世紀末に花を

ナルナル

第1話 近未来のゲーム

 2100年ついに人類は全ての病気を治せる時代に突入した。それと同時に死という絶対条件すら回避する方法も分かった。あらゆる病気は再生医療で培養された部位に置き換えることが当たり前になり、脳さえ無事なら身体は全て培養して作り、脳のデータをコピーして移せば死すら回避出来る。


 また、身体は理想のスタイルや顔を選ぶことが出来て筋肉質、華奢、美男子など自由自在な未来になった。


 ただし人が死なないから産む数を減らさなくてはならなくなる。


 新政府が出生率0を目指すとニュースから流れてくる。


 しかし、人間が死ななくなるとあらゆる経験や知識が豊富になり失敗を繰り返さないように新たなチャレンジをする人間は激減した。皆んなが守りの人生を送るようになり、同じことを繰り返すようになる。酒を飲み続ける者、遊園地で暮らす者、毎日パーティを開く者、漫画や本を読みつづける者など。


 好きな事を徹底的にすることが出来る。いくらでも時間があるのだ。面倒な仕事や辛い仕事はAIロボットが全てやってくれる。スポーツに熱中する人間もいたが身体が好きなように改造出来る現代では昔ほど盛り上がらなくなっている。


 どんなに好きだった趣味やスポーツも数十年そればかりを繰り返したら必ず飽きて見るのも嫌になってくる。

 

 また、好きな人と愛し合ってみても子供を作ることは人類増加に繋がるため禁止されている。そうなると愛の意味が分からない状況さえ生まれた。


 最終的に50年もすると誰もが毎日刺激の無い、暗いつまらない日々を送るようになった。街中はひっそりとし、誰もが生きる意味を見失い家から出ない。そして引きこもる彼らは廃人のようになり自ら死を選択する人が現れ始める。


 彼らは病気になっても延命措置を受けない。自然な死を全うする。結局殆どの人間は自然な死を受け入れるようになった。


 しかし、数は少ないが永遠の命を追求し続ける人達は貪欲に様々な欲望を満たし続けては飽き、何をしてもつまらなくなり苦しんだ。そして多くの人に芽生えた最後の欲望は人を殺めたい、苦しむ人を見たいといった欲求であった。当然彼らの要求は自然死を望む体制派と衝突し、互いに分かり合えない所がいくつも見えてくるといつしかエリアを分けて暮らすようになっていった。


 それらを采配するのはマザーAIと呼ばれるコンピュータで日本政府の最終判断や最高裁もAIの判断となっている。


 永遠の命を手に入れた人類は最初は政府公認の人間そっくりのAIロボットを狩る体験アトラクションを作った。しかし、ロボットは心から悲しまないし、苦痛を顔に現わしても妙にわざとらしかった。

 

 よって直ぐに飽きられてしまい、ついに政府による人間を狩るための検討会が開かれた。合法的に殺されてもクレームのつかない人間。健康的な死刑囚に発信機を付けて野に放ったり街中に放つ、それを狩るのである。


 狩った時の苦痛の表情や叫び声は録画されニュースで流され共有される。それらは刺激の無い人々にとって最高の喜びだった。


 2280年 坂本京介は180歳の誕生日をひとりケーキを用意し祝った。再生医療で身体の全てのパーツは変更されて見た目には25歳位にしか見えない。妻や子供達は自然死を選びとっくに他界している。


 彼は買ったばかりの銃を構えては狙いを定める。次に今年の狩の対象者リストに目を落とす。今年は15人と少し多い、対象者の顔写真と経歴を見ると大抵は殺人罪で2人以上の殺人や殺人と強姦などだ。

 

 あと1人は放火魔、国家転覆罪も1人いる。確か昨年、政府を相手に国会議事堂に爆弾を仕掛けて3人が犠牲になったニュースが記憶に新しいが、その犯人だった男だ。名前は龍ヶ崎琢磨。マザーAIの破壊、永遠の命を守る法案廃止を目指し、過去の人間が全て采配する状態に戻すことを公約に掲げてクーデターを起こしている。


 新再生党とかいう名前だった。相手に不足は無い。全員死に値する罪のようである。


「明日が楽しみだ」


 今回の場所は富士の樹海が狩場になるみたいだ。朝9時に青木ヶ原樹海の中心でターゲットは解放される。彼らは首に外そうとすると即座に爆発する発信機を付けている。また、彼らには伝えられていないが48時間すれば自動的に爆発し、頭蓋骨が破裂するのでどちらにしても生き延びることは出来ない。


 今回の狩のために樹海の周囲は高圧電流が流れる電線を張り巡らせているので触れただけでバラバラになるだろう。これで逃げ場もない。


 5月1日(火) 樹海の中心に運ばれた檻のドアが自動で開く。檻の前には1人一丁の拳銃が用意されている。彼らにも武器がないとつまらないとの声に数年前からこうなっている。


 15人はゆっくり銃を確認し、弾が装填されているか安全レバーの外し方などを試してみる。


 彼らは全員上下ブルーの服を着せられているので森ではよく目立つ。すると一発の銃声がこだまし、早速1人の囚人が背中から撃ち抜かれ倒れる。


 まだ息はあるが肺を撃ち抜かれて息が苦しそうだ。残る14人は猛然と森を走り始めた。すると周りから一斉に弾丸の雨が降る。


 一気に3人が頭を撃ち抜かれて絶滅する。坂本京介は森の中で大木に体を隠しながら正確に狙いを定めジグザグに走る囚人の頭を撃ち抜く。


 散らばった囚人達も反撃し始める。木を掠め《かすめ》て京介の右袖にあたる。


「なかなかやってくれる」


「そうこなくちゃ」


 森の中はカメラが至る所に付いているので囚人の姿勢や行動も腕についているスクリーンでつぶさに観察出来る。


 また、京介達、狩人は銃弾が貫通しないヘルメットを着用し身体には防弾服を着用しているので安全だ。


 いつの間にか背後に気配を感じた。


早いっ


 囚人12号、自衛隊で5人惨殺したサイコパスだ。持っている銃で至近距離から3発身体に撃ち込まれた。防弾服を着ていても相当な衝撃である。


「さすがだな」


 囚人12号は後ろから京介の腕を羽交締めにし左手に持った銃をヘルメットが唯一カバーしていないあごに当てる。


「出口はどこだ案内しろ」


 絶対絶命の状態になる。

しかし、それは全て森に設置してあるカメラに撮られているため中央監視室の担当者は囚人12号の首に付いている起爆装置の遠隔スイッチを簡単に押した。

((ボンッ))


囚人12号の首から上は見事に破裂し、辺りに脳味噌が飛び散る。


京介「おーっ、これが見たかったんだ」


「久しぶりに見れたなー」


「あははは、俺も血まみれだな」


 京介は捕らえられていたのも忘れて興奮していた。ヘルメットに脳髄の液体がべっとりと付着している。


 このように、万一狩人が完全に不利な状態になっても中央監視室から手助けしてくれるので安全だ。


 京介は直ぐに残りのターゲットを探すべく左腕についてる画面を見ると囚人は残り2人となっている。


「あっという間だな、急がないと」


 京介は西南の方向にいるターゲットを見つけるべく走った。すると向かう先でまたしても((ボンッ))と言う音が聞こえた。


「間に合わなかったか」


京介は走るのを止めて歩き始めた。

大きな岩の裏から倒れた男の足が見える。

岩の裏に回り、倒れていた男をスキャンすると龍ヶ崎琢磨だった。


 首から上が無くなっているので確実に絶命したであろう。


 背の低い狩人が龍ヶ崎が倒れた近くにいた。名前をスキャンすると前田修弥しゅうやと名前が出る。


修弥「どうだった今日の狩は」


京介「楽しかったが、あっという間だったな」


修弥「確かに、もう少し囚人にも武器持たせないと直ぐ終わっちまう」


京介「そうかもしれん」


「画面観ると最後の1人もやられたみたいだし、

今日はこれで終わりだ」


「どうですか、これから食事でも」


「こんな辛気臭い森とっとと出ようぜ」


修弥「いや、俺は死体の片付けを手伝ってから帰るから」


京介「そうか、そんなのAIロボットがやるのに」


「じゃ、また」


京介は変な奴だと思ったが戦場を後にした。 


 一方修弥はカメラがこの場所は死角になっているのを知っているので小型スコップで穴を掘り、草むらに隠してあったボックスを埋めるとあたりを見回してからその場を立ち去った。






















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