぇランハ、お願いがあるんだ。私が見える人にしか出来ないお願い」
「うん?」
「私を殺して欲しいんだ」
「は? いってぇ!?」
思い切り頭をぶつけて目を覚ました。
俺の頭の上には目覚まし時計が落っこちていた。
「ああ、夢だったな……」
にしても。
「リアルな夢だったなぁ」
遅刻しそうだというのにのんびり回顧していると。
スヌーズ機能の目覚ましがまた鳴った。
「おいっすーアッカネーン!」
「その外人みたいな呼び方やめろや」
「あはは!」
幼馴染の
我ながら悪くない学生生活だと思っていた。
教室にたどり着くまでは。
あいつが。
現れるまでは。
「おらーお前ら席つけー」
「
「おこってねー……っとおーい入って来ていいぞー」
1-Aのクラス全員が首を傾げる。
入って来たのは。
来たのは。
「どうも! 転入生の
青い、青い少女だった。
「来たよ、ランハ」
注目はセカイから一気に俺に向く。
「なんだ知り合いか、丁度いいな。お前ら隣だし」
「いやいや知らねぇよ!」
「夢で会ったでしょ!」
「……ッ!?」
フラッシュバックする、あの言葉。
「私を殺して欲しいんだ」
「北先」
「ん~? 席隣同士嫌なのか?」
「いや……ちょっと具合悪いから保健室行ってくる」
「あー? なんか顔青白いな、分かった。一人で行けるか?」
俺は無言で頷くと教師を出て行った。
透き通るような青い少女は。
今、肉体を持って俺の前に現れた。
殺して欲しい?
俺は普通の男子高校生だ。
殺人犯になんてなりたくない。
当たり前だろ?
だけど、だけどおかしいんだ。
俺は、俺は。
「どうしてあいつを殺さなきゃって思ってるんだろう? 憎いわけでも、愛してるわけでもないのに、ただただあいつを殺さなきゃって思ってる。おかしい、こんなの絶対おかしいよ……誰か、誰か助けてくれ」
1-Aの教室から離れた廊下でうずくまる。
辺りに誰もいない。
それを確認して俺は思い切り吐露した。
するとそっと肩を叩かれた。
「大丈夫?」
「君は
幽見さんは隣のクラスの部活が同じの女子だった。
あんまり仲良くはないはずだったけど。
そもそもどうしてここに?
それを訪ねる前に。
彼女はこう言った。
「
また、声がダブって聞こえた。
「……は?」
「最初は私もそうだった。彼女を殺さなきゃって思って、反動で吐き気がした」
「幽見さん、も?」
「そう、彼女は世界に巣食う癌細胞、私達はアレを殺さなきゃいけない運命にある。私は失敗したから、もう君を手伝うくらいしか出来ないけど」
セカイの癌細胞?
青い青い透き通るような青をした彼女。
それは世界を殺す者だと。
目の前の少女は言う。
俺はただ、ひたすら困惑して。
現実ってやつに初めてハテナマークを付けた。
「君も俺にあいつを殺せっていうのか」
「言う、もう時間がない」
「時間ってなんだよ」
「夏休みが終わると同時に世界も終わる」
嘘だ。とは言えなかった。
だって幽見さんの目がひどく真剣だったから。
こうする今も透明な殺意は俺の中で膨れ上がっていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます