第2話 美久の予知夢

 2101年 4月 鳴海美久は板橋区立第三高校の2年生になった。


 美久は目が隠れるくらい前髪を伸ばし、身長は155cmで痩せてはいない。生まれた時から右の肩に小さなユリの花のようなアザが有る。

 性格はどちらかと言うとゲームオタクで運動系は苦手な方だ。


 因みに、この時代良い大学に入り良い会社に勤めるという選択肢は無くなり、仕事自体が殆ど無く大抵の職業はAIロボットが対応している。


 よって大学も研究職以外で通う人はほぼいない。だから受験戦争など無い。つまり競争が少なくなり人間はどこか活気のようなものを失いつつある。


 しかし、何年も経つと誰もそれに気づかないのである。

 

 ただし美久は生まれた時から何代もの前世の記憶を持ちあわせ、今の若者の腑抜けた不気味さに気づいていた。


 好きなものが好きなだけ食べられて生活に困らない満たされた世の中で大多数の若者は夢を見ることが少なくなり希望や欲望が薄らぐ。


ーーーーー


6月3日の雨の夜 美久は夢を見た。どんよりとした厚い雲に覆われたダークグレーな朝 日本中に何十発もの核ミサイルが投下され1日で日本は地獄絵図のような状況になる。


 そのミサイルの量が多いため強い放射能で何年間も誰も立ち入り出来ない国になってしまう。


 日本の森の98%は焼き尽くされ、川は干上がり、汚染された海には大量の魚や動物、人の死骸が流れ着いてメタンガスが発生して凄まじい悪臭を放った。僅かに生き残った人も強い放射能汚染で半年の間に亡くなっていく。


 美久には核ミサイルを投下した犯人まで見えていた。


       マザーAIである。


 日付は2102年6月6日 火曜 朝9時00分。マザーAIを破壊しようとする人間達への報復で世界各国に眠る核ミサイル30発を日本に向けて発射。日本国は完全に消滅した。


 美久は朝目覚めてそれが予知夢であると理解する。あまりの光景に心臓がドキドキしている。


残り1年しかない。


「時間がないわ」


「ど、どうすれば阻止出来るの」


「私はどうすれば、、、」


 ベッドで半身起き上がるとカーテン越しに昨日の雨が上がり日差しが差し込む。


 喉が渇いてカラカラだが全身から力がみなぎる。美久はひとり俯いたまま日本を救う方法を考え続けた。


「どうする」


ーーーーー


 深夜2時、前田修弥は昨日の人間狩りの場所に戻ってきた。


 青木ヶ原樹海の入り口から西南に850m。


 地図を頼りにひたすら歩く。途中自殺のメッカらしくロープを握ったまま座り込む男を見たが気にせず先を進んだ。


 昨日埋めたボックスを掘り起こす。土の中からマイナス70度まで冷却出来る特殊なクーラーボックスを取り出すと一瞬だけ蓋を開け中を確認する。


 龍ヶ崎の頭部があり下を向いている。


 頭部は白く凍っているようだ。急いで閉めるとクーラーボックスのベルトを斜めがけにし、出口に向かって早足で歩いた。


 先程の男は既に木にぶら下がっている。軽く一瞥して出口に駐車していた車に乗りクーラーボックスは助手席にゆっくり置く。


 ナビを新宿3丁目のリボーンホスピタルにセットし自動運転で走り始める。


 朝4時半、リボーンホスピタルに着くと裏口から入りクーラーボックスは白衣を着たドクターに渡す。


 この時代に人間のドクターは珍しく彼は用意された手術室にクーラーボックスを運ぶと中の頭部を取り出し器用に専用工具で頭蓋骨を割ると凍った脳味噌を分離した。


 そして予め用意されていた再生医療による脳以外の全てのパーツが揃った身体に龍ヶ崎の脳を差し込み様々な器官と繋ぐ。


 ドクター1人で作業しているためかなりの時間を要したが手術は成功した。


 今後、身体と脳がなじむまで3日はかかるし、歩けるようになるまでは3、4ヶ月はかかる見込みだ。全ての機材を洗浄してドクターが手術室から出てきた時には昼12時を過ぎていた。

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